第176話 エルフの使命

 ルイジアナが家に入ると、風呂上りのゴブリン一郎と出くわした。


「ぎゃ? がぎゃぎゃぎゃーぎゃやぎゃ?(お? あんときのねーちゃんじゃねえか、あの爺は元気か?)」


 ゴブリン一郎の言っている爺とはレインズの側近のハク。

 彼はこの家でレインズたちと飲んだ時、ゴブリン一郎とビールの飲み比べをして仲が良かった。


「え? もしかしてあの時のゴブリン?」


 一方、ルイジアナはゴブリンの姿を見て驚き、大きく目を開いた。

 あの時のゴブリン一郎は、人間臭い一面は置いといて、マナの保有量だけで見れば普通のゴブリンよりも少なく、マナを身体強化に使う種族としては弱い方だと思っていた。

 だが、今のゴブリン一郎のマナ保有量は、低級、いや中級に近い魔法使いよりも多く、もし彼がそのマナを身体強化に振って戦えば、並の人間では敵わないだろう。

 ちなみに、ルディはマナが電子頭脳のバッテリーに吸われているため、未だに体内のマナ保有量はすっからかんだった。


「ルー君、ゴブリンが強くなってる気がするんですが?」

「一郎ですか? 彼も頑張ってるですよ」


 ルイジアナの質問にルディが答えるが、頑張ってどうにかなるものでもないと思う。

 そんなルイジアナの様子に、何となく彼女の考えが分かったナオミが苦笑いしていた。




 ルディたちは簡単な昼ご飯を食べた後、リビングでゴブリン一郎が入れたコーヒーを飲みながら、明日の予定について打ち合わせをしていた。


「エルフの里は、明日の夕方、出発しようと思っているです」

「夕方ですか?」


 首を傾げるルイジアナにルディが説明する。


「夜の間だったら、飛んでるところ下から見られねーし、朝には雪の大森林の前まで到着してるです」

「実際に私も乗ったからおそらくその通りなんでしょうが、まだ頭が追い付きませんね」

「まあ、慣れの問題だ」


 ルディの説明を聞いても理解が追い付かず、ため息を吐くルイジアナにナオミが肩を竦めた。


「搭乗者は、僕、ルイちゃん、ししょー、一郎の4人です」

「えっと、一郎君も行くんですか?」


 ゴブリンが村に行ったら一波乱どころではないと、ルイジアナが驚く。


「駄目ですか? 何処でもエルダー人は排他的ですね」


 そういう問題ではない。人を襲うゴブリンを村に入れるルディが問題だ。

 ちなみに、ルディは宇宙生活をしていた頃、商売の交渉で何度かエルフ改め、エルダー人と話をしたことがあり、彼らは種族的な性格なのか、試験管から生まれたルディを見下すような発言を何度かしており、ルディは何度か嫌な経験があった。


「ルー君の言う通り、基本的にエルフは森の中に引き籠って、外には出ないですね」

「でも、ルイはエルフにしては珍しく、人間の世界で暮らしているな」


 ナオミの質問にルイジアナが微笑む。


「エルフでは10年に一度、数人の若者を選んで100年間外遊させる掟があるんです。私も選ばれた1人で、50年ぐらい前に森を出ました」

「外遊の目的はエルフをエルダー人と呼ぶ人間を探す事か……」

「はい。私は運よくハルビニア国の宮廷魔術師としての地位を得ましたが、多くの同胞が殺されたり、騙されて奴隷に落ちたと聞いています。里を出て50年。半分諦めていましたが、ルー君を見つける事が出来て、エルフの使命を果たせそうです」

「それほど重要なエルフの秘宝とは何なんだ?」


 さらにナオミが質問すると、ルイジアナが頭を横に振った。


「エルフの秘宝は誰も入れない部屋にあるので、私も見た事ありません。ただ、伝承ではエルフをエルダー人と言う人間なら開けられると伝わっています」

「と言う事だが、ルディ、分かるか?」


 ナオミがルイジアナの話をルディに振ると、彼は腕を組んで首を傾げる。


(考えられるのは、電子ロックで鍵を掛けている可能性が高いけど、1200年も前だからなぁ……)


 結局何も思い浮かばず、ルディは頭を横に振った。


「実際に見てみないと分からねーです。それより話し逸れたけど、一郎連れて行っても良いですか?」

「あーそーですねー。良いと思いますよ」


 そう言うけど、駄目だったらルディが来ないかもしれないと、思考を放棄しただけ。


「一郎、良かったですね。また一緒に旅に行けるです」


 ルディがキッチンテーブルでうつぶせに寝ていたゴブリン一郎に声を掛ける。


「んが?(何?)」


 どうやら一郎は退屈で眠っていたらしい。ルディに話し掛けられて起きたけど、用がないと知ってまた眠った。


「まあ、ルイが困る気持ちも分かるが、アイツは他のゴブリンと違って攻撃してこないし、いざとなったら戦力になる。それに向こうがどうしても拒否するようなら、私が何とかするよ」

「…………」


 ナオミから安心しろと言われたけど、「それが一番の問題なのです」とは言えず返答に困った。




「そうと決まったら、お土産を考えろです」

「お土産?」

「さっきもそんな事を言ってましたね」


 ルディの発言にナオミとルイジアナが首を傾げる。


「僕、思うのです。僕がルイちゃんをエルダー人と言った事を話しても、向こうが本当にそれを信じるか怪しいです」

「それは私も思う」

「一応大丈夫だと思いますが……エルフの中には、人間を嫌いな者も居るので、全員がとはいかないと思います」


 ルディの意見に2人が考えを述べると、彼は「でしょでしょ」と頷いた。


「そこでお土産の1つでも渡して、ご機嫌伺いをしやがれと思ったのです」

「相変わらず変な事を考えるんだな。まあ、お前の考えは理解したけど、土産は何を持って行くつもりだ?」

「それをルイちゃんに聞きてーです」

「……はぁ」


 別にお土産なんていらないとは思うが、ルイジアナはルディから相談されてエルフの里にない物を考えた。

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