第184話 魔法の未来
昼ご飯を食べた後、ルディたちは夕方までのんびりと過ごした。
ちなみに、移動の準備はハルが夜なべして輸送機を拠点に移動させ、寝台の設置と荷物を詰め込み、翌朝には準備が整っていた。
エルフへのお土産は、ルディたちが手に入れた果物の他に、胡椒、唐辛子、シナモン、それと、砂糖をかご一杯に。そして、宇宙でも人気で高級なワインを5本用意した。
「高級なワイン? いくらぐらいするんだ?」
「そーですね。1本金貨40枚ぐらい?」
高級なワインと聞いたナオミの質問に、ルディがこの星の通貨に換算した値段を答える。すると、一家族が数カ月生活出来る金額を聞いたルイジアナが全力で頭を横に振った。
「お土産としては高すぎます!」
「駄目ですか?」
「奪い合いで部族同士の争いが起きますよ!」
さすがにそれはないと思うが、争いの元になる物を渡して後で恨まれるのは問題だと、ルディは高級ワインはお土産のリストから外した。
ちなみに、かご一杯の香辛料と砂糖も十分争いの火種になるのだが、ルイジアナは大陸の南側に50年居たので、その事を忘れていた。
「だったら、1本だけ持って行くから、飛んでる時にししょーが飲みやがれです」
「やったね!」
棚から牡丹餅な感じで高級ワインを飲めると、ナオミが喜んだ。
日没まで残り1時間の時刻になって、輸送機に乗り込んだルディは操縦席に座り、後の皆は荷台スペースに急遽作られた客室の椅子に座っていた。
荷台スペースにお土産が沢山積んであった為、客室は少し狭かったが、それでも4人ぐらいなら余裕で寛げる広さがあった。
そして、彼らの他にもドローンを1台積んで準備が整う。
『それじゃ出発するです。最初だけ揺れるから、気を付けやがれです』
「分かった」
機内スピーカーから聞こえたルディの声にナオミが応じる。
ちなみに、客室にもマイクが備わっているので、彼女の声はルディに聞こえた。
ゴブリン一郎は空を飛ぶのに慣れたのか、窓に顔をべったり押し付けて外を眺め、彼ほどはしたなくないが、ルイジアナも輸送機が飛ぶのを楽しみに窓から外を見ていた。
反重力装置が起動して輸送機がゆっくりと浮かぶ。
「ぐぎゃ、ぎゃぎゃ?(なあ、今度は何処に行くんだ?)」
「一郎君は空の旅が好きなんですね」
「最初はぎゃーぎゃー騒いでいたけどな」
ルイジアナが一郎に話し掛けると、それを聞いていたナオミが笑みを浮かべ、ルイジアナは今もぎゃーぎゃー言っていると思った。
だけど、ゴブリン一郎が最初に乗ったのは揚陸艇で、いきなり宇宙に飛ばされれば誰だって叫ぶ。
輸送機は地上から20mの高さまで浮かぶと、北西に向かって飛び始めた。
「何度乗っても凄いですね」
「きっと文明が進化したら、魔法なんて廃れるんだろうな」
ルイジアナが空を眺めてナオミに話し掛けると、彼女は物憂げに答えた。
「魔法が廃れるんですか?」
ナオミの返答に、まさか奈落の魔女とも言われている彼女の口から、魔法が廃れるなんて言葉が出て、ルイジアナが驚いて振り返った。
「……多分ね」
「でも、魔法は便利ですよ」
「だけど、全員が使えるわけじゃない」
ルイジアナの反論をナオミがぴしゃりと抑え込む。
「ルディは魔法が使えないけど、この船を飛ばして半年掛かる距離を半日で移動させる。こんな便利な物がこの世に溢れるようになったら、魔法なんていらないよ」
「…………」
「時々思うのさ。人類は魔法があるせいで、進化できずにいるんじゃないかってね。確かに魔法は便利だよ。だけど昼間も言ったけど、人類は考える葦だ。便利な魔法に甘えて物事を考える方向が偏っていると思わないか?」
「……私には分かりません」
科学の進化を知らないルイジアナは、ナオミの話を聞いても理解できず頭を横に振った。
「……そうか。まあ、エルフは寿命が長い。今の話は頭の片隅にでも置いてゆっくり考えるんだな」
「…………」
ナオミが話を締めくくると、ルイジアナは今の話を頭の中で繰り返して物思いにふけた。
空を飛び始めて1時間が過ぎ、太陽が西の大地に沈んで夜空には三日月が浮かぶ。
森を抜けた輸送機は高度を上げて上空10Kmまで浮かぶと、速度を上げて目的地まで飛び始めた。
「やっと自動操縦できたです」
「ご苦労さん」
輸送機を自動操縦に切り替えたルディが客室に入ると、ナオミが笑って彼を出迎える。
「本当、あのクソトカゲのせいで、森の上空おちおち飛べねえです」
ルディの言うクソトカゲとは、彼が初めて星に降りた時に襲ってきた森の東に住むドラゴンの事。
ルディの被害はその時だけだが、ハルが拠点を作っている時も何度か揚陸艇が襲われて痛い目に遭っており、森の上空を飛ぶ時はなるべく高度を上げずに飛ぶようにしている。
「トカゲってもしかしてドラゴンの事ですか?」
下品な頭文字を抜かしたルイジアナの質問にルディが頷く。
「そーです。アイツ、空飛ぶ物だったら何でも襲い掛かって来るです。いつかアイツをぶっ飛ばすです」
ルディがそう言いながらシュッシュッとパンチを出した。
「それは難しいな。アイツのマナ保有量は私の何倍もあるぞ。2年ぐらい前かな、一度だけアイツが本気でブレスを吐いたのを見た事があるけど、空が真っ赤に燃えていたな」
「2年前……あっ!」
ナオミの話にルイジアナも思い当たる節があり、声を出した。
「まさか、魔物の大移動!」
「なんですかそれ?」
ルディが質問すると、ルイジアナが当時の事を思い出しながら話し始めた。
「2年前に突然魔の森から多くの魔物が現れて、多くの街が被害に遭ったんです。確かその時、何故か森に一番近いデッドフォレスト領だけ被害がなくて、王城ではその理由が分からず全員が首を傾げてました」
それを聞いたナオミが苦笑いを浮かべた。
「だったらその理由を教えてあげるよ。全部、私が倒した」
「……は?」
今の話にルイジアナが口をぽかーんと開けてナオミを凝視する。
「あの時は私の結界もぶち破る勢いで魔物が襲ってきたからね」
「……信じられません」
あの時の被害を考えると、デッドフォレスト領に向かっていた魔物の数は数千を超える。それをたった1人で防いだナオミの話は彼女の理解を超えていた。
「ルイちゃん。ししょーは何千の人間を一発でぶっ殺す奈落の魔女ですよ。そのぐらいよゆーです」
「こら、人を化け物みたいに言うな」
「怒られたです」
ルディの話にナオミが笑いながら叱ると、彼は全く反省せずに首を縮ませた。
「ぐぎゃがぎゃぁ(もう食べられない)」
3人が楽しく会話している横では、どんな夢を見ているのかゴブリン一郎が寝言を呟いていた。
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