第190話 享楽に生きる

 ナオミがマナを押さえたせいで、彼女の高性能な検知魔法は封印したけど、監視衛星とドローンが寝ずに見張りをしたおかげで、ルディたちはぐっすり眠って翌朝を迎えた。

 旅の辛さを知っているルイジアナは、こんな楽で良いのかと首を傾げるが、ナオミ曰く「人間は楽な事を考えて結果を出せば発明家、何もしなけりゃただの怠惰」らしい。その考えは間違ってないと思う。


 ドローンにキャンプの片づけを任せて出発する間際、ルディからあと2日歩けばエルフの集落があると聞かされた。

 その時は頷いただけだけど、どうやってエルフの集落の場所を見つけたのか謎。


 今のルディは魔法が使えない。それは何度も聞いている。

 以前旅をした時に、ルディは索敵能力が高く、野営にも慣れていて、オークと対等に戦い、巨大なムカデをあっという間に倒していた。そして、今回も彼が放った矢が爆発して、マソの怪物を追い返した。

 魔法を使えないとしても、それだけで歴戦の戦士、あるいはそれ以上の戦闘能力があると思う。


 エルフをエルダー人と呼び、高い戦闘能力を持ち、ついでに料理も得意。

 もし、ルディが筋肉隆々の偉丈夫だったらその強さも納得するが、彼の見た目は15歳ぐらいの虫すら殺せなさそうな美少年。

 

 ルイジアナはルディの正体を知りたかった。




 エルフの道をゴブリン一郎とじゃれているルディの後ろ姿を、ルイジアナが観察する。

 今のルディは何処からどう見ても普通の少年。ただし、ゴブリンと遊んでいる事を除いて。


「ルディの事が気になるか?」

「……はい」


 横を歩いていたナオミが話し掛けてきたから素直に頷く。


「まあ、気持ちは分かる、大いに分かる。だけど、詮索はやめておけ」

「それは何故ですか?」

「ルディが一番嫌がる行為だからさ」

「やっぱりそうですか……」


 ルイジアナはルディの今までの言動から、彼は秘密主義な性格だと気付いていた。やる事なす事全て派手だから隠しきれてないけど。


「ルディは一言で言うと享楽主義者だ」

「享楽主義者?」


 思わぬ言葉にルイジアナが首を傾げる。


「うむ。人生を心行くまで楽しんで生きている。逆に興味のない事には一切手を付けない」


 この星ではまだ娯楽文化がそれほど発達しておらず、平民は生活するだけで精一杯。

 貴族の間では音楽や芸術を嗜む者も居るが、大半の貴族は社交として嗜むぐらいで、本格的にのめり込む者は僅か。

 ルイジアナも王宮魔術師として長年勤めてきたが、魔法の研究に没頭したくても、エルフへの人種差別や同僚からの僻みなど、人間関係に苦労した経験があり、享楽主義に生きるなど想像できなかった。


「何となくナオミ様に似ていますね」


 そうルイジアナが言うと、それが意外だったのか、ナオミはキョトンとした顔をして目をしばたたかせた後、口元を押さえて笑い始めた。


「クククッ、確かにそうかも。だからアイツと気が合うのか。だけど享楽に生きるのも結構大変だぞ。まず生活基盤が無いと無理だし、心も体も強くなければ駄目だ。そのための努力はルイの想像を超えるぞ」


 今のルディとナオミはエルフより寿命が長い。

 そして、この星の人間は戦争に明け暮れ、ルディの見立てでは、いずれ文明を築いた魔族に追い越される可能性が高かった。

 人類が滅んだら享楽主義など出来やしない。だからルディは人類が滅亡しないために、レインズを使って人類を発展させようとしており、その努力は人に気づかれてはいけない。

 何故なら、正体がバレて全部任されたら、嫌な事もやらされて面倒だから。それはルディの享楽主義に合わない。




「ルディの事が知りたかったら、無理やり詮索せずに友達としてつき合え。ルイがルディの考えを理解したら、その時はアイツの口から自分の正体を言うだろう」


 ナオミの話にルイジアナが思考する。

 彼女の話によると、ルディの秘密は自分が予想しているよりも大きく、今の自分ではその秘密を知る資格がないらしい。

 だけど、ナオミはルディの正体を知る道を示唆してくれた。だったら、彼女の言う通り、友達として信頼を勝ち取ろう。

 ルイジアナはそう考えて、ナオミに向かって頷いた。


「分かりました。ルー君とはこの旅が終わってもずっと友達でいようと思います」

「だったら、私とも友達だ。よろしくな!」

「はい!」


 笑みを浮かべてウィンクを飛ばすナオミに頷いた。




「さっきから何を話していたですか?」


 ゴブリン一郎を背負ったルディが振り向いて、2人に話し掛けてきた。

 何故ルディがゴブリン一郎を背負っているのかというと、2人が会話している間、ルディはゴブリン一郎にじゃんけんを教えて、負けた方が相手を背負い100歩歩くゲームをしており、今はルディが負けてゴブリン一郎を背中に背負う番だった。


「お前、何やってんだ?」


 緊張感のないルディにナオミが呆れ、ルイジアナが口元を押さえて笑いを堪える。


「一郎にじゃんけん教えたです。コイツ、なかなか頭が良いですよ」

「ぐぎゃ、がぎゃぎゃ(オラオラ、歩けや)」


 ゴブリン一郎がすっごく楽しそう。


「あまり油断するなよ」

「ダイジョーブ。監視はしてやがるです」


 ハルが。


「それでさっきの質問だけど、女同士の秘密の会話だ」

「なるほど、だったら聞くのは野暮ですね」


 ナオミの冗談に、ルディがニカっと笑った。

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