第226話 レインズ空を飛ぶ
「レインズ様。ルディから連絡が入りました。1週間後にカール様が王都に着くので、それに合わせて6日後にルディたちも王都に向かいます」
ソラリスから話があると聞いてレインズが執務室に招くと、彼女は1週間後に王都へ向かうと言ってきた。
「1週間後? それでは間に合わないと思うが?」
デッドフォレスト領からハルビニア国の王都まで、早馬を使っても10日は掛かる。今から急いで行っても、間に合わないだろう。
「それは大丈夫でございます」
「……そうか」
どんな移動手段で行くのか分からないが、今まで一度も嘘を吐いた事がないソラリスが言うなら問題ないだろうと、レインズが頷いた。
「それで、同行者はレインズ様とハク様で宜しいですね」
「ハクは渋っていたがな」
レインズの護衛を務めるハクは、爵位を得たばかりのレインズを心配して、護衛の数を増やすべきだと進言していた。
だが、今回の旅に同行するソラリスが兵士の訓練場に赴き、ハクの目の前で鍛錬中の兵士を全員ぶちのめし、落ちていた剣を拾ってへし折ったついでに、ハクの心もへし折った。
「全ての準備と引継ぎはこちらで用意しますので、よろしくお願いします」
ソラリスが一礼して部屋を出る。
1人になったレインズは、一抹の不安を感じていた。
ソラリスの訪問から6日後。
レインズとハクはソラリスの案内で領都を出ると、誰も居ない草原に立っていた。
「なあ、ソラリス殿。どこへ向かうのかぐらい教えてくれんか?」
人気のない場所に来て、ハクは周辺を警戒しながらソラリスに話し掛ける。
「目標ポイントまで40mでございます」
40mと言われても、目の前に広がるのは枯れ始めた草しかない。
レインズとハクが首を傾げていると、彼らの体に影が差した。それに気づいた2人が空を見上げて輸送機に気づいて武器を抜く。
「何だアレは⁉」
「TOYOHASHI社製GX63/2ロードワークでございます」
慌てて質問するレインズにソラリスが感情のない声で答える。
頭の固いソラリスは馬鹿正直に輸送機の正式名称を言ったが、すぐにハ
ルから連絡が入って警告を喰らった。
「とよ……なんだって?」
「……失礼。ルディが遺跡で見つけた空を飛ぶ船でございます」
「なるほど……」
ナオミの家の近くには、狂暴な獣の住む遺跡がある。
レインズとハクは、その遺跡であれを手に入れたのだろうと思った。
3人の前で輸送機は着陸すると、ハッチが開いて中からルディが顔を出した。
「レインズさん、ハク爺。久しぶりです」
ルディの顔を見て、ようやく2人もほっとする。
「ルディ君。久しぶり。それにしても、凄い物を手に入れたな」
「たまたまです。それよりも早く乗りやがれです。とっとと王都に行って要件片付けてやろうです」
「そうだな。カール殿も待っているだろうから急ごう」
ソラリスを先頭に、レインズとハクが輸送機に乗りこんだ。
「ルディ殿、前よりも強くなったかな?」
ハクがルディの様子に気づいて首を傾げ、質問してきた。
「さすがハク爺ですね。僕、魔法を使えるようになったですよ」
「ほうほう……そういえば前に会った時は、理由は知らんが使えなかったのう。なるほど、なるほど。そいつは良かった」
ハクはそう言うと、まるで孫を労わるようにルディの頭を撫でた。
「ありがとうです」
ルディもハクの優しさに、嫌がらず微笑んだ。
操縦をソラリスに任せて、輸送機の客室に全員が集まった。
「レインズ、ハク。久しぶりだな」
客室で待っていたナオミが話し掛けると、レインズとハクが頭を下げた。
「奈落様も元気そうで」
「おかげさまでな」
ナオミはレインズに微笑み、席へ座れと促した。
『では発進。予定では到着まで2時間でございます』
2人が座って見た事のない装飾品を眺めていると、この場に居ないソラリスの声が聞こえて驚いた。そして、輸送機が浮かぶのを窓から見て、さらに驚いた。
「初めてこれに乗ると、皆同じ反応をするから面白いな」
そう言ってナオミが笑いを堪えていると、ルディがジト目で彼女を見た。
「僕、知る中で、一番はしゃいだのししょーですよ」
「ゴホン……そうだったかな?」
ナオミが咳払いをして顔を背ける。
「そーです。あの時はあまりのはしゃぎっぷりに、呆れたです」
ナオミとルディが会話している側では、レインズとハクが窓から外の様子を眺めながら話をしていた。
「……特別な移動手段があると思っていたけど、俺の予想を遥か斜めに超えていたな」
「レインズ様。長く生きていると、不思議な出来事は多いですぞ。ですが、これは儂でも驚くのう。このまま天国に行きそうじゃ」
ハクがレインズの緊張を解そうと冗談を言う。全員がシャレにならないと思った。
「2週間の旅がたった2時間か……ルディ君。もしかして君は途中で帰ったのではなく、エルフの里まで行ったのか?」
飛ぶことに慣れて少し落ち着いたレインズの質問に、ルディが首を傾げた。
「そーですよ。あれ、言ってなかったですか?」
「聞いてない。それで、エルフの里はどんな感じだった?」
「ルイちゃんみたいな顔の人がいっぱい居やがったです」
ルディの返答に、ルイジアナだけでなく全員が苦笑いを浮かべた。
「暇だから、その時の話をしてやろうです」
こうしてルディたちを載せた輸送機は空を飛び、あっという間にハルビニア国の首都、ディスカバリーに到着した。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます