第151話 治験終了
(バイタル値問題なし、病気もなし、体力はバカが付くほど有り余ってる、知能は……ゴブリンの知能なんて知らんから放置)
マナ回復薬の研究から数カ月、ゴブリン一郎の治験結果は特に問題なく、薬の効果も予想通りの結果となり、ルディはマナ回復薬と改良したマナワクチンの合格を出した。
ちなみに、この星のゴブリンの特徴にマナを消費させて身体能力の増加があったため、ルディとソラリスは毎日ゴブリン一郎を限界まで運動させて翌日のマナの効果を確かめていた。ナオミのダイエットに協力したのはおまけ。
(うーん。本当は人間でも実験したかったな。レインズさんに死刑囚貰えば良かった)
ルドルフたちの絞首刑は10日前に執行されたので、今頃になって思い付いてもどうしようもない。
「ただ、本当にこれを飲むべきかどうかが、問題なのです……」
ルディはそう呟くと、手の中にある改良したワクチンの入った瓶をじっと睨んだ。
ルディが悩んでいる理由は、同居人のマナが化け物だから。
ルディはナオミのマナに驚いて、ゴブリン一郎がひっくり返るのを何度も目撃していた。
どうやら体内のマナは、外部からのマナに影響されるらしい。
という事は、この改良したワクチンを打ってしまうと、自分もナオミがマナを放出したらひっくり返るのだろう。
それは、男としてのプライドが傷つくなぁと思う。
それと、マナが無いと魔道具に引っ掛からないというのも、ルディの中では高評価だった。
またどこかに侵入する機会があるとは思わないが、領主館に忍び込んで検知の魔道具に引っ掛からず素通りした時、心の中で「ねえ、高価な魔道具を設置したのに、全く無意味だよね、プギャー!」と嘲笑う快感は捨てがたい。
だけど、やっぱり魔法は使いたいと思う。
ルディが子供の頃、試験管から生まれた彼は施設で育ったのだが、その施設に超能力の適正者が居て、ルディはその子供と同室だった。
子供は兵士として超能力が使える様に遺伝子を組み替えて作られたのだが、よくルディの目の前で積み木を宙に浮かせて自慢していた。
それを見たルディは超能力に憧れていたが、自分には適正がなく諦めていた。
ちなみに、その子供は10歳になると別の施設へと移動させられて、それ以降会っていない。
超能力とは違うが、魔法はそれに似ている。
自分もナオミみたいに色んな魔法が使えれば、人生が面白くなるし、イージーな生き方にも幅が広がるだろう。
昔を思い出したルディは決心して、すぐにドローンを呼ぶと改良したワクチンを腕に注射した。
「んーこれは…頭が痒い感じですね」
改良ワクチンを打っても体に問題が無いことを確認してから、ルディがマナ回復薬の錠剤を飲んでみると、暫くしてから頭が痒くなってきた。
(一郎は頭痛、辛そうだったんだがなぁ……)
頭をぽりぽり掻いてルディが首を傾げる。
ゴブリン一郎にマナ回復薬を投薬した当初、彼が何度か頭を押さえて顔をしかめていたから、おそらく薬の副作用で頭痛がしていたと思ったが、ただ単純に頭が痒かっただけらしい。
だけど、そのルディの推論は間違いで、ゴブリン一郎がマナ回復薬を飲んだ時は激しい頭痛が襲ってきたのだが、ルディの脳は電子頭脳で守られており、脳に悪影響する攻撃に対して抵抗していたからだった。
「まあ、良いです。とりあえずししょーで確認するですよ」
そう言うと、ルディはナオミに会いに地下の研究室を出た。
「ししょー、ちょっと良いですか?」
ルディが地下からリビングに行くと、ナオミがソファーで寛ぎながらスマートフォンで電話をしていた。彼女に電話をする相手は十中八九ニーナだろう。
「チョット待ってくれ、いやこっちの話だ。ああ、ルディだ、彼も元気だぞ。そうのなのか? それは大変だな…でも送る手段が……それにあれはルディの物だし、彼の許可がなければ……」
「コーヒー淹れて来るです」
「アイスカフェラテ、ミルク多めでよろしく」
暫く時間が掛かりそうだと思ったルディが台所へ向かうと、彼の後ろからナオミの注文が聞こえてきた。
「了解です」
自分のコーヒーとナオミのカフェラテを作って戻ると、丁度ナオミの電話が終わった。
「ニーナの電話は油断すると長くなるから、いいタイミングだった」
「なんの話してたですか?」
「うむ。前にニーナの服を作った時にファッション誌を見せただろう」
すっかり忘れていたけど、そんな事もあったなと思いだす。
「ニーナがファッション誌の話を王妃にしたら、王妃が興味を沸いて自分も見てみたいと言ってきたらしい」
「そーですか。だったら元データ送るから、メールで送りやがれです」
元々あのファッション誌は電子書籍だから、データをメールで遅れば一件落着である。
「良いのか?」
「相手が王妃って事は、スマートフォンも知ってやがるですよね?」
ルディの質問にナオミが頷く。
「スマートフォンを誰構わず見せびらかすのはご法度ですが、相手が知ってるなら構わねーです」
「分かった。その電子書籍を私に送ってくれ」
「少々待ちやがれです」
ルディはそう言うと、ナイキのファイルサーバーから数冊のファッション誌をコピーして、ナオミ宛にファッション誌を添付したメールを送信した。
「それで、何か用があったのではないか?」
ナオミの質問にルディが頷く。
「実はさっき改良したマナのワクチンを注射したです」
その返答にナオミが驚きゴクリと唾を飲みこんだ。
「お前は何時も唐突に何かをするな。だけど、治験はもう良いのか?」
「一郎元気だから、オーケーしたです」
そのゴブリン一郎は、外で元気に畑の手入れ中。
「そうか、おめでとうと言うべきなんだろうな」
「ありがとうです。それで、マナ回復薬を飲んでみたけど、ししょーから見て、僕の体内にマナありやがるですか?」
ナオミを見れば彼女のマナが分かると思っていたルディだったが、見てもマナを感じず疑問を感じ、今度はナオミから見て自分にマナがあるか確かめようと聞いてみた。
「んーー」
ナオミが目を凝らしてルディを見つめる。そして……
「無いな」
その返答にルディが「あれ?」と首を傾げた。
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