第196話 ゴブリンとエルフの交友

 昼食後、ルディたちはアガラとアクセル、それと数人の戦えるエルフと一緒に、マソの怪物攻略のための話し合いを始めた。

 そして、言葉が通じないゴブリン一郎は「ぐぎゃぎぎゃー(何言ってるか分からねー)」と、鼻くそをほじくって場を離れ散歩に出かけた。


 この森に暮らすエルフにとって、ゴブリンは排除すべき生物だった。

 だけど、ゴブリン一郎はルディの仲間で、美味しいフルーツを無償で配り、長老のアガラからは彼の功績で治療薬が出来たと聞いた。

 一部誤解はあるけれど、以上からエルフたちはゴブリン一郎を命の恩人と感じていた。


 そして、ゴブリン一郎は何故かエルフたちの間で人気者になっていた。

 一応、それには理由がある。エルフの容姿は美しく全員が美男美女。だけど、それは人間の視点から見た感想であり、エルフたちにとって美形な容姿は当たり前だった。

 美人も3日で飽きるという言葉があるように、美形に慣れたエルフたちは、魔族なのに身だしなみが整って、安全なゴブリン一郎の容姿は珍しく、恐ろしいけど何となく滑稽な感じが彼らの間で受けていた。所謂、キモ可愛いというヤツである。


「ねえねえ、一郎、あそぼ、あそぼ」

「お前、変な顔してるな」

「ぐぎゃぎゃぎゃ?(何で集まってんだ?)」


 エルフの子供に囲まれてゴブリン一郎が困惑する。

 その様子を周りの大人のエルフが微笑ましく眺めていた。


「ぎゃあ、ぐぎゃぎゃぎゃ(じゃあ、玉蹴りでもするか)」


 ゴブリン一郎も言葉は通じないけど、エルフの子供たちから遊びに誘われている事は理解しており、それならばと荷物からボールを取り出した。

 ちなみに、このボールはルディとリフティング勝負をした時からの愛用品で、彼はこっそりと荷物の中にボールを隠して持ってきた。


「うわっ、すげー!」

「格好良い!」


 ゴブリン一郎がリフティングを始めると、それを見てエルフたちがはしゃぎ始める。

 周りで歓声が上がり調子に乗ったゴブリン一郎は、スクラッチリフトでボールを高々と上げて、頭の上にピタリと乗せた。ちゃっかり角の間にボールを乗せて安定させているのはご愛敬。


「わー、わー!」


 それを見たエルフの子供だけでなく、遠くから見守っていた大人のエルフたちも集まって、拍手と歓声で彼を称える。


「ぎゃぎゃがぎゃ(なんか恥ずかしいぜ)」


 ゴブリン一郎は鼻の下を指先で擦って照れると、子供だけでなく大人のエルフも入り混じって、サッカーゲームもどきを始めた。




「むきき。こっちは真剣に話しているのに、楽しそうです」


 ルディがテントの入口の隙間から、サッカーで楽しく遊んでいるゴブリン一郎を見て、一緒に交じりたいのか羨ましそうに呟いた。


「あんなに楽しそうな仲間を見るのは久しぶりだよ」


 アガラもサッカーで遊ぶ集落のエルフたちの様子に、笑みを浮かべる。


「あの怪物が近くにいるのなら、集落ごと移動して逃げる案はなかったのかい?」

「我々がアレに気づいたのは襲われた2日前だよ。本当は逃げたかったけど、私は病人を捨ててまで逃げる決心がつかなかったのさ」


 ナオミの質問をアガラが残念そうに答え、全員で先ほどまで話し合った内容のおさらいを始めた。


 最初に、マソの怪物が水に弱い事から、ナオミが魔力を解放して川の反対側に誘い込む。

 次にルディの持っているグレネードを、弓が得意な数人のエルフに渡して一斉に攻撃。

 それでも死ななかったら、最後にナオミとルイジアナが魔法で治療薬を操作して、マソの怪物に浴びせる。


 作戦自体は単純だけど、これなら確実だと全員で考えた案だった。


 ちなみに、治療薬を最後にしたのは、治療薬では即死しないかもと、ルディの話を聞いたエルフからの要望。

 ルディもエルフたちも治療薬でどれだけ効果があるのか分からず、本当に死ぬのかも分からない。そして、死ぬまでの間もマソの怪物が暴れて森の被害が出る。

 と言う理由から、出来ればグレネードで倒したいと全員の意見が一致した。




 もちろん、この案が決まるまで幾つかの反論や対立は当然あった。


 まず、ナオミのマナでマソを誘い込むと決めた時、魔法が得意なエルフのプライドに触れたのか、人間よりも自分の方が魔力があるから、その役目を寄越せと1人のエルフが言い出した。

 それに対して、ルイジアナがナオミのマナ保有量は自分よりも上だと教え、彼女が奈落の魔女と呼ばれる人間界で最強の魔法使いだと紹介する。

 その話を聞いても納得せずに顔をしかめた発言者だが、彼の隣に座っていたエルフが彼に何か呟くと、それ以上反対意見を言わず話が終わった。

 2人の会話は聞こえなかったが、ルディとナオミは、どうせ一番危険な役目を人間に押し付けたのだろうと予測しており、それでも2人は別に構わないと、申し訳なさそうにしているアガラに頷いた。

 ちなみに、ルイジアナに奈落の魔女と紹介されたナオミは、せっかく自分の二つ名が広まってない土地でのんびりしたかったのに、それが崩れ去ってしょぼんと落ち込んでいた。


 次にルディのグレネードの威力を知らないエルフから、本当に効果があるのか疑問視されたが、ルディが外に出て1発、誰も居ない場所にグレネード付きの矢を放って爆発させると、全員がその威力に驚いていて納得した。

 ちなみに、その爆発でリフティング中のゴブリン一郎が驚き、ボールを落としてルディを睨んでいた。


 最後に治療薬を浴びせる方法も、薬なのに相手に効くのかと疑問視された。これは、この星では薬という名前が付くものは、全て回復させる物という認識で、薬が毒にもなるという概念がなかったせい。

 それに対してルディは、マソの怪物が接触感染する生物で、触れた物を全部感染させるのと同時に、相手も触れた物を全て吸収する生物だと説明する。

 そして、この治療薬は薬と言うけど、実際はマソだけなくマナも死滅させる液体だから、あの怪物にとっては最悪の毒だと説明した。




「それじゃ、決行は明後日の午前中。場所は渓流のある場所だよ」


 アガラが指名した場所は、ルディたちがマソの怪物に襲われた場所で、そこまでの移動はフォレストバードに乗って移動し、人数はルディたちとアクセル、それと3人のエルフが同行する。

 そして、ゴブリン一郎は、今回の戦いでは接近戦が禁止、弓が使えないから遠距離攻撃も出来ない、魔法も使えない、と役立たずなのに、何となく話の流れで連れて行く事になった。


 ゴブリン一郎はそれを知らずハットトリックを決めて、ドヤ顔でエルフの子供たちから称賛を浴びていた。

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