第221話 魔法の授業の開始

 ルディたちが家に帰ってから数日が過ぎた。

 だが、カールの家族が王都に着くまで、まだまだ時間がある。

 このままのんびりとイージーライフを満喫してもよかったが、そんなある日、ナオミがルディを見ると、彼の体からマナが漏れていた。


「……ん? ルディ。体からマナが溢れているけど、脳のバッテリーにマナが溜まったのか?」

「へ? チョ、チョット待ちやがれです」


 ルディは普段と体調が変わらず気にしていなかった。だが、ナオミからの指摘に、慌てて左目のインプラントをマナグラフモードに切り替えた。

 すると、ルディの体全体にマナが溜まっていて驚いた。ついでに、電子頭脳に追加したマナバッテリーを確認すると、バッテリーの充電量は100%になっていた。


「全然気が付かねーかったです。どーなってるですか?」


 2人で悩んでいると、ナオミのスマートフォンから着信音が鳴った。

 ナオミがスマートフォンの画面を見れば、ハルからで応答する。



「ハル、どうした?」

『マスターの体について、私からの見解があります』

『何だ?』


 スマートフォンからルディの声がして視線を向ければ、彼は自分のこめかみをツンツンと叩いていた。

 どうやら、ハルはナオミのスマートフォンと、ルディの電子頭脳の両方に話し掛けてきたらしい。


『マスターが惑星へ降下する前に投薬した、最初のワクチンの効果がそろそろ切れる頃です。体内にマナが増えた原因はそれでしょう』

『あーなるほど。後で別のワクチンを打ったけど、最初のワクチンがまだ体に残っていたんだな』

『イエス、マスター』

「と言う事は、ルディも魔法が使えるようになったのか?」

『魔法が使える条件は満たしました』

『やったぜ!』


 ハルの返答に、ルディが両手を掲げてガッツポーズ。だが、ハルの話には続きがあった。


『ただし、まだ下位マナニューロンが未発達のままなので、マナ使用量の多い魔法は使えません』

『……それがあったな』


 ルディがガッツポーズから急落して、しょぼんと落ち込んだ。


「確か薬でどうにかする話だったはずだが?」

『既に投薬をして増やしています。しかし、脊髄は下位マナニューロンの他にも、下位運動ニューロンの神経が張り巡らされてるため、急な増加は運動障害が発生する可能性があるため調整しています』

「私もその考えに賛成だ。魔法も最初から強力なのを使うと、障害が起こる危険がある。最初は小さな魔法の授業から始めよう」

『これでやっと、師匠から教わる事ができるな』


 ルディがナオミに頭を下げる。だが、彼女はそれに答えず、別の事を考えていた。


「……今日、初めてお前の電子頭脳の会話を聞いたが、普通に話しているんだな」


 ナオミがそう言うと、ルディがころころと笑った。


『師匠の反応が面白かったからね』

「覚えているぞ。いつでも直せるけど、ノリでそのままにしていただろ」

『これでも最初に会った時と比べれば、少しは直したよ』

「確かに、最初は話がつっかえていたからな」

『俺の言葉遣いの文句は、最初におかしな言語設定をしたハルに言ってくれ』

『こちらもまさか、マスターが降下した翌日に、ナオミと遭遇して同居するとは計算できませんでした』


 ハルの話に、2人は不思議な縁があるもんだと笑っていた。




「では、まずは体内のマナを感じる事から始めようか」


 魔法を使えるようになったルディは、ナオミから指導を受けるために外へ出た。

 客室で書物を読んでいたルイジアナも、ナオミがルディに魔法を教えると聞いて興味が湧き、ゴブリン一郎と授業の様子を見学していた。

 ちなみに、ゴブリン一郎は皆が集まっているから一緒に居るだけ。魔法に興味はない。


「マナを感じるですか? すでに見えているですよ」

「それは見えているだけで、感じているのとは違う。感じるというのは、こういう事だ」


 そう言うと、ナオミが自身のマナをルディに放った。


「……ししょー、今何かしたですか?」

「……そうか。お前の上位マナニューロンは普通と違っていたな」


 平然とするルディに、ナオミがこめかみを押さえてため息を吐く。

 本来なら、ナオミのマナでルディの上位マナニューロンを刺激させようとした。だが、彼の電子頭脳は外部からのマナを弾いて保護する代償に、マナを感じる事ができなかった。


「それなら直接伝えるしかないか。私の手を握ってみろ」


 ナオミが伸ばした手を、ルディがドキドキして握る。


「では流すぞ」


 ナオミがマナを流した瞬間、ルディが後ろに吹っ飛んだ。


「うわぁぁ‼!」

「馬鹿、離せ!」


 しかも、ルディは飛ばされてもナオミの手を離さず、彼女も引っ張られて2人一緒に地面を転げ回った。


「ぐぎゃぎゃぎゃぎゃ(ぎゃははははは)」


 その様子にルイジアナが心配し、ゴブリン一郎が腹を抱えて笑っていた。


「痛てて……お前、わざと手を離さなかっただろう……」

「わざとちげーです。ししょー握れって言ったです……それよりも、ししょー重もてーから、どきやがれです」

「バカ! 重たいは余計だ、これでもBMIとやらは標準以下だぞ!」


 ナオミの下になったルディが言い返すと、ナオミは馬乗りになって、ルディのほっぺを摘まみぐにぐにと引っ張った。


ひはい、ひはい痛い、痛い


 ルイジアナは前途多難だなぁと思いながら、その2人の様子を見ていた。

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