第191話 エルフとのコンタクト

 ルディたちがエルフの道を歩いて2日目。

 森の大森林は鬱々とした森から、間伐された森へと変わっていた。

 日光を浴びて生育が良いのか木の幹は太く、木々の間から光が射し込み、下層植生が豊かに成長する。

 ルディとナオミは美しく成長している森を眺めて感心していた。


「綺麗に間伐してやがるですね」

「これはエルフがしているのか?」


 ナオミの質問にルイジアナが頷く。


「はい。この辺りは冬になると大雪になるので、間伐して風や雪で木が折れないように幹を太くしているんです」


 雪の大森林は北の地にあるため、冬になると多くの薪が必要になり、むやみに伐採しているといずれ森が無くなる。

 そこでエルフは何百年もの間、間伐をして森を成長させながら、森と共に暮らしていた。


「この森はエルフの英知だな」

「そう言ってもらえると嬉しいです」


 ナオミの誉め言葉にルイジアナが微笑む。


「でも、森が間伐してやがるって事は、エルフの集落近いですね」

「はい。今日中には着くと思います」


 ルディの話にルイジアナが頷いだ。




 しばらく歩いていると、ルディの電子頭脳にハルが話し掛けてきた。


『マスター。熱源を感知しました』

『数と位置は?』

『マスターから見て2時の方向、1人と1匹です』


 ルディは監視衛星とリンクして、左目のインプラントに上空画像のサーモグラフを表示させると、動物に乗った人間がこちらに近づいている様子が映った。


『こちらでも確認した。コンタクトを試みる』

『お気をつけて』


 ハルとの通信を閉じてからルディが皆に報告する。


「誰かが動物に乗って近づいてるです」

「おそらく偵察か狩の途中のエルフです。乗っている動物はフォレストバードですよ!」


 ルイジアナがルディの報告を聞いて、久しぶりに同胞に会えるかもと喜んだ。


「急に襲ってくるなんて事はないよな」

「きっと大丈…夫……かな?」


 ナオミの心配をルイジアナは否定したかったが、ゴブリン一郎の存在を思い出して視線を向ける。

 そして、彼女の意図が分かったルディとナオミも、同じくゴブリン一郎に視線を向けた。


「ぐぎゃ?(なんや?)」


 全員の視線を浴びてゴブリン一郎がたじろぐ。


「確かにまずいな」

「ええ……」

「そうですか? 一郎キモ可愛いですよ」

「ぎゃぐが、ぎゃががが(やめんか、慣れ慣れしい)」


 ナオミの意見にルイジアナは頷くが、ルディはゴブリン一郎側に立って肩を組み、それをゴブリン一郎が剥がそうとしていた。


「それは慣れの問題だ……そうだな。女2人なら向こうも油断するだろう。ルディと一郎はあっちの茂みに隠れていろ」

「はーい。一郎、かくれんぼです」

「ぐぎゃぎゃ?(連れションか?)」


 ナオミの命令に、ルディがゴブリン一郎の腕を引っ張って茂みに隠れると、ゴブリン一郎は勘違いして茂みに入るや、ズボンを脱いで用を足し始めた。




 ルディとゴブリン一郎が茂みに隠れて1分もしない内に、男性のエルフがナオミとルイジアナの前に姿を現した。

 エルフはルイジアナと同じく耳が尖っており、皮の防具に身を包んで背中に弓を背負っていた。

 そして、彼が乗っているフォレストバードの見た目は、黄色くて大きなひよこ。どこからどう見てもひよこ。くりっとしたつぶらな瞳がチャームポイントでチョー可愛い。

 そのひよこみたいなフォレストバードが、ナオミを見てコテッと首を傾げた。


「やば、凄く可愛いかも」


 初めてフォレストバードを見たナオミが、可愛さに萌えた。


「どこの部族の者だ? そして、もう1人は人間か?」


 男性のエルフが警戒してルイジアナを尋問する。武器を構えてない様子から、どうやらナオミの作戦は成功したらしい。

 エルフに対してルイジアナが友好を示そうと、笑顔を返して頭を下げた。


「私はルイジアナ。森を出る前はナギネルの集落に居ました。こちらはナオミ。今はエルフの使命を全うすべく里へ帰る途中です」


 ルイジアナの返答にエルフが驚愕してナオミに視線を向けた。


「それは本当か⁉ それでは彼女が?」

「いえ……彼女ではなく別の少年です」

「……その者はどちらに?」

「あーえっと、ナオミどうしますか?」

「名前の知らぬエルフよ。何が起きても驚いて攻撃しないと約束できるか?」


 ナオミの話にエルフが眉をひそめた。


「それは状況による。それと俺の名前はアクセルだ」

「危害は与えないから大丈夫だ。ルディ、ゆっくりこっちに来い」


 ナオミが茂みに向かって声を掛けると、すぐに返事が返ってきた。


「一郎、ションベンなげー。もう少し待ちやがれです」

「なんでションベンなんてしてるんだ!」

「そんなの一郎に聞きやがれです!」


 ナオミの怒鳴り声に、ルディも負けじと怒鳴り返す。

 そのやり取りを聞いていたアクセルは困惑した表情を浮かべると、視線でルイジアナに問いかけた。


「はははははっ」


 アクセルの問いかけに、ルイジアナが顔を引き攣らせて空笑いをした。




「ほら、早く来やがれです」

「ぐぎゃがぎゃぎゃが(パンツぐらいゆっくり履かせろ)」


 ルディがゴブリン一郎の腕を引っ張って茂みから現れると、ゴブリン一郎はズボンをずり下げたままで、歩き辛そうだった。


「ゴブリン?」


 アクセルが眉をひそめてゴブリン一郎を見るが、警戒はしていない。

 彼は先ほどの馬鹿ばかしいやり取りと、今のゴブリン一郎はズボンが下がったままで、どう考えても戦える状態ではないと判断していた。


「どもールディですー」


 ルディがアクセルに向かってペコリと頭を下げ、フォレストバードを見て目を輝かせる。


「本当にでっけーひよこです!」


 アクセルはフォレストバードを見て喜ぶルディを一瞥すると、ルイジアナに話し掛けた。


「もしかして、この少年が?」

「はい」


 ルイジアナの返答に、アクセルがもう一度ルディを見下ろす。


「少年、たしかルディと言ったな。本当にお前はエルフの旧名を知っているのか?」

「知ってるですよ。エルダー人ですよね」

「どこでそれを知った?」


 ルディが人差し指を空へ向けて一言。


宇宙で」


 その予想外の返答にアクセルは目をしばたたかせ、この少年がただの少年ではないと理解した。

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