第135話 マナの暴力降臨
ローガンが魔法を発動する前、ルディとナオミは領都の上空でこの状況をどうやって打破するか悩んでいた。
「ししょーこれは非常にマズイ状況だと思うのです」
「ルディ君、奇遇だな。実は私もそう思っていたところだったんだ」
ナオミが冗談を返すと、それが面白かったのか深刻な状況にも関わらずルディが笑いそうになった。
「それとですね。これを見やがれです」
ルディが輸送機のモニターを操作して領都の西側20km先を拡大すると、3000人ぐらいの兵士がデッドフォレスト領とローランドの国境付近で野営している様子が映った。
「ふむ。この装備には見覚えがある。ローランドの兵士だな」
モニターを見たナオミが真剣な表情に変わった。
「まだこっちの領地には入ってねえけど、明日には国境を越えて進軍してきそうな雰囲気です」
「あの国は相変わらず狂犬みたいだな。どこにでも戦争でも仕掛けるつもりなのか?」
「今仕掛けられたら、デッドフォレスト領あっという間に征服されるですよ」
「ふむ…だけど戦争の口実が分からん」
2人が首を傾げて悩むが、今はそれよりも先に領都の問題を解決する方が先だと、気持ちを切り替えた。
「監獄にいる連中を救出する前に、広場の領民を解散させる方が先だろうけど、ルディ、どうする?」
「領民、集まった切っ掛けはキッカだと思うのです」
「確か暴動を起こそうとしていた女性だな」
「そーです。監獄からキッカ救出すれば、領民たちも溜飲が下がるですかねぇ……」
ルディはそう言うけど、自分でも自信がなさげだった。
「駄目だろうな。暴動というよりも革命に近い状況だ。この流れを止める事はもはや不可能だろう」
「デスヨネー。あのバカ領主、シャレにならねえほどやりすぎたです」
とはいえ、このままだとレインズが危惧していた通り、国から暴動した領民の討伐軍が派遣され、多くの被害が出るのは確実だった。
そして、2人が打開策を思い付かず考えていると、とうとう集まった領民が投石を始め、兵士側からも反撃に魔法が放たれ被害が出た。
「一般人を魔法で攻撃するか……」
モニターで様子を見ていたナオミの顔が歪み、その横ではルディが頭を抱えた。
「とうとう始まったです」
「仕方がない。あまり表には出たくなかったが緊急事態だ。ルディ、降りるぞ」
ナオミはそう言うと助手席から立ち上がって、コックピットを出ようとする。
「ししょー、どうするですか?」
「予定変更だ、私が全員を食い止める。ドアを開けてくれ」
「ハッチを開けるって、ここ空の上ですよ!」
命令を聞いたルディが慌ててナオミを止めようとするが、彼女はニヤリと笑みを返した。
「問題ない。前に言っただろ、私は空を飛べるって。落下するだけなら余裕、余裕」
ナオミの返答にルディが目をしばたたかせる。だけど、彼女が言うのなら嘘ではないだろうと信じる事にした。
「分かったです。僕もすぐ後を追うのです」
「うむ」
ルディの返答にナオミは頷くと、コックピットから消えていった。
輸送機の後部へ移動したナオミに、ルディが船内マイクで話しかける。
『ししょー、パラシュート使うですか?』
「パラシュートとは何だ?」
『大きな布で落下速度を落とす道具です』
「なるほど、不要だ」
『分かったです。ハッチ開けるから、いきなり飛ばされねえようにしやがれです』
ルディの返答と同時に輸送機の後部ハッチが開いて風が船内に入り込む。ナオミが風圧で飛ばされそうになって、近くの柱を掴んだ。
(さて、自分で空を飛ぶのも久しぶりだ)
地上まで800m。
下を見れば、暴走寸前の民衆と兵士が衝突する寸前だった。
「では、行くとするか」
ナオミが柱から手を離す。
そして、両腕を広げて後部ハッチから夜空へと飛び降りた。
空へ飛び出たナオミが地表に向かって急降下を続ける。
地表からのざわめく音が少しづつナオミの耳に入ってくると、彼女は体内のマナを背中に集中させる。すると、背中が光りだして彼女の背中からマナの翼が生えてきた。
「ししょー、すげー!」
モニター越しにナオミを見ていたルディが目を輝かせる。
彼女の翼は白銀に輝き、地表でも騒いでいた一部の人間が、彼女に気づいて上空を指していた。
翼が鳥の羽のように羽ばたきナオミがゆっくりと降下を始める。
同時にナオミの体からマナが溢れだして、領都の広場に注がれると、その膨大な魔力の渦に暴動寸前の領民だけでなく、全ての兵士、そしてローガンですら本能で畏怖して膝を付いた。
「な、何だこの馬鹿みたいな魔力の塊は…まさか、まさか……」
膝を付いて屈辱を感じていたローガンが空を見上げる。
そして、赤い髪の女性の姿を見るなり全身が震えだした。
「な、奈落の魔女……」
見た事も会った事もない。そして、噂に聞いていた醜女でもない。
だけど、常人ではありえないマナを惜しげもなく放つ人間の心当たりは1人しかいなかった。
ゆっくりと落下したナオミが地上に足を付けると同時に、彼女の背中から翼が空に溶ける様に消えていった。
気が付けば広場から喧噪が消え、全員が彼女の姿に息を飲む。
(何この空気、嫌なんだけど)
そんな中、ナオミは心の中でため息を吐いていた。
※ 次回、残酷描写アリ
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