第163話 ルディ改造計画

「それで結局、ルディは魔法を使えるようになるのか?」


 話が大分逸れてしまって、ナオミが本来の目的に話を戻すと、ルディは電子頭脳の改造について話し始めた。


「マナニューロンの理論が正しかったから、僕、魔法使えるようになるです」

「具体的にどうやって?」

「そーですね……ハル、僕の電子頭脳のスキャン画像、モニターに表示しやがれです」

『イエス、マスター』


 ルディの命令にハルが従って2人の前のモニターに、ルディの電子頭脳の横断面図が表示された。


「必要なのはマナ専用のバッテリーとパワコンパワーコンディショナーです。それを脳みそと脊髄の間に埋めるです」


 ルディはそう言うと、モニターに映る自分の脳の後ろをトントンと指した。


「確かバッテリーは電気を貯める装置だったな」

「そのとーりです。パワコンは体内のマナを脳のマナに変換させる装置と思いやがれです」


 そこまで聞くと、ナオミもルディの考えを理解する。


「なるほど。つまり、体内のマナをパワコンで脳のマナに変換させて、バッテリーで貯めるんだな」

「さすがししょー、誰もが驚く理解力です」


 ナオミの発想力をルディは相変わらず凄いと褒める。


「普段は体内のマナからパワコンを通して、バッテリーにマナを蓄積するです。そして、魔法を使うときは大脳皮質から送られる上位運動ニューロンを、バッテリー経由で上位マナニューロンに変えて、下位マナニューロンがある脊髄に送りやがるです」

「……そんな事が可能なのか?」


 ナオミの確認に、ルディが腕を組んで考える。


「そっちの方はソフトウェアで何とか出来ると思っているですが……ハルはどう思いやがるですか?」

『電子頭脳のメモリーに魔法の指向性をいくつか登録して、アプリケーションで起動させれば可能です』


 ハルの返答にルディが笑みを浮かべた。


「だったら問題ねーです。魔法は僕の体内マナ蓄積量に合わせて、メモリーの登録変えれば良いだけです」

『残念ですが体内マナ蓄積量だけではまだ足りません』

「と言うと、何ですか?」

『マスターの下位マナニューロンは一度マナを貯めていたゴブリン一郎と異なり、ゼロからの成長になります。おそらく成長するのに時間が掛かるでしょう』


 それを聞いてルディが顔をしかめた。


「投薬で何とかするしかないですね」

『マスターのマナ蓄積量と合わせて、少しづつ増やしましょう』


 ナオミはルディの下位マナニューロンがない話に、この問題は解決できないと思っていたが、ルディとハルがあっさり薬で解決しようとしているのを聞いて驚いた。


「チョット待て!」

「なーに?」

「今、薬で下位マナニューロンを増やす話をしていたが、本当にそんな事ができるのか?」


 ナオミの質問に、今更何をとルディが目をしばたたかせた。


「この星に来て直ぐにししょーから採取した血液で、マナのゲノム解析しているですよ。ハル、分析は何%まで進んでるですか?」

『現在、76.24%まで解析済です、後1週間もあれば完了します』


 ハルの報告にルディが笑みを浮かべて頷く。


「解析したら何とかなるです」

「……どうやら私は科学の力をまだまだ甘く見ていたらしい」


 そう言うとナオミは額を押さえてため息を吐いた。




 ルディの電子頭脳に埋めるバッテリーとパワコンの設計は、ハルでも1週間掛かるという報告に、ルディは一度星に帰る提案をするが、ナオミはまだ宇宙を満喫していないと反論。そして、ルディも別に急いで星に戻る要件もないから、このままナイキに留まった。


 ナオミは面倒くさそうなゴブリン一郎を引き連れて、ルディの案内でナイキのエンジン、ワープ装置、重力装置、慣性制御装置などを見学する。

 どれを見ても興奮していたが、特にエンジンは一部しか見えなかったけど、ルディから直径250mもあると聞いて、城ほどある大きさに大興奮していた。


「ルディ、ルディ。ナイキを作るのにどれだけの人材と時間が必要なんだ?」

「知らねーです。ハルは知ってるですか?」


 ナオミの興奮しながら質問に、ルディは知らぬとハルに振る。


『ナイキの製造には8年掛かってます』

「だそーです。思っていたよりも長げーですね」

「これだけの物をたった8年で……」


 宇宙を旅する者と星に生きる者では、時間の感覚が違っていた。


『おそらく、製造に必要な素材を集める時間の方が長いでしょう』

「そうなのか?」

『合金に必要な一部のレアメタルは、輸送だけで10年以上掛かります』

「ルディはそういうのを運ぶ仕事をしていたんだな」


 ナオミの質問にルディが頷く。


「そーです。個人事業でしたけど、結構仕事多かったです」

「それだけ経済が活性化していたんだな」

「それを思い付く、ししょーの柔軟な思想はさすがです」


 ちなみに、ゴブリン一郎はナイキの設備を見てもチンプンカンプンで、暇そうに鼻くそをほじっていた。




 また見学とは別に、ヴァーチャルトレーニングを気に入っていたナオミは、魔法の訓練に丁度良いと何度も繰り返し遊んでいた。


 特にハルがルディのログから作った斑との対決は、相手が魔法の利かない敵にも関わらず勝利して、観戦していたルディとゴブリン一郎を驚かせた。

 ちなみに、どうやって勝ったかというと、最初、相手の動きを止めようと落とし穴を作り、斑を落としてから土を覆い被せて生き埋めにする。しかし、魔法抵抗の高い斑はナオミが作った土を消して、這い上がろうとした。

 だが、ナオミは斑が穴から顔を出したところを口の中に杖を差し込んで、爆発の魔法を発動させた。

 要はルディが戦った方法をまねしたのだが、どうやら斑は内臓器官まで魔法抵抗できなかったらしく、体内から爆発して息絶えた。


 勝利を手にして高笑いしているナオミに、ルディは「さすししょー」と喜び、ゴブリン一郎は自分が負けた相手に勝利した彼女を、おっかねえ女と怯えた。


 そして、ゴブリン一郎だが、ずたぼろにされた経験からヴァーチャルトレーニングを嫌がった。それについては全部ハルが悪いとルディは思う。

 だけど、このままではゴブリン一郎が博愛主義に目覚めて、一生戦わないと危惧したルディとナオミは、1人で戦えなければ一緒に戦えば良いと、嫌がるゴブリン一郎と2人のどっちかが一緒に戦った。


 ゴブリン一郎も強い2人が守ってくれるならばと戦うが、ルディとナオミは彼を前線で戦わせて自分たちは後方支援に回り、殆どの敵を彼に倒させた。

 その結果、ゴブリン一郎は目覚めかけた博愛主義をゴミ箱に捨てた。

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