第183話 ルディの属性
ルイジアナに指摘されるまで、ナオミは魔法の属性についてすっかり忘れていた。
何故なら彼女は珍しい全属性の適正者で、属性について考える必要がなかったから。
ルディも、ナオミから魔法について教わった時に属性について聞いていたが、属性云々以前にまずはマナの保有を優先に研究していた為、属性の研究は後回しにしていた。
そして、被験者のゴブリン一郎だが、ゴブリンは一部の例外を除いて放出系の魔法は使えず、彼らが使う身体強化は属性など関係なく体内のマナを変換させる為、属性について調べる事が出来なかった。
「いやー、属性なんてすっかり忘れてたよ」
魔法使いの基本中の基本を忘れていたナオミが、照れた様子で頭を掻いた。
ルイジアナはあれだけ凄い論文を書きながら、凡ミスをしたナオミが可笑しくて、笑いそうになる口元を隠した。
「それで、ししょー。僕の属性って何ですか?」
属性についての話が出たから、ついでに聞こうとルディが質問すると、ナオミが頭を横に振った。
「属性は魔法を使ってみないと分からないんだ。属性が無くてもその属性の魔法は使えるけど、マナが適正消費値よりもごっそり減るから、効率が悪くなる」
「なるほどです」
「だけど、ルディは何となくだけど全属性な気がするぞ」
そう言ってナオミがルディに微笑んだ。
彼女がそう言うのにも理由がある。ルディがマナを調べるために採取した血液は、全属性のナオミの血。
彼女の考えでは、自分の血をサンプルにして作ったマナ回復薬は、全属性に適応する可能性が高く、それを毎日飲んでいるルディとゴブリン一郎の属性は、おそらく全属性だろうと予想していた。
「それは凄い嬉しいです」
「あの……チョット良いですか?」
ルディが喜んでいると、ルイジアナが挙手をする。
「なーに?」
「確かルー君って、魔法が使えないと言ってましたよね。今の話を聞いていると、ルー君が全属性の魔法が使えるようになる会話に聞こえたんですが?」
ルイジアナの質問に、ルディとナオミの動きがピタッと止まって、視線だけで会話を始める。
(何とか胡麻化せないか?)
(ししょー、もう手遅れです)
(だったら全部言うのか?)
(僕、ししょー以外に宇宙人だとバレる、嫌です)
(だったら、私が胡麻化そう)
(お願いするです)
ナオミが咳払いをして口を開く。
「ルディは元々才能のある魔法使いだったんだ」
「そうなのですか?」
「あ…ああ……」
(ししょー頑張れ!)
ナオミが頷きながら思考を高速回転させて嘘を考え、ルディが隠れて応援する。
「ルー君は何で魔法が使えなくなったんですか?」
「それはだな……そう、確か魔物の血を浴びたんだったな」
「えっ……あ、はい。そうなのです」
いきなり話を振られて、ルディが慌ててナオミに頷く。
「その魔物の血は体内のマナを奪う毒があったらしい。それでルディは奈落の魔女の噂を聞いて、はるばる北から私を訪ねてきたんだ」
とっさに付いた嘘にしては上出来だろとルディを見れば、彼はルイジアナが見えないところでサムズアップをしていた。
「なるほど。これでルー君がナオミ様の元に居る理由も、魔法が使えない理由も分かりました」
ナオミの嘘にルイジアナが納得して頷き、ルディとナオミがコーヒーを飲んでいると、ルイジアナが次の質問をした。
「それで、あの輸送機という船は、どうやって手に入れたんですか?」
「「ブーーッ!」」
その質問を聞いた途端、安堵していたルディとナオミは不意を突かれて、口に含んでいたコーヒー吹き出した。
「だ、大丈夫ですか⁉」
器官にコーヒーを詰まらせたルディとナオミが激しく咳払いし、その様子にルイジアナが慌てていると、ドローンが雑巾を持って現れて汚れたテーブルを拭き始めた。
確かにルディはルイジアナに輸送機の事は誰にも言うなと言ったが、質問するなとは一言も言ってないから、ルイジアナは悪くない。
「えっと、あの輸送機は…そう、遺跡です。僕が生まれた集落の近くに洞窟があって、そこで見つけたです」
ルディがカールたちにスマートフォンを貸した時の事を思い出して、同じく輸送機も遺跡から見つけたと嘘を吐いた。
「遺跡ですか……確かに、エルフの里と似た遺跡が他にもあるという話は聞いた事があります」
ルイジアナはエルフの里の遺跡を思い出して、ルディの嘘に納得した。
もし、ルイジアナが疑う性格だったら、2人の話を怪しんだかもしれないが、素直な性格のルイジアナはすっかり騙された。
「それで、ルー君の容態はどうなんですか?」
「うむ。一郎で実験してマナを増やす薬を作り、今は少しづつ回復している」
魔法使いにとって魔法は命の次に大事な物。同じ魔法使いとして心配したルイジアナの質問にナオミが答えた。
「だから一郎君が居るんですね。今までずっと何でゴブリンと一緒に生活しているのか謎でしたが、これで納得しました」
それを聞いてルディとナオミが何度目かのため息を吐く。
すっかり溶け込んで意識していなかったが、ゴブリンとの共同生活は一般的な常識からかけ離れて、ルイジアナは不思議に思っていたらしい。
「そろそろ、昼の時間です。僕、一郎を起こしに行ってくるです」
もちろん、朝飲まなかった薬を飲ませるつもり。
「そうだな。私たちも遅い朝食を取るとするか」
ナオミがそう言うと、ドローンが動き出して全員のご飯を作りにキッチンへ向かった。
「ぐぎゃぎゃー-!(頭、痛てぇー-!)」
しばらくして、薬を飲んだゴブリン一郎の叫び声が家に響いた。
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