第139話 ゴー・トゥー・スリープ(毒入り)
ルディとナオミが領主館の前まで到着すると、木で作られた丈夫な門は固く閉ざされていた。
ルディがナイキからの衛星画像を見てみれば、門の裏では大勢の兵士が2人を待ち構えていた。だけど、既に奈落の魔女が広場で暴れたという報告が入っているのか、彼らは彼女の存在に怯えて及び腰だった。
「逃げれば良かったのに、面倒くさいです」
「全くだ」
ルディがナオミに門の裏の兵士の存在を伝えると、彼女は「だから何?」と言った様子で肩を竦めた。
2人は知らなかったが、兵士たちの多くは今まで散々権力を盾に平民に対して暴力を振るっており、彼らが捕まれば私刑により殺されるのは確実で、逃げる場所は領主館にしかなかった。
「わざわざ私が殺すのも面倒だ。処分はレインズに任せよう」
ナオミはそう言って両手を掲げると、魔法の詠唱を始める。
すると、両手の間から白い煙の塊が現れた。
「白昼夢の霧」
ナオミが魔法を発動させると同時に両手の間にあった霧の玉が放たれて、門の向こう側へと消えていったと思いきや、多くの叫び声が聞こえて来たが、すぐに静かになった。
今の魔法は脳神経を一時的に麻痺させて気絶させる魔法なのだが、一般的な魔法使いと違ってナオミが力を込めて使用すると、領主館の庭ぐらいの広さなら余裕で包み込んで、中に居る全員を気絶させることが可能だった。
「しまった。門を開ける人間まで眠らせたか?」
ついうっかりやってしまったと、ナオミが顔をしかめる。
「だったら、ドローンで開けるです」
「む? そうか、頼む」
その提案にしかめっ面だったナオミの顔が緩んだ。
ルディが光学迷彩で隠れていたドローンに命令して門を開けさせる。
2人が侵入すると多くの兵士が庭で倒れていて、嘔吐や痙攣を起こしていた。
「ししょー、何をしたですか?」
「昔から伝わる昏睡させる魔法だ。ただし、チョットだけアレンジしてる」
ちなみに、ナオミのアレンジとは、煙の成分に呼吸麻痺作用をもつアニサチンの毒を含ませていた。
「チョットのレベルじゃないです」
兵士たちを見れば全員が苦しそうであり、思わず目を背けたくなる光景が広がっていた。
「数日で回復する様に調整したから問題ない」
ナオミはそう言うと兵士の間を歩いて奥へと歩き始め、ルディも彼女の後に続いて館の中へと入った。
領主は兵士を全員外に出していたのか、館の中は戦力と呼べる人間の姿が皆無だった。
ルディが左目のインプラントをサーモグラフに切り替えて確認すれば、逃げ惑うか部屋の隅で怯える召使の姿しかない。
そして、領主を探すと、昨日忍び込んだ2階の執務室で、数人の兵士に守られているそれらしき人物を見つけた。
「あれがガーバレスト子爵ですか?」
「見つけたのか?」
「多分。案内するです」
ルディが先を歩いてナオミが続く。
ちなみに、マイケルたちには館の前で付いてくるなとナオミが言い、彼らは渋々ながら外で待っている。
2人は執務室の前まで移動すると、ルディが扉をノックをする。
だが、しばらく待っても返事がなかった。
「居留守ですか? 居るの分かってるです。返事をしやがれです」
ルディがしつこくノックを繰り返すと、部屋の中から怒鳴り声が聞こえてきた。
「うるさい! うるさい! 何なんだお前は、帰れ‼」
その声にやっぱり居たとルディが扉を開けようとするが、その前にナオミが彼の手を抑えて、ルディにだけ聞かせる様に小声で口を開いた。
「素直に降参するとは思えない。ここは私が対処しよう」
ナオミはそう言うと、ルディに替わって扉の向こう側に話し掛けた。
「ガーバレスト子爵、私は奈落の魔女だ」
ナオミがそう言うと、扉の向こうから「ヒィ!」と悲鳴がして、武器を鳴らす音が聞こえた。
「今から扉を開けるが、何もしなければ直ぐには殺さない。だが、もし私を殺すつもりなら死ぬ覚悟をしろ」
ナオミはそう言った後で、ルディに視線を向けて合図を送る。
その視線を受けて、ルディはすぐにドローンに命令して鍵を開けさせた。
ナオミが扉を開けて部屋に入るなり、待ち構えていた兵士が彼女に飛び掛かってきた。
「愚か者が!」
兵士に切られる前にナオミが体内のマナを解放すると、飛び掛かった兵士が吹き飛ばされて壁に激突。そして、倒れた兵士に向かってナオミが手を翳して魔法を唱える。
それだけで兵士の体が炎に包まれて一瞬で灰になった。
「ヒィィィ!」
一瞬の出来事に、椅子に座っていたガーバレスト子爵が転げ落ち、後ろへ這いずって壁に追い詰められた。
「ガーバレスト子爵、少々やりすぎたな。先代が草葉の影で泣いているぞ」
ガーバレスト子爵を見下ろしてナオミが話し掛けるが、彼は怯えて口がきけないのか、体を震わすだけで何も言い返せずにいる。
「今すぐ殺す事も出来るが、その前に1つだけ質問だ。領都の西に何でローランドの軍が居る? 10秒以内に答えろ」
ナオミが領都へ降りる前、輸送機のモニターで見たローランドの兵士。
それが気になっていた彼女は、ガーバレスト子爵なら知っているだろうと質問した。
「7、6……ああ、ちなみに10秒経っても殺しはしないが、死にたくなる気持ちにはさせてやる……3、2、1……」
「待て、分かった! 頼む、全部話すから何もしないでくれ‼」
ずっと震えているだけだったガーバレスト子爵は、ナオミの脅しに負けてようやく口を開いた。
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