第228話 王都に到着
最初、カールはレインズを貴族相手として話していたが、次第に意気投合すると親友のように仲が良くなった。
レインズの方も黒剣のカールと言えば、冒険者として大陸中に名を響かせるほどの剣士。しかも、ルディの話だと、彼はレイングラード王国の王弟という。話し掛けた時は緊張していたが、次第に彼の人柄に惚れていった。
「あはははっ。そうか、お前もルディ君に振り回されたか」
レインズが領主になった経緯を話すと、カールがゲラゲラ笑って彼の肩を叩いた。
「そう言うカール殿も?」
「もちろん。2番目の犠牲者だ」
「2番目?」
「1番目は今、俺の嫁さんと話しているアレさ」
カールがナオミに視線を向けると、レインズが納得して頷いた。
「まあ、それは置いといて。今回はハルビニアの王太子との面会の場を設けて頂き、国王に替わって礼を言わせてもらいます」
改めてカールが深々と頭を下げると、レインズも真面目な表情に変えて頷いた。
「私が出来るのは、王太子との面会までです。後はカール殿次第。ですが、私としては貴殿を応援します」
「ありがとう」
ルディたちはお互いに友好を深めると、ゆっくり歩かせた馬車に会わせて移動した。
王都では何処にローランドの密偵が居るか分からない。そして、ハルビニア国内にも戦争反対派の貴族がいる。
今回の軍事同盟は秘密裡にする必要があるため、カールたちは直前まで身分を隠すことにした。
「でもさ、俺たちも旅立つ直前に、親父が国王の弟としってビックリしたんだ」
「兄さん声が大きいよ」
歩きながらションがぼやくと、それをフランツが窘めた。
「王都に入ったらもちろん言わないよ」
ションが肩を竦める。
「そー言えば、師範が子供に黙ってる言ってたですね」
「何? ルディは親父の秘密、知ってたの?」
「師範から聞いてたです」
「だったら教えてくれても良かったのに」
「人の秘密ベラベラ喋る。自分されたら嫌な事しねーです」
「……ルディって、その辺り大人だよな」
感心した様子でションが言うと、フランツも頷いた。
「お前ら、そろそろ周りに人が居るから、そこまでにしておけ」
「「「はーい」」」
ドミニクに注意されて、ルディたちが口を閉ざした。
ルディたちの100m先では王都の街門が建っていた。その高さは数10mもあり、遠くから見ても頑丈そうに見える。
ルディはこの文明レベルで、こんなに立派な門を作ったのかと感心する。
街門の周辺には、十人もの門兵が通行人のチェックをしているが、明らかな不審者でない限り、彼らに呼び止められていなかった。
ルディたちも人の流れに続いて、街門をくぐり王都に入る。
王都に入ると、街の中は大勢の人間で溢れていた。ガヤガヤとした騒音にルディが驚いていると、レインズが話し掛けてきた。
「時間が空いたら観光でもするか?」
レインズは以前、一緒に夜の見張りをした時に、ルディが観光したいと言っていた事を覚えており、今もそう思っているのか聞いてみたかった。
「そーですね。珍しいもの一杯ありそうだから、いろいろ見てーです」
「そうか……だけど、スラムにだけは行くなよ。ルディ君でも危険だからな」
「危険と分かって行くほど馬鹿じゃねーです」
ルディの言い返しにレインズは笑った。
人込みの中を歩いていると、1人の少年がフランツと会話しているルディに近寄ってきた。
「あ、わりぃ」
少年はルディにぶつかると、そのまま通り過ぎようとする。
その直後、ルディは少し体が軽くなったと感じると、電子頭脳の高速処理を開始。世界がスローになる中、少年の襟首を掴んで引き倒した。
逃げれたと思ったら、一瞬で地面に倒されて少年が頭を打つ。
「痛ってえぇぇ。何するんだ」
ルディが頭を抱える少年の胸倉を掴む。無理やり起こすと、にっこりと笑った。
「犯罪よくねーです」
そう言って、少年が掴んでいた自分の財布を奪い返した。
この財布には、誰もが驚くガンダルギア金貨が入っていた。もし、この少年が逃げ切ったとしても、出何処を疑われて、碌な目に合わなかっただろう。
「くそ、離せ!」
「……分かったです」
ルディは捕まえた後の事を考えておらず、離せと言われたから胸倉から手を離す。
少年はまさか本当に離すとは思っておらず、転んで尻もちをついた。
「バイバーイ」
ルディは茫然としてる少年に声を掛け、周りの視線を気にせず皆の所へ戻った。
「ルディ。目立ってどうする」
「僕、悪くねーですよ」
ナオミに睨まれてルディが肩を竦める。
「田舎から上京したばかりの子供みたいに、キョロキョロ見ているから狙われるんだ」
「フランツ、僕そんなにキョロキョロ見てたですか?」
「うん。見てた」
「……こいつは失礼しやがったです。気を付けますです」
ルディが皆に謝ってこの場を去る。
その後ろ姿を盗みに失敗した少年が睨んでいた。
大通りから離れて、少し歩くと街の空気が変わった。
「王都なのに違った雰囲気ですね」
「ここは宿屋が多く、王都の外から来る者たち向けの場所だ。そして、この近くに私たちが泊る予定の白鷺亭がある」
「少しだけ治安は悪いから、ルディ君は気を付けてね」
ルディがナオミに話し掛けると、彼女とニーナが詳しく教えた。
特にニーナはルディの容姿から、犯罪者に狙われやすいと警告する。
「……外に出る時は顔隠した方が良いかもです」
「それだと逆に怪しまれるぞ」
ルディの呟にカールがツッコみを入れる。
こうして話しているうちに、ルディたちは目的の白鷺亭に到着した。
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