第142話 メテオストライク

「ではローランドの兵士を皆殺しにしてくる。ルディ、行くぞ」

「了解です」


 呼び止めるレインズを無視して、ナオミがルディを連れて執務室から出る。そして、部屋を出たところでルディに話し掛けた。


「ところでルディ。マナ回復薬はまだ飲めないか?」

「マナ回復薬ですか? まだ臨床実験の途中だからお勧めはしねえです。で、ししょーもしかして?」


 何となく予想はついているが、一応聞いてみる。


「うむ。領民を押さえつけるのにマナを放出し過ぎた」


 そう言うとナオミが肩を竦めた。

 マナを魔法に変換させれば消費量を多少は減らせるのだが、相手を無傷で抑えるため、彼女は魔法を使わずに力ずくと言っても良い手段で強引に抑えた結果、大量のマナを持つ彼女でも枯渇寸前だった。


「そーですか。だったら僕がししょーの代わりに、ローランドの兵をぶっ殺してやろうかです?」

「ルディがか?」

「まあ、僕が殺る場合、跡形もなくなるですけど……」

「ほう……そいつは見てみたい。ルディに任せよう」


 困った顔をするルディとは逆に、ナオミがイイ笑顔を浮かべた。


「じゃあ、とっとと輸送機に戻りやがれです」


 こうして2人はナオミの魔法で姿を消して領主館を抜け出すと、こっそり街から抜け出して待機していた輸送機に乗り込んだ。




 2人は輸送機に乗って空を飛ぶと、ローランド兵士が野営している場所から10km離れた上空で待機していた。


「それで、どうやって戦うんだ?」


 モニターでローランドの兵士が野営している状況を見ながら、どこかわくわくしているナオミに、ルディが腕を組んで説明を始める。


「まずですね、宇宙から1mぐらいの適当な石を見つけるです」

「うむ」

「そのまま落としても大気圏突入時に燃え尽きるから、石の周りを耐熱性セラミックで覆うです」

「確か大気圏突入時の温度は2000度ぐらいだったかな?」


 力学を勉強しているナオミの質問にルディが頷き返す。


「ししょー、よく勉強してやがるですね。星の大きさで変わるけど、この星だと大体そのぐらいです。ちなみに耐熱性セラミックは2700度ぐらいまで溶けねーから、隕石そのまま落ちるです」

「ふむふむ。それで?」

「それだけです」


 続きを促すナオミに答えると、彼女がキョトンとした。


「それだけか? たった1mの隕石を落とすだけだぞ」


「隕石、宇宙から落下すると、秒速11km~18kmで落ちやがるです、時速だと4万~7万kmですかね。そーなると100mぐらいのクレータ出来やがるです。だけど、そーですね……落ちたの時の衝撃で半径1kmぐらいは全部吹っ飛ぶんじゃないかなー思うのです」


 そうルディが答えると、ナオミがポンと手を叩いた。


「ああ、そうか。衝撃時の事を忘れてた。確かに1mの大きさでも地表に落ちたら全部消し飛ぶわぁ」


 ナオミが納得した様子にルディが頷く。


「と言う事で、実は既に隕石の準備出来きてるから、後は軌道計算だけです」

「準備万端だな」

「だけど今回はししょーに科学の力を見せてやろうと思ったからやるけど、今回だけです」

「……ん?」


 ルディが言いたい事が分からず、ナオミが首を傾げる。


「僕、ローランドとの戦争で隕石落とし使うつもりねーです」

「ああ、そうか…そうだな、それで良い。この星の事はこの星の人間が解決するべき問題だ。宇宙人のお前が手出しするのは道理が違う」


 納得顔のナオミにルディが笑って肩を竦めた。


「まあ、この星の人類が発展する方向だったら、大いに手助けしてやるです」


 そうルディが言うと、ナオミが微笑んで頷いた。




 しばらくして隕石落下の計算処理をしていたハルから連絡が入ってきた。


『マスター計算が整いました』

『よし、発射しろ』

『イエス、マスター……発射しました。4分21秒後に目標ポイントに降下します』

『了解。エースの実力を特等席で見させてもらうよ』


 ルディは冗談でハルとの交信を閉じると、ナオミに話し掛けた。


「ししょーあと4分で隕石落ちます」

「おー」


 ルディの話にナオミが輸送機の窓から夜空を見上げて隕石を探し始め、暫くすると東の空の彼方から赤く光る流れ星を見つけた。


「お? アレかな?」


 ナオミの反応にルディも彼女が見ている先を探す。


「んー時間的にそうかもです。一応この船の窓、紫外線、赤外線防止してやがるですが、落ちた時に激しく光るから気を付けやがれです」

「分かった」


 そうルディが注意してもナオミの好奇心は収まらず、今か今かとワクワクした様子で外を見ていた。




 その後はあっという間だった。

 流れ星が見えたと思ったら空から激しい轟音が鳴り響き、ローランドの兵士が野営している場所に隕石が落下するや、地表が激しく光って巨大な爆発雲が現れた。

 爆発雲を中心に突風と熱波が地表を走り、2人が乗っていた輸送機も爆風で煽られる。

 そして、その突風と熱波はローランドの兵士だけでなく、あらゆる生物に襲い掛かってすべての命を奪った。


 ナオミはルディの警告を無視して落下地点を見ていた為、衝突時の光で視力を失っていたが、暫くして視力が戻り衝突地点を見る。


「……凄まじいな」


 愕然として呟くナオミの視線の先では、ローランドの兵士の姿は全て消え失せて、代わりに大きなクレータが出来ており、衝突地点から半径1km内のあらゆる生物が消え失せていた。


「ししょー、覚えておいて欲しいです。魔法、確かにすげーけど、科学が発展すると魔法の何十、何百倍もすげーです。そして、その科学間違った使い方するとあっという間に人類滅亡しやがるです」

「ああ……そうだな……心して覚えておこう」


 ルディに見せられた科学の力を、ナオミは一生忘れないと誓った。

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