第174話 心に希望が戻る
「空を飛ぶ?」
首を傾げるルイジアナを無視して、ルディが話を続ける。
「口で説明しても理解できねーです。ルイちゃんは向こうに持っていくお土産あるですか?」
「いえ…特には……」
車もなければ電車もない時代では移動の荷物だけで手一杯なため、当然帰省のお土産なんて持って行かない。
「じゃあ、こっちで適当にお土産、見繕うです」
「……お土産?」
ルディの常識が理解できないルイジアナが首を傾げる。
「それじゃソラリスは引き続き頼むです」
「行ってらっしゃいませ」
「ちょっ……はい?」
ルイジアナを置いてきぼりにして話を纏めたルディは、ソラリスに後を託すや、ルイジアナの手を引っ張って部屋から出た。
2人は一度ルイジアナの部屋へ寄って彼女の荷物を持ちだすと、館を出るべく廊下を歩く。
すると、2人の前に別の用事で移動していたルネが正面から歩いてきた。
「あら、ルイジアナ。その子は誰かしら?」
光り輝く銀色の髪をした、異国の服を着ている謎の美少年に見とれつつ、ルネがルイジアナに話し掛けると、美少年のルディが片手を上げた。
「どもー、ルディですー」
ルディがにっこり笑って挨拶すると、相手の身分など関係なしの気さくな態度にルネの思考が停止する。
もし、相手が気難しい貴族ならぶち切れ案件だが、彼女が広量の持ち主だから大事にならずに済んだ。
「……ルディ?」
ルネはルイジアナとレインズからルディとナオミの活躍を聞いており、一度会ってみたいと思っていたが、こうも突然会えるとは思っておらず目をしばたたかせた。
「ルイちゃん、この人誰ですか?」
「レインズ様の奥さんでルネ様よ」
「ほうほう……」
ルイジアナから相手を聞いて、ルディがルネを観察する。
ルディの彼女に対する第一印象は、何となくレインズにお似合いの奥さんだなと思った。
「えっと……ルディ君と呼んで良いかしら?」
「良いですよ」
ルディの了承を得ると、ルネが彼に向かって丁寧に頭を下げた。
「この度は夫を救って頂きありがとうございます。貴方のおかげで王太子殿下も安心して王位を継承できると褒めておられました」
傲慢な貴族とは異なるルネの丁寧なお礼に、ルディも頭を下げる。
「これはこれは、ご丁寧にありがとうございます。レインズさんとは長い付き合いになると思うです。今後ともよろしくお願いします」
お互いに頭を上げてルネとルディが同時に微笑む。
ルディは、この奥さんだったらレインズの子供たちもグレずに成長し、後を継いでも問題ないと判断する。
一方、ルネはルディの天使の様な微笑みにクラっときそうになるが、普通に丁寧な受け答えが出来るのに最初に会った時の気さくな態度は、奈落の魔女の命令で、こちらの態度を伺って様子を見ていたのだと思い、自分の行動は正解だったと安堵した。
ちなみに、彼女の考えは見当違いで、別にルディもナオミもそんな事を思っていない。
「ところで、2人揃ってどこかへお出かけですの?」
「え? あ、はい。予定通りに里へ帰る?」
何故に疑問形と思いつつ、急な旅立ちにルネが驚く。
「あら、昨日帰ってきたばかりなのにもうなのですか」
「ししょーの家で一泊するからへーきです」
「師匠というと、もしかして奈落の魔女様?」
「そーです」
「是非、奈落の魔女様ともお会いしたいですわ」
ルネはルディと会って、奈落の魔女と恐れられているナオミにも会いたいと思った。
「んー、ししょーはこっちに来ねえ言ってたから無理です」
「あら? 何故かしら?」
ルディの乱暴なのか丁寧なのか分からない話し方が面白いと思いつつ、ルネが首を傾げると、ルディが肩を竦めた。
「革命の魔女と言われるのが、こっ恥ずかしいらしいです」
それを聞いてルイジアナとルネが笑いだした。
「ふふふ、奈落の魔女様らしいです」
「あらら、世界中から恐れられているのにシャイな方なのね」
「ししょーは破天荒だけど、普通の女性ですよ」
それは普通と言わない。
「それじゃ、ルネさん。また機会があったらまた会いやがれです」
「あらら、もっとお話ししたかったのに、もう行っちゃうの?」
「そろそろ昼飯だから、一郎が待ってるです」
「…一郎?」
ルネは一郎がゴブリンだと思わず、変な名前をした人間の同居人が居ると勘違いする。
「では、サラダバー」
「それではルネ様、行ってまいります」
ルディに引っ張られてルイジアナが慌てて別れの挨拶をする。
「あらあら、仲の良いことで」
立ち去る2人の様子に、ルネが微笑んで見送った。
ルディはまた誰かと会って話が長引くのを嫌がり、フードで髪と顔を隠して街中を歩いた。
そして、久しぶりに見る領都を眺め、以前と違って活気がある様子に笑みを浮かべた。
「レインズさんの改革は順調なようですね」
「レインズ様の演説の日から領民の笑顔が増えました。おそらく彼らの心に希望が戻ってきたのでしょう」
以前の領都では薄給に不満のあった警備隊がのさばり歩き、領民に暴力や強奪をしていたが、今は警備隊にも普通に給料が与えられ、市民から強奪する必要もなくなってか真面目に働いている。
「頭の固いソラリスにしては、良い仕事してやがるです」
「そんな事言ったらソラリスさんに失礼ですよ。彼女が居なければここまで発展せず、未だに街中は混乱していたと思います」
ルイジアナが窘めると、ルディが肩を竦めた。
「ルイちゃんは甘めーです。アイツ、こっちが準備しねえと何も出来やしねーです」
ちなみに、ルディがソラリスにレインズの元へ出向しろと命令した時、彼女はどうして良いか分からず、ルディは彼女にファンタジー系の領地経営シミュレーションゲームを10回ほどクリアさせてから、システムエンジニアのアプリケーションをインストールさせて送り出した。
その結果、デッドフォレスト領が発展したのだから、ルディは影の功労者と言って良いだろう。
「でも彼女は優秀ですよ。この国の王太子殿下も褒めてました」
「レインズさんから聞いた王子様の性格、やんちゃらしいですね」
「ふふふ、それは子供の頃の話です。あの頃は確かによく城を抜け出してましたね」
人間よりも長寿なエルフのルイジアナは、レインズと王太子を子供の頃から知っており、その時を思い出して笑った。
こうして2人は話しながら街を歩き城門を出ると、輸送機が停泊している草原に向かって歩き始めた。
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