第241話 貴族の衣装

 市場に戻ったルディは、海産物屋のお婆さんから聞いた店に寄ったが、目当てのかんぴょうは売ってなかった。

 ルディが作ろうとしていたニシンの昆布巻は、かんぴょうで縛らなければ作れない。いや、作ろうと思えば作れるが、料理に拘るルディはかんぴょうで縛らない昆布巻は、昆布巻と認めなかった。

 そこで、ニシンの昆布巻は諦めて、大根を購入。他にも茄子やキュウリなどの野菜を買った。ちなみに、代金はナオミの支払い。


「その材料で何を作るんだ?」

「んーー。ホタテの炊き込みご飯と、ニシンと大根の煮物です。そうなると、数の子が余りやがるですね……数の子、数の子…和食ちゃうですが、アボガドサラダに入れたら、コリコリした食感が生かせる思えです」


 ルディがルディが人差し指を顎に添えて答えると、そのしぐさが面白かったのか、ナオミが口元を押さえて笑った。


「くっくっくっ。まるで主婦みたいだな」

「僕、料理するだけよ。主婦は料理、洗濯、掃除やって、子供の世話までしやがるです。それを1人で全部とか、とてもじゃねーけど僕、無理です」

「そうだな……私も出来ん」

「ししょーの前の家、思い出したけど、酷かったです」


 ルディがリフォームする前のナオミの家は、物置小屋よりも酷い人の住む家ではなかった。


「はっはっはっ。埃は隙間風が勝手に払ってくれたから、掃除は楽だったぞ」

「……笑えねえです」


 そう言って笑うナオミとは逆にルディが呆れる。

 こうして買い物を済ませた2人は白鷺亭に帰った。




 ルディたちが白鷺亭に入ると、レインズとハクが先に帰っており、1階の食堂にいた。


「レインズさん、ただいまです」

「ああ、ルディ君。おかえり」

「服は手に入ったですか?」

「何とか期限までに仕立ててくれるらしい。かなり急だったから店員が怒ってたけどな」

「それは良かったです。じゃあ、僕。ご飯の準備してくるです」


 ルディが場を離れようとしたら、ハクが引き留めた。


「ところでルディ殿は、王城に上がるときの衣装をどうするんじゃ?」

「……ん?」


 王城に上がる? 言っている意味が分からず、ルディが首を傾げた。


「何故、僕、王城へ行くですか?」

「今回の責任者じゃろ?」

「責任者は師範です」

「……ぬ? そう言えばそうじゃった」

「ハク爺の勘違い、ガチで心配になるです」


 ルディがハクの痴ほう症を心配するが、それは彼に失礼だろうとレインズとナオミが思った。


「だがのう……ルディ殿は今回の作戦の立案者じゃろ。責任を持って王太子に説明するべきじゃないのか?」


 ハクの話にルディが考える。確かに彼の言う通り、作戦だけ立てて後の事を他人に任せるのは無責任な気がする。

 もし、ルディが見た目の年齢通り若かったら、ハクの話を突っぱねた。だが、ルディの実年齢は81歳。責任の重さを知っているが故に、断るのを躊躇う。


「確かにそーですけど、僕、あまり目立ちたくねーですよ」

「そもそも、この会談は秘密裡に行われる。逆に目立ったら困るよ」


 話を聞いていたレインズが肩を竦めた。


「そー言えばそうでした。だったら、行ってやるです」


 王太子への説得と軍事同盟。その2つを成功させたら、王太子のレインズへの株が上がる。もしかしたらデッドフォレスト領にも何か恩恵があるかもしれない。

 税金がもっと安くなる? そんな事を考えてルディは了承した。


「それで、ししょーは行くですか?」

「そうだなぁ……本音を言うと行きたくないが、お前が付いて来て欲しいなら行くよ」

「ししょーはネームバリューだけで相手がビビるから、来てほしいです」

「分かった」


 酷い話だけど確かに効果はあるだろう。話を聞いていたレインズの顔が引き攣った。




 ルディも王城へ行くことが決まって、最初の問題に戻る。


「それで衣装ですか」

「そうじゃ。その格好で城に行ったら、城門で止められるぞい」


 ハクに指摘されて、ルディはロングコートの裾を掴んだ。


「この服、結構素材良いですよ?」


 実際にルディの着ている服は、強化コーティングと衝撃吸収シートが施されて丈夫に出来ている。ついでに抗菌仕様。この惑星では、アーティファクトに近い存在だった。


「生地の問題じゃなく、装飾品と格式の問題じゃ」

「そっちですか……でも、どんな服が良いのか分からぬです」

シュミーズ肌着は着ているか?」

「着てるです」


 レインズの質問にルディが答える。


「だったら、上はチュニック上衣シュールコー外衣だな。今着ているチュニックを隠すコートは相応しくない」

「ふむふむです」

「下は……足に何を付けてるんだ?」


 レインズがルディの付けているレガースを見て首を傾げる。


「レガースです。これで蹴っ飛ばしても、脚痛くねーです」

「……鎧か何かかな? それは外した方が良い」

「結構気に入ってるのに残念です」

「足はブレーズボンショース靴下。それと靴だけど……結構良い靴を履いてるんだな」

「この靴、ずっと履いてても水虫ならねーし、臭くもならねーです」

「それは羨ましい。軍に所属していた頃は、ずっと履きっぱなしだったから、水虫に悩んでいたよ」

「今は治ったですか?」

「……実はまだ治ってない」


 恥かしいのかレインズが顔を背けた。


「……どんまいです」

「ゴホン! 俺の水虫はどうでもいい。最後に必要なのはマントル外套だな」

「コートの上にマント羽織るですか? 夏は暑そうですね」

「夏だと公式の場以外だと脱いでるが、この季節は着るのが普通だ」

「色々と大変です」

「まあな。後は装飾品だけど、地味な装飾が必要だな。だけど、ルディ君は俺の付き添いで、貴族でもないから家紋はいらない」

「何も付けないのは?」

「それは下働きぐらいしか居ないから、却下」


 レインズの話を聞き終えて、ルディがウンウンと頷く。


「大体理解したです。地味でかっけーデザインの服、作ってみるです」


 ルディはそう言うと、料理の支度に向かった。

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