第140話 ガーバレスト子爵の自白
ガーバレスト子爵が口を開くと、ナオミが楽しそうに微笑んだ。
「駄目だ。信用出来ん!」
「えっ⁉」
驚くガーバレスト子爵を無視して、ナオミは一瞬で体内のマナを肉体強化に充てると、鋼鉄の様に固くした右足で彼の足を蹴り飛ばす。すると、バキッという音が響いて、ガーバレスト子爵の左足の骨が折れた。
「ぎゃあぁぁぁぁ!」
折れた足を抑えてガーバレスト子爵が叫び、ナオミの事を理解できないといった様子で彼女を見上げた。
そして、今のナオミの行動に、ルディが首を傾げて彼女に質問をする。
「ししょー、今のは詠唱してないけど魔法ですか?」
「これは身体強化の魔法だな。足を鉄の様に固くして蹴っ飛ばしただけだ。お前もカールに教わっただろ」
「でもカール師範は、身体強化の魔法、慣れれば一言で発動できる言ったけど、今のは詠唱も何もなかったです」
「はははっ。私ぐらい魔法に熟練すれば、この程度の魔法、心の中で念じるだけで発動できるぞ」
「さすが、ししょー、すげーです」
2人の会話を聞いてガーバレスト子爵が愕然とする。
(違う、そうじゃない。今一番聞きたいのは俺が話すと言ったのに、暴力を振るった事だ!)
確かにガーバレスト子爵からしてみればその通りなのだが、彼はルディとナオミを理解していない。
ルディはガーバレスト子爵の命よりも魔法の方が興味があり、ナオミも彼よりもルディとの会話の方が大事だった。
そして、2人に共通しているのは、方法は違えど高が数千のローランド軍の兵士が襲ってきても、自分が居れば何とかなるだろうと考えている事だった。
「次は右足な」
ルディの質問に答えた後、ナオミが再びガーバレスト子爵に向き合う。
「ししょー、折るだけじゃ白状しなさそうですから、僕、切り落としてあげるです」
ルディはナオミが流れでガーバレスト子爵に拷問をしている事を理解しており、それなら自分も手伝おうとショートソードを鞘から抜いて、ガーバレスト子爵に刃先を見せつけた。
「だから、言うから待ってくれ! ローランドの兵士は俺が呼んだ!」
「……ほう? 何故だ?」
「そ、それは……」
ナオミの質問にガーバレスト子爵が言い淀むと、ルディがショートソードを一閃して、彼が座っていた椅子の背もたれをスパッと斜めに切り落とす。
その行動に、とうとうガーバレスト子爵の心が折れた。
「ヒャウ! お前だ、奈落の魔女。全部、お前のせいだ!」
「私の?」
ガーバレスト子爵から自分のせいだと言われて、ナオミとルディが首を傾げる。
「そうだ。お前の作った薬がローランドで大金になったんだ」
「……はあ」
ナオミはまだ理解していなかったが、ルディは「そっちかぁ」と納得しする。
「この領地で万病に効く万能薬が出回って、ローランドが大金を出してでも薬を欲しがった」
「何で?」
「それは儂も知らん。薬の出何処を調べたら、奈落の魔女、お前の作った薬だと言うじゃないか! それで儂は諦めようとした。だけど、アルフレッドの馬鹿がお前に喧嘩を売ったせいで、お前の怒りに触れてしまった!」
ガーバレスト子爵も息子に許可を出したから同罪なのだが、彼の中では全て息子が悪いと決めつけ、話を続ける。
「お前がこの領地に居るだけで、恐ろしくて眠れん。だから、お前と因縁のあるローランドに頼んで、守って貰おうと呼んだんだ」
そうガーバレスト子爵が説明するが、それは逆効果でナオミの逆鱗に触れるだけだとルディが思う。
「それにレインズだ。儂に跡取りが居なくなったら、アイツは絶対に俺の全てを奪いに来る。それだけは死んでも儂は許せん。アイツにこの領地を渡すぐらいなら、ローランドに支配された方がまだマシだ」
彼とローランド国が結んだ契約は、ガーバレスト子爵の安全と財産を守る事を条件に、ナオミを見つけたらローランド国へ報告する事と、領民を奴隷にして格安でローランドへ売買する事が条件に含まれていた。
ガーバレスト子爵は一気に話すと、息切れしたのか激しく呼吸をする。
そんな彼の様子を眺めながら、ナオミは顔をしかめてルディに質問した。
「なあ、ルディ。今の話を理解したか?」
「話は理解はしたけど、思考は理解できねーです」
「奇遇だな。私もそうだ」
2人が困惑した様子で話していると、ガーバレスト子爵がナオミに質問してきた。
「おい、こっちは全部話した。だから儂の質問にも答えろ。アルフレッドはまだ生きているのか?」
「まだ生きているとは思うが、聞かない方が良いぞ」
「いや、教えてくれ」
ガーバレスト子爵の質問にナオミは警告するが、彼は自分の息子が気がかりだったらしい。それは息子に対する愛なのか、自分の財産を息子以外の他人に奪われたくないからかは不明。
そこで、ナオミが仕方がないと言った感じで、アルフレッドが虫の餌製造機になって、そろそろ食い殺される頃だと彼に話した。
「なんて惨い事を……」
話を聞いたガーバレスト子爵が頭を抱える。
だけど、彼は自分の領民に重税を課して払えなかったら奴隷にし、息子のアルフレッドも何もしていない村人を皆殺しにしたのだから、ルディとナオミは彼に対して全く同情しなかった。
「さて、そろそろ終わりにするか」
ローランドの兵は後で何とかするとして、ガーバレスト子爵から話を聞いたナオミは、もう用済みだと彼を殺す事にした。
「ま、待ってくれ。金、金なら払う。だから、命だけは助けてくれ!」
突然の命乞いに、2人が同時に「マジかよ」と目を大きく開く。
「いや、無理」
「そこを何とか」
ナオミが否定すると、ガーバレスト子爵が痛む足を無理して土下座をした。
「……言っとくが、私に殺される方が楽だぞ。外にはお前を嬲り殺しにしようと民衆が待ち構えているんだからな」
「…………」
ガーバレスト子爵は忘れていたが、今、領主館の周りには彼の重税に怒っている領民が取り囲んでおり、その事を思い出してショックを受ける。
彼にとって領民はただの金を稼ぐ道具に過ぎず、反抗するなど思ってもいなかった。
(民度が低いせいなのか、それともただの馬鹿なのか……)
ルディは落ち込むガーバレスト子爵を見て、そんなことを考えていた。
「と言う事で……」
「待ってくれ!」
ナオミが魔法を詠唱しようとしたタイミングで、レインズとハクが部屋の中に入って来るなり彼女を止めた。
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