第257話 ゴブリン一郎と3匹のゴブリン
※ 以下ゴブリン語でお送りいたします。
「ワレ、けったいな服着とるが、どこの者じゃい!」
3人組の一番大柄なゴブリンが、ゴブリン一郎に話し掛けてきた。
なお、喧嘩を売っているように聞こえるが、ゴブリン界隈ではこれが標準語なのでただの挨拶である。
「なんや、お前ら。俺はただのアウトローやで」
ゴブリン一郎が、ちょっとだけ気障っぽく言い返した。
「「「…………」」」
ゴブリン一郎の返答に3人のゴブリンが顔をしかめる。そして、ゴブリン一郎を無視して円陣を組んだ。
「なあ、アウトローってなんや?」
「ワシに聞いても知らんがな」
「分からねーなら、聞くか無視するかしたらええやろ」
「……どっちがええ?」
「自分で考えろや」
3人は小声で話しているけど、ゴブリン一郎に丸聞こえだった。
「それで、そのアウトローが何しとるんや?」
どうやら大柄なゴブリンは、分からない事は無視する性格だったらしい。
「釣りや」
その返答に、釣りを知らない3人のゴブリンがまた円陣を組もうとした。
「説明してやるから、同じネタを使ってんじゃねえよ!」
「お、おう……説明しろや」
ゴブリン一郎は「面倒くさいやっちゃなぁ」と思ったけど、せっかくの休暇なのに周りでウロチョロされるのが嫌だったので、釣りについて説明した。
「おうおうおう! ってことは戦わなくても、その棒の先っぽに糸垂らすだけで、ブツが手に入るんか⁉」
ゴブリン一郎の説明に、ゴブリンたちが驚く。
なお、ブツと言っても麻薬とかではなく魚の事。
「そうやけど、お前ら静かにしろや。魚が逃げるやろが!」
ゴブリン一郎が大声をだす。その声に魚が逃げた。
「なあ、俺ら見物しててもええか?」
「静かにするなら、ええぞ」
こうしてゴブリン一郎の釣りを、3人のゴブリンが見学する事になった。
一度逃げた魚だったが暫くすると戻ってきた。そして、ゴブリン一郎の垂らした釣り針にヒットする。
釣り竿が重くなってゴブリン一郎が竿を上げると、30cmほどのマスが釣れた。
「「「おおー。すげー!」」」
ギャラリーの声に、ゴブリン一郎がドヤ顔を浮かべた。
ゴブリン一郎がギャアギャア騒ぐゴブリンたちを無視して、バケツに魚を入れる。そして、次の獲物を取るべくもう一度釣り糸を湖に垂らした。
以前のゴブリン一郎だったら自慢していただろう。だけど今の彼は、自分で口にしたアウトローという単語が気に入っていた。
なお、ゴブリン一郎もアウトローがどんな生き方なのか知らず、テキトー。
深い森の中の湖。普段釣り人など居ない湖の魚はスレておらず、ゴブリン一郎が次々と魚を釣り上げた。
「なあ、このブツどうするんや?」
バケツの中に入っている5匹の魚に、腹を空かせたゴブリンが尋ねた。
「もちろん食うに決まっとるやろが。だけど、俺は2匹で十分だから、残りはお前らにやるぞ」
その返答に、3人のゴブリンが目を輝かせた。
「オイ、テメエ……良いヤツだな」
「この恩は一生忘れねえぞ、この野郎……」
「ありがたく食ってやるよ。ありがてえな、馬鹿野郎!」
言葉遣いは喧嘩腰だが、3人のゴブリンたちは獲物が取れず、彷徨っている最中だったので、ゴブリン一郎に感謝した。
さっそく焼いて食べようと、ゴブリンたちが枯れ枝を集める。
一応、ゴブリンたちも淡水魚の生魚を食べると、腹を壊す事は知っていた。だが、その原因が寄生虫によるものだとは知らない。
「ちょいと待てや!」
「何やワレ!」
ゴブリンたちがそのまま焼こうとするのを、ゴブリン一郎が止めた。
「
「えぐらんでも、食えるやろが!」
「馬鹿野郎、えぐって食うのが美味いんやろが!」
会話の内容は恐ろしいが、魚の内臓処理の話をしているだけ。
ゴブリンたちは今すぐ食べたかったが、魚を釣ったのはゴブリン一郎。
我儘を言ったら食べさせてもらえないかもと、彼の命令に従った。
ゴブリン一郎が器用に魚の腹を切って内臓を取り出す。
その様子を、ゴブリンたちは感心した様子で眺めていた。
「ワレ、良い物持っとるな」
ゴブリン一郎が持っている小刀に、ゴブリンの一人が話し掛けてきた。
「まあな、こいつはよく切れるぜ」
ゴブリン一郎の自慢にゴブリンたちがギャーギャー騒いでいると、それを聞き付けたのか、一匹の巨大なアリゲーターが湖畔から姿を現した。
「ギャー! 化け物だ‼」
アリゲーターの姿にゴブリンたちが慌てて逃げ出す。
アリゲーターの全長は10m。巨大な口には、どんな物でも噛み砕きそうな、鋭い歯が並んでいた。
アリゲーターは湖に近づく動物を餌としており、ゴブリンもその対象に含まれていた。
逃げたゴブリンたちを他所に、ゴブリン一郎が背中に背負った戦斧を取り出す。そして、アリゲーターに向かって戦斧を構えて睨んだ。
ゴブリンは弱者が故に、強き者が弱者を守って戦う。
且つて弱かったゴブリン一郎は、マソの怪物と戦い、仮想の斑とも戦って強くなった。
本能が弱い仲間を守れ、強敵と戦えと叫ぶ。
ゴブリン一郎が体内のマナを巡回させて身体を強化する。
体つきが膨らみ、闘争本能が激しく燃えた。
「ワレ、掛かってこいや!」
バーサーカーと化したゴブリン一郎は、アリゲーターに向かって雄叫びを上げた。
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