第210話 デッドフォレスト領へ

 ルディたちは3日掛けて雪の大森林の外まで移動すると、そこまで案内してくれたアクセルと別れて荒野を歩いていた。

 北の大地は南と比べて冬の季節が長く、降水量もそれほどないため、川のない地域では植物の生長が遅くなり、土地が荒廃しやすかった。


「ししょー、枯れた土地って、マナで豊かに出来ねーんですか?」


 どこまでも広がる無人の荒野を眺めながら、ルディがナオミに質問する。


「マナはそんな便利な物じゃない。もしそんな事が出来たら、目の前の荒野なんてないだろう」

「でも雪の大森林は緑豊かです」

「あそこは水が豊富なのと、エルフの努力じゃないのか?」


 ナオミが視線をルイジアナに向けると、彼女はその通りだと頷いた。


「言い伝えですと、エルフが暮らす前からあの大森林は存在していましたが、広さは今の半分ぐらいだったと聞いています。その後で祖先たちが800年掛けて今の広さにしたと聞いてます」

「自然と共に生きようとする、エルフらしい良い文化ですね」

「はい。ありがとうございます」


 まるで自分の事を褒められたかの様に、ルイジアナが微笑んだ。

 こうして、ルディたちが会話をしながら歩いていると、輸送機が空から現れてルディたちを回収して、再び空へと飛び去った。




「ところでルディ。これからどうするんだ?」


 ルディが輸送機の操縦を自動操縦に切り替えて客室に入ると、彼を待っていたナオミから質問が飛んだ。


「実は何も考えてねーです」


 その返答に、ナオミとルイジアナがズッコケる。


「だけど、開戦間際に軍事同盟を結んでも、ローランドの戦力は西に傾いて一気にレイングラード滅ぼす可能性あるです。逆に早すぎても、ハルビニアの王太子まだ国王になってねーから、同盟の邪魔、入ると思いやがれです」

「確かにその通りだな。特にハルビニアの王宮には、ローランドの間者や工作員が大勢潜んでいるだろう」

「私もそう思います」


 ルディの考えにナオミが意見すると、王宮で暮らしていたルイジアナも彼女に同意した。


「どこでも政治の世界は権謀術数が渦巻いてるですねぇ」

「自分が求める理想の国を作りたかったら、権力は絶対に必要だからな」


 呆れるルディにナオミが肩を竦める。


「その理想の国がどんなのか知らねーけど、権力争いやりすぎて理想の国家像が歪んじゃ意味ねーです」


 ルディの返答に2人が苦笑いを浮かべた。




「一番てっとり早いのは、師範を無視して僕とルイちゃんがハルビニアの王宮に乗り込んで、王子様に会う方法です。だけど、それはさすがに無茶だし、僕も目立ちたくねーから却下です」


 その案はさすがに無茶苦茶過ぎると2人が頷く。


「だけど、王子様には師範が来ることを事前に知らせて、ある程度の下準備が必要です。戴冠後直ぐに同盟を結ばないと、1、2、3か月後? 戦争準備に3カ月はギリギリだと思うです」


 兵士の輸送手段が徒歩しかない世界では、移動だけでも時間が掛かる。

 前にレインズが王都からデッドフォレスト領まで2週間掛かったと聞いたルディは、少人数でそれだけ時間が掛かるなら、軍隊の移動だと王都からデッドフォレスト領まで来るのに、1カ月は必要だと予想した。


「私は軍隊について詳しくないが、お前の意見には賛成だ。それでどうする?」


 ナオミに促されて、ルディは今思い付いた、自分の考えを話す。


「何でレイングラードの王様は、師範を直接ハルビニアのお城へ向かわせずに、デッドフォレスト領へ送ったのか考えたです」

「確かに同盟を結ぼうとしたら、わざわざデッドフォレスト領を通る必要はないですね」


 ルイジアナの言う通り、ローランド国とハルビニア国の間に大きな大河は流れているけど、その大河には1本の大きな橋が掛けられており、人の行き来は盛んだった。だから、ぐるっと遠回りして、デッドフォレスト領を通る必要はない。


「おそらくレイングラードの王様も、師範をすぐにハルビニアのお城へ行かせたら、交渉が失敗すると思ったですかね?」

「なるほど、その考えは一理ある」


 ナオミが頷きルディがさらに話を続ける。


「レイングラードの王様は、ハルビニアがローランドに侵攻するなら、川を渡った先に土地があるデッドフォレスト領からだと、予想している思うです。そこで、師範がどこまで話したのかは知らねーですけど、領主のクソガキ…えっと名前は何でしたっけ?」

「アルフレッドだ」

「そーそー虫の餌製造機、そんな名前だったです。そろそろ死んだですかね?」

「そうだな。時期的に虫が成虫になるころだから、喰われて死んだだろうな」


 ルイジアナも前領主の息子アルフレッドが犯した、犯罪と処刑について聞いていたので、死に方は哀れに思うが、同情はしていない。


「まあ、そいつの事はどーでも良いです。話を戻すと、師範の家族も話のネタに、前の領主の息子と関わった事ぐらいは、話していると思うです」

「カールとニーナはベラベラ喋る性格じゃないが、3人も息子が居るんだから誰かが話すかもな」

「別に僕もそれぐらいじゃ口封じなんてしねーし、若い頃は深く考えずに自分の経験を自慢しやがるものです」


 ルディの実年齢を知らないルイジアナが、ツッコみそうになるのを押さる。


「さらに、ししょーもニーナさんと電話で、領主がレインズさんに替わったって話したですね?」

「したよ」


 ルディの確認にナオミが正直に答える。

 彼女の考えでは、秘密主義のルディが関わっているとはいえ、自身も関係した話だから、別に誰かに何を言おうと、文句を言われる筋合いはない。


「と言う事で、領主が替わったのを聞いたレイングラードの王様、レインズさんの経歴色々と調べたはずです。だって、最前線になりうる領地の領主の人となり調べるの当然です」

「……ふむ」


 何となくルディの話が見えてきたナオミが頷き、続きを促す。


「レインズさんは元近衛騎士で王子様の側近でした。そこで王様は師範をレインズさんに会わせて、レインズさんを窓口に王子様と裏で話を進めつつ、最前線となるかもしれない、デッドフォレスト領の守備を固めさせようと、計画してるんじゃねーかなと考えたです」

「なるほど、なかなか鋭い洞察だな。私も同じ意見だし、もし違っていたとしても問題ない」


 ルディの話を聞き終えたナオミが微笑むと、ルディが肩を竦めた。


「ししょーには敵わねーです」


 そうルディが言い返すと2人は、企みを見抜いたかの様にニヒヒと笑う。会話を聞いていたルイジアナは、ただただ唖然とし、2人の智謀の深さに驚いていた。


「と言う事で、僕たちが向かうのは師範の所じゃなく、デッドフォレスト領の領都です」


 ルディはそう言うと、コックピットに戻って目的地をデッドフォレスト領に変更した。

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