第195話 お土産一郎

「アイツは倒せないぞ」


 ルディたちの話を聞いていたアクセルが顔をしかめて口を開いた。


「俺たちも何度か全集落の同胞を集めて戦ったが、魔法は全て吸い取られ、弓はまったく歯が立たない。接近しようにも近づけば触手を伸ばしてマナを吸い取り、触手に触れた者は全員病気に感染して、多くの同胞が死んだ」

「5年間ずっと森に居やがるんですか?」

「そうだ」

「うーん。森から出ない理由はなんだろうです」

「……それは考えた事なかったな」


 ルディの質問をアクセルが答えられず、アガラに視線を向ける。


「さあ。族長会議でもそんな質問するヤツは1人も居なかったよ」


 そう彼女が答えると、ナオミが口を開いた。


「もしかしたら、光に弱いのかも」

「でも、僕たちが見たときはアイツ川の側まで近づいたから、太陽の光、当たってたですよ」


 そうルディが言うと、ナオミが肩を竦めた。


「長時間は苦手なのかもしれない。それ以外、森から出ない理由が思い付かん」

「と言う事は、あの怪物は水と光に弱いんですね」


 ルイジアナの発言に、それが初耳だったのかアクセルが質問してきた。


「アイツ、水に弱いのか?」

「ええ、私たちが遭遇した時、川を挟んでいたんですが、あの怪物は水の中に入ろうとしませんでした」

「それも絶対とは言えないけどね」


 ルイジアナが答えると、ナオミが頭を横に振った。




 話している間に太陽が頂点に達し、ルディたちはアガラの誘いで昼食をごちそうになった。

 集落の中心に集まって、何人かのエルフにお礼を言われながら待っていると、集落の飯番の女性が寸胴鍋を持ってきた。

 ルディはワクワクして、エルフの料理を楽しみにしていたが、出てきた料理は塩だけを入れた具の少ないスープと、木の実で作った粗末なクッキー。それと、でっかいゆで卵だった。

 このゆで卵はフォレストバードの卵だと思うけど、ルディとナオミはあの可愛い姿を思い出して、無精卵と言えども食べるのを躊躇った。


「粗末な料理ですまないね。あの怪物のせいでろくに狩ができないんだ」

「狩ができないって……5年もですか?」


 アガラの話にルイジアナが驚いて目を大きく開く。


「その通りさ。今の季節は収穫時期だってのに、本当に困りものだよ」

「この時期に狩ができなかったら冬の時期は……」

「ここもそうだけど、どこの集落も飢えで苦しんでるよ」


 半熟のフォレストバードの卵が予想していたよりも美味しくて、大口で食べていたルディが今の話を聞くや、アガラに話し掛けた。


「アガラ長老。お土産あるから皆で食いやがれです」

「お土産?」

「もぎたてフルーツです」


 収穫してから5日経ってるからもぎたてかは微妙だけど、今は食べる物なら何でも欲しいアガラはルディに向かって頭を下げた。


「本当に何から何まで助かります。この御恩は一生忘れません」

「面倒だから気にするなです」

「何だアレは⁉」


 ルディが話していると丁度ドローンが空中から現れ、食事中のエルフがドローンを指さして声を上げた。


「ナイスなタイミングです。アレは僕のゴーレムだから襲うなです」

「何と! 空を飛ぶゴーレム⁉ いや、まずい。マナを感知して怪物が来る。ルディ、アレを早く他所へ!」

「あれはマナ使ってねーから、心配するなです」


 慌てるアガラにルディが落ち着けと、立ち上がろうとした彼女を制止した。


「マナを使ってない?」

「エルダー人と同じ技術です」

「……⁉」


 同じ宇宙の科学だからルディの言っている事は間違っていないが、それを聞いたナオミは心の中で「上手いなぁ」と笑っていた。




 ドローンは持っていた箱を地面に降ろすと、再び浮かび上がって、今度は調味料を運びに飛び去った。

 エルフの誰もが箱に近づかない様子に、ゴブリン一郎が仕方なく立ち上がり、箱からぶどうを取り出すと美味そうに食べ始めた。


「コラ、一郎。これはお土産です。お前は散々食べやがったから、控えろです!」

「ぐぎゃぎゃがぎゃ!(アレだけじゃ足りねえよ!)」


 ルディが叱ると、エルフの食事では腹が満たせなかったゴブリン一郎が不貞腐れる。

 だけど、ゴブリンの事をあまり知らない無垢なエルフの子供が、彼に近づいて話し掛けてきた。


「……それ美味しいの?」

「ぐぎゃぎゃぎゃ? ぐぎゃぎゃ(お前も腹減ってるのか? だったら食え)」


 子供に気づいた母親のエルフが助けに向かう前に、ゴブリン一郎が子供のエルフに桃を渡した。


「……美味しーい、ありがとう!」


 桃を一口食べたエルフの子供が、ゴブリン一郎に笑顔を返した。


「……ぎゃぎゃぎゃ(なんだろうなコレ)」


 今まで人間、エルフ、魔獣、同じ魔族でも種族が違えば、全てがゴブリン一郎の敵だった。

 だけど、目の前のエルフの子供の笑顔を見ていると、なんだか分からないけど嬉しい気持ちが湧いてくる。

 ゴブリン一郎はその感情が何か分からないけど、何となくエルフの子供の頭を撫でた。


 ゴブリン一郎の行動に母親が驚き、子供と一緒に頭を下げてお礼を言う。そして、箱の中身がフルーツだと分かった他のエルフも、ゴブリン一郎を恐れなくなって近づき、彼からフルーツを受け取ってお礼を言っていた。


「あのゴブリンは面白い存在ですね」


 その様子を見ていたアガラがルディに話し掛ける。


「一郎のおかげでマソの治療薬、開発できたです」

「なんと!」

「だからエルフは一郎に感謝しやがれです」


 アガラは今の話に驚き、ゴブリン一郎に目礼した。

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