第166話 ナオミの長寿化
『ところでマスター。ナオミからアンチエイジングで寿命を延ばしたいという要望がありますが、どうしますか?』
体内のマナが電子頭脳に流れてすっからかんになったルディは、ハルから予想外の話を聞かされて目をしばたたかせる。
「なんですか、それ」
「とりあえず移動しないか?」
「そーですね」
今居る場所は手術室前の廊下。2人は話が長くなるだろうと、ルディの部屋へ移動して、そこで話を聞く事にした。
ルディが自分の部屋のリビングで、ナオミからアンチエイジングで寿命を延ばしたい理由を黙って聞いていたが、彼女の話が終わると顔をしかめて腕を組んだ。
「うーん。その理由だとアンチエイジング意味ねーです」
「そうなのか?」
ルディの返答にナオミが首を傾げる。
「そーなのです。アンチエイジングは肉体の寿命を遅延させるだけなのです。人間老けるとボケ始まるですが、アンチエイジングしてもボケるです」
「でもルディは81歳だったよな。全くボケている様には見えないぞ」
「そのための電子頭脳です」
「なるほど」
ルディの返答にナオミが納得して頷く。
もちろん便利だからという理由もあるが、電子頭脳は脳細胞の減少を低下させる役割もあった。
「いつまでも若く美しくなりてーって理由だったら、冷凍保存してやるからとっとと死ねと言ったですが、学びてーから長生きしたいというのは、さすがししょーです。その傲慢な知識欲は尊敬に値するです」
そう言うとルディが微笑んだ。
「だったら私の脳も電子頭脳に……」
「少しは待ちやがれです」
ナオミの話を途中でルディが止める。
「脳みそ電子頭脳にしても、まずはアンチエイジングの適正ねーと、ただのボケない婆になるだけです。ハル、ししょーのDNAからアンチエイジングの適正あるか調べやがれです」
ルディがハルに命令すると、すぐに返答が返ってきた。
『相談された時点で確認しました。ナオミのアンチエイジング適正年齢はマスターと同じく500歳前後です』
それを聞いてルディが目を大きく見開いた。
「それはすげーです。確率で言うと全宇宙人口の30%以下ですよ」
「そうなのか?」
「アンチエイジングは世代を重ねれば重ねるほど適正年齢増えるけど、1世代で500歳はレアです。だけど、それで電子頭脳にするのはまだまだハードルが高いです」
「どんな問題があるのか教えてくれ」
ルディはナオミの質問を答える前にコーヒーを飲み、どう説明しようか考えてから口を開いた。
「まず、ししょーの年齢ですね。電子頭脳化は10代でするのが普通です。1番の理由は、生の脳みその記憶を電子頭脳に移す容量が少ねーからです」
「……ふむ」
「それと、電子頭脳化手術だけなら1日で終わるけど、それまでが色々大変なのです」
「そうなのか?」
「そーなのです。人間、大脳、脳幹、小脳、それぞれ個性がありやがるです。だから僕の電子頭脳のスペアをそのままししょーに入れるの出来ねーです。1から作るなると最低3年ぐらい必要ですが、その頃のししょーの年齢だと適応年齢ギリギリなのです。ハル、31歳の電子頭脳化手術成功率は何%だ?」
『普通なら69%ですが、ナイキの設備だと5%減少すると思ってください』
ナイキの返答にルディが頷く。
「つまり、36%の確率で手術失敗、運が良ければ記憶失くすだけで済むですが、大半は手術中にショックで死にやがるです」
「3年…36%か……丁度良いな」
「……はい?」
ナオミの呟きにルディが首を傾げる。
ルディとしては脅したつもりだったが、ナオミは奈落の魔女と恐れられた女性。数多くの死線を乗り越えた彼女からしてみれば、36%の死亡率など大した数値ではなかった。
「3年もあればローランドとの戦争も終止符を打ってるだろう。時期的に丁度良い」
「死亡率は?」
その質問を聞くと、ナオミがとびっきりの笑顔をルディに向けた。
「たったの36%だろ。今までの人生で私がどれだけ死にかけたと思っている、そんな数値大した事じゃない。それに、電子頭脳にしても魔法が使えるように、お前が何とかしているしな」
そう言うと、ルディが戸惑った様子で首を傾げた。
「うーん。良いのかな? ハル、帝国民以外に電子頭脳とアンチエイジングをするのって、法律で許されてやがるですか?」
『そもそも、その様な法律はございません』
「……法の整備があめーです」
ハルの返答にルディがツッコみを入れる。
結局、本人がその気でルディは今更駄目とは言えず、銀河帝国の法にも引っかからないという事で、押し切られて彼女のアンチエイジングと電子頭脳化が決まった。
そうと決まったならば、ルディは電子頭脳化手術の成功率を上げる為、ナオミの寿命を出来るだけ若くしようと、彼女にアンチエイジングをする事にした。
「いやぁ、自分で言っといてなんだけどドキドキするな」
「こっちもいきなりでドキドキです」
治療室に移動した2人が、治療タンクの前で会話する。
そこへドローンが部屋に入ってきて、彼女に合わて配合したアンチエイジング薬を持ってきた。
「ししょー、今からアンチエイジングの注射打つです」
「うむ」
「この注射打つと3日間は寝込むから、治療タンクで全裸になって眠りやがれです」
治療タンクに入れる理由は、栄養剤の点滴よりも体調管理が楽だから。
「分かった」
ナオミが頷き腕を差し出すと、ルディは彼女の腕に消毒液を塗ってから注射器を刺した。
「オッケーです。もうしばらくすると眠くなるから、全裸でタンクに入ってろです」
それを聞いたナオミが頷いてから、何かを思い出して軽くルディを睨む。
「私がタンクに入ってるところをあまり見るなよ」
「女の裸、興味ねーです」
ルディはそう答えると肩を竦めてとっとと部屋を出て行った。
そのあっけなさに、ナオミはルディらしいと思いつつ服を脱ぎ、治療タンクの中に入る。
そして、暫くすると眠くなり、長い眠りに就いた。
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