第177話 お土産を考える

「うーん、特にこれといって足りない物はないですねぇ……」

「そーなんですか? 例えば、森に住んでやがるなら、鉄とか足りてなさそうですけど」


 ルディがそう思ったのは、彼がソラリスにやらせたシミュレーションゲームのイメージ。

 そのゲームでは、最初に木材が必要なので森の近くに最初の村を作るが、中盤になると鉄鉱石が必要になって武器が作れず、毎度蛮族に村を荒らされて悔しい思いをした経験から。


「ノーザンランドはこちらと違って亜種族国家ですから、森の近くにドワーフの集落があるんです。エルフはそこと交易しているから、必要最低限の鉄器類はありますよ」


 ちなみに、亜種族とは人間以外のエルフ、ドワーフ、猫の顔をしたネコッテ人、犬の顔をしたワルダー人の事で、この大陸では人間は主に南側に、亜種族の大半は北側に住んでいた。


「そーだったんですね」

「……ルー君はノーザンランドの出身ですよね? てっきりご存じかと思ってました」


 ルディの格好は、見た目だけならノーザンランドの少数民族の衣装だったので、ルイジアナは当然ルディも知っていると思っていた。


「僕の出身、もっと別の人里離れた地域だったです。それに、ししょーと会うまで世間の事、詳しく知らなかったです」


 もちろん嘘。宇宙から来て、ハルがわざわざ遠く離れた地域の極少数しか居ない民族衣装を用意したなんて言えず、適当な嘘で胡麻化した。


「まあ、僕の事はどーでも良いです。それよりもお土産を決めやがれです。ルイちゃんはこっちに来て、何かビックリした事とかなかったですか?」


 ルディの質問にルイジアナが再度考えて、そう言えばと口を開いた。


「ビックリですか? そうですねー。人間はよく飽きもせずに戦争をするなぁとか、冬でも雪が降らない場所があるとか、後は初めて食べた果物がいっぱいあって美味しかった?」

「それです!」


 ルイジアナが思った事をつらつら述べると、ルディが閃いて大声を出した。


「土産が決まったか?」


 お土産なんてどうでも良いと思っているナオミが尋ねると、ルディがにっこりと笑みを浮かべた。


「北は寒いから、南国の果物が育たねーです」

「まあ、そうだな」

「それと、香辛料も取れねえですよね」

「この家でソーセージを食べた時、マスタードの味に驚きました」


 ルディがルイジアナに確認すると、彼女がその通りだと頷いた。


「だったら、胡椒と果物、おまけでワインもお土産に持って行きやがれです!」


 ルディの宣言にナオミが挙手をする。


「はい」

「ししょーどうぞ」

「私が思うに、それはお土産にするよりも商売として売った方が儲かる気がするんだが?」

「あれ? ししょー、金欲しいんですか?」

「いや、別に…いらないな」


 今のところお金がなくても生活に何の不便がなく、ルディからお金が欲しいのかと尋ねられたナオミは、金の要らない変な生活をしているなと思いつつ、頭を横に振った。


「はぁ……あの世でルドルフが聞いたら、驚くでしょうね」


 ルイジアナが金の亡者だった前ガーバレスト子爵、ルドルフの事を思い出してため息を吐く。


「そうと決まったら、一郎、果物狩り行くですよ」

「んが?(なに?)」


 突然呼ばれて一郎が驚いてルディを見れば、うきうき顔で嫌な予感しかない。


「ししょーとルイちゃんも一緒に行くですか? 空飛んでぴゅーだからすぐ帰れるですよ」

「だったら、気晴らしに行くか」

「と言う事は、私も行くことが決定?」


 ルディの提案にナオミが行くと言えば、1人家に残る事になるルイジアナも一緒に行かざるを得ず、結局全員で今が食べごろの果物を探しに行くことになった。




 ルディたちは輸送機に乗って空を飛び、ハルが偵察衛星で調べた果樹が多く生えている場所へと向かった。


「この森は何でもありやがるですね」


 ルディが助手席に座るナオミに話し掛ける。


「まあな。魔物が多く生息しているから、人が足を踏み入れない。そのおかげで天然の植物や生物が多く生息している」

「気候が穏やかな事も関係がありますね。北だと冬が厳しくて、魔物の種類が全く違います」


 後ろの補助席に座っているルイジアナがナオミに続いて口を開くと、ルディがなるほどと頷いた。


「いつも全裸なゴブリン、北だと寒そうです」

「はっはっはっ。確かにその通りだな。ルイ、北にはゴブリンやオークなどの魔族は居るのか?」

「不思議な事に居るんですよね。今まで考えた事なかったけど、冬はどうしているんでしょう。謎です」


 ナオミの質問にルイジアナが首を傾げる。


「一郎は何か知ってるですか?」

「ぎゃ、ぐがぎゃぎゃ?(なあ、どこに行くんだ?)」


 一郎に聞いても無駄だった。




「到着したですよ」


 ナオミの家を出発してたったの15分で、輸送機は果樹が生えている場所に到着すると、ルディはギリギリ着陸できる場所を見つけて船を降ろした。


「うむ。ちょうど良い時期だったな」

「こんなに実っているとは思わなかったわ」


 最初に船から降りたナオミとルイジアナが周囲を見回して、ぶどうが実っている沢山の木々に笑みを浮かべる。


「ぎゃぎゃぎゃ、ぎゃぐぎゃ、ぐぎゃぎゃあ!(ぶどうじゃねえか、あっちには桃もあるぞ、お前ら食おうぜ!)」


 ゴブリン一郎も船を降りるとぶどうの木に喜び、近づいてもぎるや、皮ごと食べ始めた。


「一郎は食い意地張ってやがるですねぇ」


 そう言ってルディもぶどうを1粒もぎると、左目のインプラントで毒がないのかを調べる。そして、調べた結果、どうやらこのぶどうはこの星にしかない原種らしく、やまぶどうとも品種改良したぶどうとも異なる品種だった。

 毒が無ければ次は味見だと、ルディもぶどうを食べてみる。


「んー。品種改良してねえぶどうだから、期待してなかったですけど、このぶどう美味ですね」


 味は品種改良した高級品まで美味しくないが、酸味の少ない糖分多めのぶどうだった。


「それじゃ、さっそく収穫しやがれです!」


 元気よくルディが声を掛けると、各々ぶどうと桃を取り始めた。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る