第231話 傭兵団との契約
馬鹿と一蹴されてもルディは怒らず、逆に笑みを浮かべた。
「つまり、それだけ反戦派への効果でけーですね」
「奈落、これはお前の考えか?」
呆れたスタンがナオミに視線を向けると、彼女は頭を横に振って否定した。
「いや、ルディが考えた」
「だったら、お前か親の教育が悪かったんだろうな。現実が見えてない」
スタンが交渉を終わらせようとしたところで、カールが横から口を挟んだ。
「スタン。俺も最初に作戦を聞いた時は無茶だと思った。だが、考えれば考えるほど、あの要塞を落とす手はこれ以外に無いと思えるんだ」
そこまで言うからには、カッサンドルフには何か致命的な問題があるのかもしれない。それに、ホワイトヘッド傭兵団は、過去にカールとナオミに助けられた事があった。
それでスタンは、とりあえず話だけは聞くことにした。
「……カールと奈落に免じて、話だけは聞いてやろう」
「では耳をかっぽじって聞きやがれです」
ルディがカッサンドルフの攻略について話し始めた。
「……ひでぇ博打じゃねえか」
話を聞き終えたスタンが頭を抱えて、テーブルに突っ伏した。
彼も祖国をローランドに落とされて、いつかは国を取り戻したいという気持ちは持っている。
だが、今の彼は80人近い傭兵の仲間を従えている。自分の行動1つで多くの仲間が共に死ぬ。
傭兵団は命を張っているが故に、実際は堅実な職業だ。とてもではないが博打なんて出来なかった。
それでもルディの作戦は、スタンにとって魅力的に映った。
成功すれば高い名声を得られて、ハルビニア国からも莫大な報酬を得られるだろう。
そして何よりも、ローランド国に一泡吹かせられる。これは故郷を奪われた傭兵団全員の願望だった。
しばらく頭を抱えていたスタンだったが、ずっとこうしても仕方がない。抱えた頭を上げると、カールに話し掛けた。
「用意はそっちで全部するんだよな」
頷くルディがを見て、カールが頷く。
「もちろんだ」
「だったら、ローランド金貨2000枚。全額前金でだ」
「それは高いぜ」
「それだけギャンブル性の高い作戦に参加するんだ。これぐらい貰わないと、うちの全員が納得しない」
もし、失敗したら全員の命が無い。それを考えると、スタンの話は納得できる。だが、今のカールにそれだけの手持ちはなかった。
「ガンダルギア金貨でも良いですか?」
ルディが手を上げてそう言うと、スタンが目を大きく開いた。。
「ガンダルギア金貨か……珍しい物を持ってるな」
「使い道ねーから、腐りかけてるです」
「羨ましい話だ。ガンダルギア金貨なら650枚だぞ」
「んー今の手持ちは、30枚ぐらいしかねーから。2、3日待ちやがれでいーですか?」
「本当に払えるのかよ……」
信用していない目でスタンがジロッと睨むと、ルディは鞄から財布を取り出して、1枚の金貨をスタンに放り投げた。
「……本当にガンダルギア金貨だな」
金の含有率が高いガンダルギア金貨は、そうそう手に入る物ではない。
久しぶりに目にした金貨に、スタンが眉をひそめた。
「……分かった、分かった。ほんっとーは、こんな仕事やりたくないが、金を払うなら受けてやるよ」
そう言うスタンだが、黒剣のカールと奈落の魔女が揃っているなら、このギャンブルは勝てると思っていた。
「助かったよ。お前が居なかったら、この作戦は実行出来なかったからな」
「はっ、よく言うぜ。俺じゃなくても、何か他の手段を考えていただろ」
スタンはナオミを鼻で笑って、作戦を考えたルディを見る。
彼は何も言わず、ただ微笑むだけだった。
ナオミが魔法を解くと、周りの声が聞こえてきた。
スタンが椅子から立ち上がる。そして、仲間に向かって大声で叫び始めた。
「お前ら、ガンダルギア金貨650枚の仕事だ!」
そう言って、ガンダルギア金貨を掲げた。
『おおーー!』
ガンダルギア金貨に傭兵たちの目が輝く。
「危険だし博打みたいな仕事だが、俺はそれだけの価値のある仕事だと思っている。まだ詳しく話せないが、俺たちが奪われた物を奴らから取り返せるチャンスが回ってきたぞ!」
それを聞いた傭兵たちが一斉に騒ぎ始める。彼らもスタンと同じで、ローランド国への復讐を忘れていない。
『うおぉぉぉ‼』
次第に興奮した彼らは雄たけびを上げ、拳を高く突き上げた。
「なんかすげーですね」
その様子を眺めていたルディが、ナオミに向かって話し掛ける。
「ノリと勢いというのは大事だぞ」
「まだ、半年ぐらい先ですよ?」
「……言われて見れば確かにそうだったな。それまで持つのか?」
確かに士気は大事だと思う。だが、まだ王太子との交渉もしてないのに、少し気が早いんじゃないかと2人は思った。
ルディはハルにガンダルギア金貨の作成を依頼すると、寝泊まりする客室に入った。
客室は4人部屋で、同室はドミニク、ション、フランツと一緒。
「そう言えばルディ君。あのゴブリンは元気?」
ちょっと湿気のあるベッドを、ルディがバンバン叩いて確かめていると、ルディと一緒にゴブリン一郎を捕まえたフランツが話し掛けてきた。
「一郎ですか? 今は家で勉強してるですよ」
「勉強?」
「そーです。家庭教師を付けて、アイツに言葉教えてるです」
家で留守番しているゴブリン一郎を一人では寂しかろうと、ルディはデッドフォレスト領に派遣している『なんでもお任せ春子さん』の一人、
アイリンを家に呼んで、家庭教師に任命していた。
「ゴブリンってそんなに頭が良いんだ」
「他のゴブリン知らぬ。だけど、アイツ人間の言葉理解しやがったですよ」
魔法まで使えると言ったらフランツは驚くだろう。だが、危険視される可能性も考えて、その事はあえて言わなかった。
「ルディ。厨房の使用許可が得られました」
扉がノックしてソラリスの声が聞こえてきた。
「分かった。今から行くです」
ルディはフランツとの会話を切り上げると、今晩のご飯を作りに店の厨房へ向かった。
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