第246話 ステージの美女

 ステージで踊る女性は美しい人だった。

 年齢は20歳ぐらいだろう。顔つきは悪戯好きな猫の様で、ステージで目立たせるために煌びやかな化粧をしている。

 白人の多いこの地方では珍しい褐色の肌をしており、スタイルも抜群。露出度の高い服から見え隠れする肌に、観客の目は釘付けだった。


 流れる音楽は陽気なアイリッシュ系に似ているが、バイオリンがない分何かが物足りない。そして、女性の踊り方が情熱的だから、ルディは曲と踊りが合ってないと感じた。


「なあ、ルディ君。あの楽器はタイラーの村でルディ君が弾いていたのと同じじゃないかな?」

「レインズさんもそう思いやがるですか? 実は僕もそー思っていたところです」


 ルディはレインズに答えながら、村にギターを置きっぱなしにしていた事を思い出す。

 だけど、そのギターが何で見ず知らずの人の手に渡っているのか? それが謎だった。


 ギターを奏でているのは、踊っている女性と同じ褐色の肌をした17歳ぐらいの青年だった。演奏の腕はそれほどではなく、ルディのみたところ別の楽器演奏者がギターを習い始めた。そんな感じの演奏に感じた。


「アブリル姉さんは相変わらず美人だな」

「兄貴、アイツら知ってるですか?」


 ションの呟きにルディが反応すると、彼はエールをぐびっと飲んでから口を開いた。


「レス・マルヤー楽団だよ。色んなところで演奏していて、2年ぐらい前にレイングラードで演奏していたけど、大陸の反対側まで移動しているとは思わなかったな」


 どうやら、ステージで踊る女性はアブリルと言うらしい。

 そのアブリルは観客に向かって誘う様な笑みを浮かべ、より激しく踊り、汗を流していた。




『なあ、ハル。あのギターが俺のか分かるか?』


 ルディは念には念を入れて、電子頭脳でハルに連絡を入れて確認する。


『形状はマスターの物と同じです。そもそもの話、この惑星にはまだあの様なギターは存在しておりません』

『と言う事は、俺のギターで間違いないんだな』

『イエス、マスター』


 ハルとの連絡を切ってルディが考える。

 別にあのギターにはそれほど固執していない。だけど、下手な演奏は納得できなかった。

 そもそも、あのギターはフラメンコギターだ。弾き方が間違っている。

 ルディはステージが終わったら、ギターの入手経緯と演奏について一言文句を言おうと考えた。




 ステージが終わる前にナオミたちが店にきた。そして、ルディたちの近くの席に座る。

 ニーナとルイジアナは、ソラリスから購入した化粧品でメイクをしており、以前と比べて自然な感じのメイクになっていた。


「ニーナさん、ルイちゃん。当人比2倍の美人になってるですよ」

「やっぱりルディ君もそう思う? 自分でも鏡を見て驚いたわ」


 そのニーナの顔は、目じりにあったシワが消えて10歳以上若返っていた。


「ソラリスさん、ありがとうございます」

「仕様通りに処方しただけでございます」


 ルイジアナが改めてソラリスにお礼を言う。

 一方、前と違った女性たちの姿に、ニーナの3人の息子が驚いていた。


「ほ、本当に母さんか?」

「ドミニク、貴方、自分の母親の顔も忘れたの?」


 ニーナが呆れて肩を竦める。


「母さん、若いよ!」

「ありがとう。嬉しい言葉だわ」


 フランツの感想にニーナが笑ったけど、残念。笑うと目じりの小じわがチョットだけ見えた。


「ところで、カールとハクさんは?」

「髪を切りに行ってるよ」


 ションが答えると、彼女は一番見せたかった相手が居なくて残念そうだった。


「あら、そうなの? それじゃ私たちも待ちましょうか」


 話している間にステージの演奏が終わり、ルディは席を立つと舞台裏に向かった。




「チョイお邪魔するですよ」

「ここは立ち入り禁…しだ…よ……」


 ルディが楽屋代わりのテントに入ると、舞台で踊っていたアブリルと目があった。

 彼女は楽屋に入ってきたルディを追い払おうと口を開くが、ルディの顔を見て驚き、パクパクと口を動かして言葉を噤んだ。


「お前たちに聞きてー事があるです。そのギター、もしかして僕のじゃねーですか?」


 ルディが質問しても楽団の人たちは何も答えず、ルディの顔をジッと見つめていた。

 だが、ギターを演奏していた青年がバッと立ち上がり、ルディに向かって震えながら指をさした。


「か、か、か……」

「……か?」


 何をそんなに驚いているのか分からずルディが首を傾げると、青年が大声を出した。


「怪盗ルディ‼」

「……は?」


 久しぶりに聞いたそのあだ名に、ルディが目をしばたたいた。




「いやー。まさか本当に存在しているなんて思わなかったよ」


 アブリルに勧められて椅子にルディが座ると、彼女はルディの顔をジロジロ見ながらそう言った。


「どこでその名を知りやがったですか?」


 ルディの質問に、楽団の全員が納得した様子で頷いた。


「喋り方も滅茶苦茶で、聞いてた通りだ」

「聞いていた?」

「確か……ウィートとか言ってたな」

「ウィート⁉」


 久しぶりに聞いたツッコミの名人の名前を聞いて、ルディが驚きつつも、何となくギターの入手経緯が薄々と分かってきた。


「やっぱりそのギターは僕ので、ウィートからパクったですか?」

「パクったとは失礼ね。借りたのよ」

「借りたですか?」


 ルディが首を傾げていると、アブリルがギターを預かった経緯を話し始めた。

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