第143話 レインズの側近候補?
ルディとナオミが去った後の執務室では、レインズが今後の領地経営の中核となる人達を呼んでいた。
そして、その呼ばれた中にウィートが居るのだが、彼は何故自分が呼ばれたのか分からず首を傾げていた。
ハクは若かった頃のレインズの従者として、彼を長い間守っていたから当然だと思う。
マイケルたちもレインズの旧友だから、彼らがここに居るのも理解できる。ここに居ないが、もしタイラーが居れば彼もこの場に呼ばれていただろう。
(何故、俺がこの場に呼ばれた?)
ウィートは今回の件でマイケルたちに連絡を取り、ルディを無事に領都に入れ、ルディが領主館に忍び込む前にナッシュたちを納得させるのにも一役買っていた。
暗躍していたのは自分でも自覚している。だけど、それだけだ。ただの使い走りしかしていない。
ナッシュ曰く、前領主ルドルフの側近は、彼の悪事を知りながら率先して行い、賄賂を受け取っていたらしい。
その彼らは領主館の物置に監禁させられて、3日後に略式裁判を行う予定。そして、その裁判も証拠を手に入れてるため、絞首刑が決定されていた。
だからレインズに人材が居ないのはウィートでも理解していた。だけど、それでも自分が呼ばれたのが理解できず、別の話をしている最中だったが、質問する事にした。
「レインズ…様。1つ質問があるんだけど良いですか?」
「はははっ、様はやめてくれ」
ウィートが話し掛けると、レインズは敬語で呼ばれたのが恥ずかしいのか照れたように笑い返した。
「いや、レインズ様。領主になったからには、そう呼ばれるのは当然ですぞ」
レインズの様子にハクが窘めれば、彼も確かにそうかもと笑いを収めて頷いた。
「それで、何か質問か?」
「俺は何でここに呼ばれたんですか?」
その質問にレインズが困惑した表情を浮かべた。
「俺も知らん」
「ほへ?」
その返答に思わず「お前が呼んだんじゃねえんか?」と、ツッコミが口から出そうになり慌てて口元を抑える。
「俺も領都に来たばかりで何が何だか把握していないんだ。お前をここに呼んだのはキッカの推薦だ。彼女に聞いてくれ」
レインズがキッカに話を振ると、彼女は笑顔でウィートに話し掛けてきた。
「アンタ、私が捕まった後で上手く皆に説明してくれたらしいね」
キッカの言う皆というのは、彼女が捕まった時に『微睡み亭』に居た主婦たちの事。
「まあ、説明を求められたからな」
実際は自白紛いに言わされただけ。だけど、正直に言うと彼のプライドが傷つくから曖昧に答えた。
「彼女たちが革命を起こしたのは、私が捕まっただけじゃない。アンタの話が彼女たちを動かしたんだよ」
「はぁ…」
ウィートはそんな大それた事などした自覚なんてどこにもなく、それだけでここに呼ばれたとは思っていなかった。
「これからデッドフォレスト領は大きく発展する。だけど発展だけしても領民が付いて行けない。だから、アンタはこれからレインズ様が発行する領内法を伝える係になるんだよ」
「……俺がか?」
キッカの話に思わずレインズを振り向き尋ねると、彼も笑顔で頷いた。
「確かにその通りだな。ウィートとルディ君のやり取りを少しだけ見ていたが、君は良いツッコ…いや、話をするのが上手いと思った」
今「ツッコミ」って言おうとしただろと、思わずツッコミたくなったがぐっと我慢。
「だけど、俺、今までただの農民ですぜ。ぶっちゃけ文字も少ししか読めねえし……」
「そこは、まあ、あれだ……給料は弾むから頑張れ」
「いや、金の問題じゃ……な、何だ?」
ウィートが限界に達してツッコもうとする途中で、外から空気を切り裂く轟音が鳴りだして言葉を噤むと、その直後に何かが爆発した音がしたと思ったら地震がきて地面が揺れた。
「何事だ?」
思わずレインズが椅子から立ち上がる。
フレオが窓の蓋を開けると、遠く西の空に爆発雲が上がり、夜なのに明るくなっていた。
「な、ん、だ…アレは……」
部屋の中に居た全員が西の空を見て唖然とする。
そんな中、レインズはナオミが言っていたローランドの兵を思い出していた。
「……奈落の魔女」
レインズの呟きにマイケルが振り返った。
「おい、あれが奈落の魔女の仕業だと言うのか⁉」
声を荒らげるマイケルとは逆にレインズは冷静になって頷いた。
「奈落様が言うには、国境付近にルドルフが呼んだローランドの兵が居るらしい。おそらく彼女は彼らを始末するために魔法を使ったのだろう」
レインズはそう言うが、実際はルディの仕業。
ルディのしでかした隕石落としは離れた領都からも見えており、領都では多くの市民が西の空を見て恐怖に怯えていた。
「レインズ様。奈落の魔女は危険すぎる……」
空を見ていたナッシュが忠告するが、レインズは頭を横に振って無理やり笑顔を作った。
「奈落の魔女と接触して分かった事がある。彼女は鏡と同じ存在だ。悪意に対しては容赦なく悪意を返し、善意に対しては善意を返す。俺はタイラーの村でルディ君がミリーという子供と接触しているのを見て、それに気づいた」
「しかし……」
それでも不安そうなナッシュに、マイケルが彼の肩を叩く。
「まあ、レインズが大丈夫だと言うのなら大丈夫だろう。明日にはタイラーも街に来るから、その時に詳しく聞いてみろよ」
「……そうだな」
マイケルに窘められてナッシュが頷く。その時、西から遅れて爆風が領都を吹き荒れ、外では多くの人間の悲鳴が聞こえた。
「もう被害が出ているぞ!」
そうナッシュが言うと、レインズは確かにとそうかもと顔をしかめた。
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