第147話 革命の魔女
「デッドフォレスト領前領主、ルドルフ。お前は領民に対して多額の重税を課し、税金が払えず滞納した領民を奴隷にして、小作人または他国へ売却して利益を稼いだ結果、そのせいで4つの村が廃村になった。また、奈落の魔女の討伐に、現地調達として1つの村の村民を皆殺しにした挙句、奈落の魔女に倒された兵士を救う事なく飢え殺しにした。そして、人口減を災害のせいだと国に対して虚偽の報告を行い、ローランドにデッドフォレスト領を売却しようとした……」
ナッシュがルドルフの罪状を読み始めると、罪状を読み上げる度に大衆からルドルフに向かって多くの野次が飛ぶ。
そして、ナッシュが罪状を全て読み上げ、後は判決を言い渡す段階になると、大衆は静まり返って期待した様子でレインズの判決を待った。
「……以上の罪により有罪とし判決を言い渡す。ルドルフ、貴様は財産没収の上、妻と妾、共に極刑に処す!」
レインズが声高らかに叫ぶと同時に、大衆から今まで一番の大歓声が沸き起こった。
そして、死刑が言い渡されたルドルフは裁判が始まってからずっと俯いたまま顔を隠しており、判決が言い渡されても身動き一つせず、一方彼の後妻と2人妾は処刑されると聞いてヒステリックに泣き叫んだ。
大衆からの歓声が少し収まり、レインズがルドルフに話し掛ける。
「最後にお前が虐げてきた領民に対して、謝罪する気はあるか?」
最後にレインズに尋ねると、ルドルフが顔を上げて頷き、踵を返すや自分を見つめる大衆に向かって大声で叫び始めた。
「お前たち、本当に弟が領主になっても良いのか? コイツは奈落の魔女とグルだぞ!」
謝罪するのかと思いきや、いきなりレインズの批判を言いだしたルドルフにレインズは驚き、その隙にルドルフはさらに大声を張り上げる。
「あの魔女はローランドの兵を5000人虐殺し、今回も3000人の兵士を殺した。それだけじゃない! 儂の兵士だって少なくても700人は殺している。今はまだ良い。だが、少しでもあの魔女の逆鱗に触れたら、お前たちは全員、あの魔女に殺されるぞ‼」
ルドルフの演説に先ほどまで野次を飛ばしていた大衆がざわめき始め、不安を口にしだした。
「……確かにあの魔法は恐ろしかったな」
「一度で兵士を皆殺しにしちゃったわね」
「もしレインズ様が奈落の魔女を怒らせたら、俺たちも殺されるんじゃね?」
全くの風評被害だが、それほどまでに奈落の魔女の悪名は広がっており、実際にナオミの魔法を目撃した多くの領民は、彼女の強さを恐れていた。
大衆のざわめく様子にルドルフが笑みを浮かべる。
そして、正気に戻ったハクが慌てて壇上に現れるや、ルドルフを倒して床の上で押さえつけるが、それでも最後の足掻きとルドルフは大声で叫んだ。
「俺の言っている事は嘘じゃない! レインズは奈落の魔女を操って恐怖政治を行い、容赦なくお前たちを殺……」
「うるせえ! 奈落の魔女は何もしねえよ、バーカ‼」
ルドルフの声を遮って、大衆の1人が彼よりも大声で怒鳴り返した。
全員が怒鳴った人物に視線を向ければ、大声を出した人物はウィートだった。
「奈落の魔女は、お前の悪政から俺たちを助けたんだ。負けたからってキレてんじゃねえよ! 彼女は奈落の魔女じゃねえ、革命の魔女だ‼」
その言葉は大衆の心に響き逆風となって、奈落の魔女の風評被害を吹き飛ばした。
「そうだ! 奈落の魔女は俺たちを救ったんだ!」
「私たちを虐めてたアンタが言うんじゃないよ‼」
「その通りだ、お前は早く死ね!」
ウィートのツッコミを切っ掛けに、多くの人間が奈落の魔女とレインズを支援する。
そして、大衆から『革命の魔女!』のコールが鳴り響いた。
その様子に唖然とするルドルフをハクが引き摺って壇上から連れ去る。そして、ナッシュが裁判の閉幕を告げ、次にレインズの政策について話があると大衆を引き留めた。
「何だこれは……」
投射スクリーンで一部始終を見ていたナオミが、顔を真っ赤にして呟くと、ルディがしたり顔で頷き口を開いた。
「さすが僕が見こんだウィートです。ししょーの悪名をたった1発のツッコミで払いのけやがったです」
「こんな事されたら、恥ずかしくて二度と領都に行けない!」
ナオミはそう叫ぶが、ルディはニコニコと笑った。
「別に良いじゃないですか。奈落の魔女改め、革命の魔女。うん、良い響きだし、ししょーにお似合いです」
「だけど今回は殆どルディの功績じゃないか。私なんて最後にチョロっと働いただけだぞ」
「そのチョロっとが重要なのです。それにログ見たけど、ししょーが空から現れるや、全員をマナで抑え込んで兵士を一掃……インパクト凄げーです、あんなの見せられたら誰でも英雄とあがめる違うですか?」
「……ぐぬぬ」
ルディに言い負かされてナオミは何も言えずに唸り、頭を抱えるとソファーにバタンと倒れた。
「当分、人前には出ない。何かあったらルディが対応して」
顔を隠して恥ずかしがる様子が面白かったのか、ルディがクスクスと笑った。
「はいはい、分かりましたです」
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