第222話 45年ぶり

「それでマナは感じ取ったか?」


 ナオミが立ち上がり服に付いた埃を払って尋ねると、ルディが口をポカーンと開けて彼女の顔を見返した。


「あの一瞬で感じろ言うのは、無茶ぶりです」


 ルディの返答にナオミが顔をしかめる。

 彼女の考えでは、直接マナをルディに注ぎ込んで感じさせるつもりだった。だが、如何せん。彼女のマナは強力……いや、暴力過ぎた。

 一応、彼女も手加減はしている。しかし、普通にマナを体外に放つだけで一般人をひれ伏させるのに、直接注ぎ込んだらどんな魔法使いだってひとたまりもなかった。


「そうだ、良い案を思い付いたぞ」

「嫌な予感しかしねーです」

「ルディが飛ぶのが悪いんだ。木に寄り掛かれ。それなら飛ばされない」

「死にたくねーから、嫌です!」


 ルディはどう考えても、背後の木ごと飛ばされる未来しか見えなかった。




「あのー。良いですか?」


 2人の様子があまりに酷いかったので、何とかしようとルイジアナが手を上げた。


「なんだ?」

「私がルー君にマナを注ぎましょうか?」

「……なんだと⁉」


 ルイジアナの話にナオミが睨み返す。

 彼女はルディから師匠と呼ばれているけど、今まで師匠らしい事を全然していない。それが大変申し訳なく、魔法を教えられる今日をずっと楽しみにしていた。

 それを邪魔しようとするのか、このエルフは⁉


「ひっ⁉」


 睨まれると同時にナオミのマナを浴びて、ルイジアナは理由が分からず悲鳴を上げた。


「ししょー。何で切れてるですか?」

「いや、切れてない」


 ルディから突っ込まれてナオミが冷静になる。そして、このまま何度も吹っ飛ばしたら、ルディが魔法を嫌いになるかも知れないと考え、ルイジアナに任せる事にした。




「それでは少しずつマナを流すので、感じたら教えてください」

「分かったです」


 ナオミと交代したルイジアナがルディの手を握って、マナを少しづつ流し込む。

 ルディはマナを注がれても感じなかったが、次第に体が熱くなってきた。


「ルイちゃん、ちょっと止めて欲しいです」

「マナを感じましたか?」


 ルイジアナが尋ねると、ルディが頭をブンブンと左右に振った。


「ししょー、ししょー。チョット良いですか?」

「どうした?」


 ルディはルイジアナの手を離してナオミを呼ぶと、庭の隅っこへ移動する。そして、こそこそとささやいた。


「マナって情欲的な効果ありやがるですか?」

「いや、そんな物ないぞ」


 言っている事が分からず、ナオミが首を傾げる。


「45年ぶりに勃起したです」


 そう言った途端、ナオミの拳がルディの頭に振り下ろされた。


「痛ってぇぇぇ‼」

「な、何を考えているんだ!」

「何も考えてねーです! これ奇跡ですよ。僕、諦めてたんですから‼」

「だからって女に相談するな」

「仕方がねーです。相談できるのししょーしかいねーです」

「……分かった。とりあえず落ち着こう」

「そーですね……落ち着け、落ち着け…やべえ、元に戻らねーです」


 ナオミが頭を抱えていると、様子を見に来たルイジアナが話し掛けてきた。


「あのーどうかしましたか?」

「いや、何でもない。魔法の訓練は一旦中止だ」

「……はぁ」


 ルイジアナは何かやらかしたのかと心配するが、ルディとナオミは彼女をその場に置いて、急いで地下室に向かった。




『結論から言うと、マスターの電子頭脳に異常が見られます』


 地下に降りたルディは、直ぐにCTスキャンで電子頭脳を調べた結果、異常が見つかった。


「どういう事だ?」


 ナオミの質問にハルが説明する。


『人間の脳の表層には大脳皮質という、知覚、随意運動、思考、推理、記憶など、脳の高次機能を司る部分があります。そして、電子頭脳は大脳皮質の一部増幅させる機能が付いています。大脳皮質には、性欲を抑制する機能があるのですが、どうやら外部からのマナにより、性欲のコントロールがエラーを起こしているようです』

「ちょっと待ちやがれです。そもそも僕、性欲を抑制された遺伝子から生まれたから、元から性欲ねーですよ」


 ルディが反論すると、それをハルが否定した。


『マスターは性欲が無いのではありません。大脳皮質の抑制が普通の人間と比べて強いため性欲を意識できないだけです』

「だけど、電子頭脳が壊れたから、性欲が現れたのか……」


 ナオミの発言すると、これもハルが否定した。


『壊れたのではありません。外部のマナによる刺激に耐えられなかっただけです』

「どっちも同じだろ。それでマナを注がれても勃……いや、興奮しない方法はあるのか?」

「チョッ! ししょー待ちやがれです。せっかく僕、子供作れるようになったですよ。それを元に戻す、酷でぇです」

「だったら、お前は魔法を使うたびに、下半身をおっ立てるのか?」

「うっ!」


 それを言われたらぐうの音も言えず、ルディが肩をガックリと落とした。


『……さきほどの回答ですが、電子頭脳のOSに修正パッチを当てるだけで、対応可能です』

「よし、直ぐにやってくれ。ルディも文句ないな!」

「勃起して魔法するの、さすがに恥かしいですよ……」


 ルディは悲しい顔をして頷く。


「ところでさっきは聞きそびれたが、45年前に、その……何で立ったんだ?」

「ああ……それですか? 初めて宙賊を殺した時です」


 ルディはそう答えると、パッチをダウンロードしてOSを更新した。

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