第229話 ホワイトヘッド傭兵団

 白鷺亭の前に着くと、カールは全員で押しかけては迷惑だろうと、ナオミを誘って先に入る事にした。


「何故私なんだ? ニーナの方が良いだろう」

「アイツの驚く顔が見たい」


 面倒だと不満な表情を浮かべるナオミに、カールが言い返す。

 ナオミは一瞬、何のことか分からなかったが、直ぐに火傷跡が消えた自分の顔を思い出すと納得して頷いた。


「……入ろう」


 そう言うナオミの口元を見れば、笑いを堪えている様子だった。




 カールとナオミが白鷺亭の中に入る。1階は酒場で、荒くれ者の雰囲気を漂わせる大勢の客が居た。

 ナオミが店の奥のテーブル席を見る。そこには、まだ若いのに白髪の男性が眠るように目を閉じて椅子に座っていた。


 バーカウンターの中の店主がカールを見て、懐かしい客だと目を細める。だが、その後ろに立つナオミを見ても誰だか気付かず、だけどどこかで見た事があるなと首を傾げた。

 店の客も彼と同様で、カールに親し気な笑みを浮かべるが、ナオミを見て首を傾げる。

 その中をカールとナオミは奥のテーブル席まで移動する。そして、カールが目を閉じている白髪の男性に話し掛けた。


「スタン。久しぶりだな」


 スタンと呼ばれた白髪の男性が眠そうな目を開ける。

 カールを見ると、うっすらと笑みを浮かべた。


「……カールの旦那か久しぶりだな」


 スタン率いるホワイトヘッド傭兵団は、ローランドに滅ぼされた国の兵士たちが集まって作った傭兵団だった。

 リーダーのスタンは、ローランドが最初に滅ぼした国の元王子。

 一時期は奴隷だったが2年後に逃げ出して、ハルビニア国で傭兵団を結成した。

 スタンの年齢は31歳。何時も眠そうな顔を前髪で隠しているが、見た目は悪くない。

 髪の色は白髪だが、ナオミは祖国が近かったから、昔の彼を知っていた。

 その頃の彼の髪は、親譲りの漆黒の艶やかな髪だった。




「まあ座れ。それと、後ろの女性は? ……どこかで見た事があるな、はて?」


 スタンがナオミを見て首を傾げる。

 ナオミとは多くの戦場で共に戦った仲だが、それでも彼女の顔を見ても誰だが分からなかった。


「なあ、カール。私はそれほど酷い顔だったのか?」

「んー。女に向かって言う言葉じゃないが、顔よりも服装の方が酷かった」


 今のナオミの服装は、派手だが彼女の美貌を引き立たせている。

 それと、ナイキの積み荷に化粧品が入っていたので、ソラリスの指導で化粧もしてた。

 だが、ルディと会う前の彼女は化粧などせず、火傷跡は前髪で隠すだけ。服装も肌が隠れせば問題ないと、適当な服を着ていた。

 ところが、今のナオミは昔の彼女を知っていても誰だか分からないほど、美しく変貌していた。


 2人が会話している間、スタンは声で女性がナオミだと分かった。

 目を大きく広げて、信じられないといった形相を浮かべて声をだした。


「ま、まさか……お前、奈落か⁉」


 店の中に居た彼の傭兵たちは、ナオミの美貌に惚れていた。だが、スタンの声が聞こえて正体に気づくと、一斉に叫び声を上げた。




『何だってえぇぇぇぇーーーー‼』


 突然、店の中から大勢の叫び声が聞こえて、外で待っていたルディたちが驚く。

 だけど、ニーナだけは中の様子を予想していたのか、クスクスと笑っていた。


「やっぱりね。今のナオミを見たら、誰でも驚くわ」

「母さん。どういう事?」


 笑っているニーナにフランツが質問すると、彼女は肩を竦めて微笑んだ。


「女は本気になったら化けるのよ。ところでルディ君。ナオミが使っている化粧品、アレなに? すっごく良いんだけど!」


 ニーナはナオミの化粧について知りたかった。

 だが、ナオミはルディに貰った化粧品と言うだけ。本人もソラリスから使い方を教わっているだけで詳しく知らない。

 この星の貴族の間では、肌は白ければ白いほど良いとされており、肌が黒くても無理やり白く塗る風習が流行っていた。

 だが、ナオミの肌は白いけど健康的で、女性のニーナから見ても、彼女の顔と肌は魅力的に映った。


「知らぬ。ソラリスに聞きやがれです」


 ニーナにぐいっと迫られて、ルディが仰け反る。

 化粧品は洗顔ソープぐらいしか使わないルディは、ソラリスに全部投げた。


「あれはナオミに合わせたスキンケアと化粧品でございます」

「詳しく!」


 ソラリスがナオミが使用しているスキンケアと化粧品を説明する。ついでに、ルイジアナもこっそりと聞き耳を立てていた。


「肌を綺麗にする……その発想はなかった……」


 ソラリスの話を聞いたニーナとルイジアナは、衝撃を受けていた。

 化粧と言えば、地肌を白粉で隠してメイクを施す。それ以外に何もない。

 だが、ソラリスの話では、スキンケアで肌を綺麗にして、その上から地顔を引き立たせる様に化粧で美しくする。

 それは彼女たちからしてみれば、魔法以外の何物でもなかった。


「ソラリス。いや、ソラリス様! 私にもその化粧を教えてください!」

「私にも是非!」


 ルイジアナはソラリスと交代でナオミの家に来たから、まだ化粧について伝授されていなかった。

 2人から懇願されて、ソラリスがルディに視線を向けた。


「別にそのぐらいなら構わねーです」


 ルディの許可を得たソラリスが2人に向き直って口を開く。


「分かりました。今晩、ナオミをモデルにして、化粧の講習会を開きましょう」

「「やったー!」」


 ソラリスの返答に、ニーナとルイジアナが手を取り合って喜び、化粧に疎い男性陣は、そんなに喜ぶ事かと首を傾げていた。


 そうこうしている内に話が終わったのか、カールが白鷺亭から現れて全員を呼んだ。

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