第227話 カール一家との再会
ハルビニア国の首都ディスカバリーの近くまで近づくと、ソラリスは人気のない場所を探して輸送機を着陸させた。
「荷物一杯あるから、レインズさんとハク爺も運びやがれです」
ルディが輸送機の倉庫から幾つもの大きな袋を担いで来ると、レインズとハクの前に袋をドスンと置いた。
「この袋は?」
「食料です。ししょー曰く、都会の食い物は腐りかけが多いから、慣れてないと腹壊すです」
ルディの話にレインズとハクがナオミを見れば、彼女はその通りだと頷いた。
この星の文明では、まだ冷凍保存の技術がない。
かなり上位の貴族や王族ならば個人の氷室を持っているが、それでも冷蔵までが限界。都会に暮らす一般家庭では、新鮮な食料など手に入らず、金が無いと腐りかけの肉や、虫の入ったパンを食べるのが普通だった。
「まあ、確かに間違っていない」
レインズとハクも彼女の意見に賛成して、目の前の袋を担いだ。
その結果、服装はまともだけど、背中にリュックを背負い、両手に荷物を持つ、ちぐはぐな一団が出来上がった。
「なんか変な格好じゃのう」
「ハク爺。嫌なら持たなくて良いですよ。その代わり、僕の飯はなしだから、他で食いやがれです」
「おっと、嫌とは言っとらんぞ。ルディ殿の飯の為なら、これぐらい軽いものじゃ。はっはっはっ」
ルディたちが外に出ると、輸送機が光学迷彩を起動して風景に溶け込んだ。
「こんな機能も付いているのか……」
消えた輸送機にレインズが呟く。
「盗難防止です」
「確かにこんなものを持ってたら貴族じゃなくて、国から没収されるな」
「レインズさんは没収しねえですか?」
「……俺は金よりも命が欲しい」
「それで正解です」
そう言ってルディが笑うと、レインズが苦笑いして肩を竦めた。
それからルディたちは街道に出ると、そのまま王都に続く街道を歩いた。
王都が近づくにつれ、街道が合流して幅が広がる。そして、王都に向かう多くの荷馬車がルディたちの脇を通り過ぎていった。
「馬車がいっぱい通りやがるです」
「ディスカバリーは人口20万の大都市です。毎日地方から食べ物を運んでこないと、あっという間に食料不足になります」
ルディはルイジアナの話を聞いて、遭難しなかったら届ける予定だった開拓惑星について考えた。
ハルが建築した拠点には、開拓惑星に移住した住民のために、政府が用意した援助物資が山ほど積んである。出来る事ならルディも彼らに食料を渡したい。だが、今は帰る方法が見つからない。
おそらく、ワープゲートの爆発は大きなニュースになるだろう。きっと依頼主の国は、彼らに新たに食料を送っているはず……。
「ルー君どうかしましたか?」
急に立ち止まったルディを心配して、ルイジアナが声を掛ける。
「何でもねーです」
ルディは彼女に向かって頭を左右に振ると、再び歩き出した。
黒塗りの馬車がルディたちの横を通り過ぎたと思ったら、急停車して御者席から見知った顔が現れた。
「ルディ!」
「兄貴!」
ルディの言う兄貴とは、カールの次男ション。
久しぶりに再会したションに、ルディが荷物を落としてブンブンと手を振った。
ションが馬車を街道脇に停めると、馬車の扉が開いてカール一家が降りて来た。
「奈落久し……」
「ナオミ!」
カールの挨拶中に、ニーナが駆け寄ってナオミを抱きしめた。
「元気そうだな」
「ええ、おかげさまでね」
ニーナがルディに向かってウインクを飛ばす。
彼女は末期の癌だったが、ルディのおかげで命を取り戻し、今ではすっかり元気になっていた。
「ルディ君、久しぶり!」
「フランツも久しぶりです。少し背が伸びやがったですか?」
カールの三男フランツは、最後に会った時よりも5cmほど身長が伸びていた。
「うん、そうかな? でもルディ君を抜いたかも」
「どんどん大きくなりやがれです」
ルディはアンチエイジングをしているため、成長期はもうちょっと先。
「ルディ君は変わってなさそうだな」
「兄者も久しぶりです」
フランツの後ろから話し掛けてきた背の高い青年は、カールの長男ドミニク。彼はカールの弟子だったので、ルディは兄弟子である彼を兄者と呼んでいた。
「兄さん。ルディ君、すごく変わっているよ」
「……そうか?」
フランツの話にドミニクが首を傾げる。
「だって、前はルディ君の体からマナを感じなかったけど、今はそうだなぁ……なんだろう、マナはあるけど、んーー未熟? あ、ごめん、失礼だったね」
「別に構わねーです。実際そのとーりだから、怒らねえです」
なかなか鋭いフランツにルディが笑い返した。
「その……ソラリスさん。お久しぶりです」
「ション様、お久しぶりでございます」
ソラリスに惚れているションがしどろもどろ挨拶をすると、彼女は両手に荷物を持ちながら深々と頭を下げた。
その際、背負ったリックから食料が落ちそうになるが、体のバランスだけで掬い上げる。
「そうだ。皆の荷物を馬車に入れよう。その方が楽でしょ」
「……そうですね。ルディ、ション様が全員の荷物を馬車で運ぶと仰ってますが、よろしいですか?」
ソラリスが会話中のルディに話し掛けると、彼は頷いて許可を出した。
「ではお願いします」
「じゃあ、荷物を持つから貸して」
「結構でございます」
ソラリスの荷物を持とうとションが手を出すが、彼女はそれを無視して一人スタスタと馬車へ歩き始めた。
そんなクールな所が良いんだよな……。無視されたションは怒らず、改めてソラリスに惚れ直していた。
「……なんか俺だけ浮いてね?」
誰も話し相手が居ないカールが呟くと、彼の前にレインズが現れて頭を下げた。
「黒剣のカール殿ですね。初めまして、デッドフォレスト領の領主、レインズ・ガーバレストです」
「アンタが新領主か……冒険者のカールだ」
カールはレインズを見て、何となく苦労していそうな御仁だと思った。
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