第129話 人類滅亡の話

 翌日。

 ルディは久しぶりにふかふかのベッドで快適な朝を迎え、着替えてから1階に降りた。

 リビングに行くと既にナオミは起きており、ソラリスからルディの帰還を聞いていた彼女は、ソファーで寛ぎながら彼が起きるのを待っていた。


「やあ、ルディ。お帰り」

「ただいまです」


 笑い掛けるナオミに、ルディも笑みを返す。

 久しぶりにあったナオミは旅立つ前と変わっておらず、ルディは口には出さないが、心の中でダイエットに成功したんだなと思った。


「それで、旅はどうだった?」

「楽しかったですけど、生活レベルが低くてツレーです」


 ナオミの質問に答えると、彼女は声を出して笑った。


「あっはははっ。やっぱりね、そう言うと思った」

「ししょーの方はどーでしたか?」


 ルディがナオミと対面のソファーに座って尋ねると、彼女は少し考えてから口を開いた。


「ご飯が美味しくなかったな」

「ソラリスの作るご飯、マズかったですか?」

「いや、ご飯は美味しいよ。だけど、1人で食べるよりも、お前と一緒に食べた方が美味しいと思っただけさ」

「そーですか」


 ルディは頷き返すだけだったが、彼女の答えが嬉しかった。




 地下からゴブリン一郎がリビングに現ると、ルディを見るなり抱きついてきた。


「おー? 一郎、お前も寂しかったですか?」


 ルディが抱きついて来たゴブリン一郎の頭をなでなでする。


「ぎゃ、ぎゃやぎゃ(あの女、怖かった)!」

「そうか、そうか、寂しかったですか」


 ゴブリン一郎の言うあの女とは、ナオミの事。

 彼はここ暫くの間、彼女が始めたダイエットを強制的に付き合わされていた。

 付き合わされた理由は、ナオミ曰く「1人だと続かない」。拒否権? ナオミのマナの恐ろしさを本能で感じている彼には無理。


 しかもナオミは、ルディが貸したスマートフォンで人体について色々と調べ、疲労回復の魔法を編み出していた。これは彼女の頭脳があるからこそ出来た魔法で、この星に住む通常の魔法使いでは例え知識があったとしても作れない。

 という事で、彼女は自分もしくはゴブリン一郎が疲れるや、魔法を掛けて強制的に疲労を回復させ、ソラリスの考えたスパルタメニューを実行した結果、僅か1週間で5Kgの減量に成功していた。


 そして、ナオミにつき合ったゴブリン一郎は、通常のゴブリンをはるかに超える能力を手にしていたが、これには色々な理由が入り混じっている。

 まず、彼はルディとハルが作ったマナのワクチンを接種していた。そのワクチンは改良されていたが、便利な副作用は健在しており、鍛えると通常の8倍の効果があった。

 さらに、毎日飲んでいる実験中のマナ回復薬によって、彼の体のマナが少しずつ増えていた。そして、ゴブリンは本能で体内のマナを筋力、体力の強化に使用する。

 等の理由により、彼はハードワークのダイエットにつき合った結果、本能でマナを消費しており、筋力、体力、さらにバトミントンで俊敏力を、本人の自覚がないまま強化していた。

 だけど、心は鍛えられない。ゴブリン一郎は、恐怖の対象でもあるナオミの側で常に震えていた。




 久しぶりの再会の後、ソラリスが作った朝ごはんを全員で食べる。

 朝食のメニューは、カリカリに焼いたトースト、ハムエッグ、ホテトサラダにオニオンスープ。

 ルディは久しぶりに食べた、カリッと柔らかいパンに感動して、4枚食べた。


 朝食を食べ終わった後、ソラリスがゴブリン一郎を連れて家の掃除を始めた。どうやら、彼女は働かざる者食うべからずと、ただ飯喰らいだったゴブリン一郎に家事を教えているらしい。

 ちなみに、普通のゴブリンだと、どんなに教えたとしても掃除なんてしない。ルディたちはまだ知らないが、マナのワクチンは体力だけでなく、知能も上がる。そして、知性が上がって感情をコントロールする事が出来るようになったゴブリン一郎だから教育が可能だった。


 ルディは自分とナオミのアイスコーヒーを入れると、彼女が待っているリビングのソファーに座って、これまでの旅について話をした。

 道中で戦った敵や、タイラーとの出会い、村での出来事、領都の話を聞いたナオミは笑ったり、難しい顔をしたり、呆れたりしていた。


「なあ、ルディ。本当に農地を作るのか?」


 ルディの話を聞き終わったナオミが困惑した表情を浮かべて質問する。


「今の問題が片付きやがったら取り掛かる予定です」

「ハッキリ言っとくが、私の魔法で言い逃れはできないぞ」

「さすがにそれは僕でも分かるです。でも食料の問題、これで片付くです」

「宇宙から持ってきた食べ物に、マナが含まれていないってヤツか?」

「そのとーりです。よく覚えていやがったですね。肉、水はこの森でも確保できるです。だけど、穀物と野菜を育てる、土地がねーです」

「まあね」


 ルディの話にナオミも頷き返す。


「本当は誰も居らぬ土地でひっそりと作る予定でした。だけど気が変わったです」

「変わった理由は?」

「このままだと人類滅びるです」

「……は?」


 ルディの放った返答に、ナオミが驚き目を大きく開いた。




「人類が滅びるとは聞き捨てならないな」


 驚きから覚めたナオミが口を開くと、ルディは人類滅亡の説明を始めた。


「この数カ月、この星での人類の情勢見てたですが、戦争ばかりで嫌になるです」

「……まあな」

「僕、支配者なる気ねーから勝手にしやがれですが、このままだと人間の人口減るです。そして、この星住んでる知的生命体、人間だけじゃねーです」

「魔物か?」


 ナオミが答えを言うと、ルディが頷いた。


「この星の人類、800年前に一度文明滅んだけど、僅かに残った文明から一気に発展したです。ある意味ズルみてーなもんですよ。普通、たった800年でここまで発展しねーです」

「宇宙人から見ると、そういう感じなのか……」

「まー運とか確率とかあるけど、基本はそーです。そして、魔物の方は元々クローン生命体です。クローン生命体、命令なければ何も出来ない存在です。だから、人類と比べてマイナススタートで文明始めやがったです」

「……ふむ」


 ナオミが頷いて、話の続きを促す。


「アドバンテージあったから、今は人類の方が力あるです。だけど、人類アホだから戦争おっぱじめて人口減らしてるです。逆に魔物、生きるの必死で戦争する余裕ねーです。だけど800年の間、人類の脅威があった関わらず徐々に知性身に着け、文明発展していたです。その結果、別大陸で魔物の国出来てるの、ししょー、知ってるですか?」


 ルディの質問にナオミが驚く。

 ルディはこの星へ来た時に地上の様子を確認して、ゴブリンやオークが集まって独自の国家を作っているのを確認していた。

 当時はこの星の事が分からなかったから何もせず、事情が分かってきた今は、自分1人で滅ぼすには魔物の数が多いし、この星の事は星の住人で解決した方が良いと傍観者になると決めていた。


「それは本当か?」

「そーです。僕、この星来た時人口調査したです。今の人口比率4割人類、6割魔物です。今はまだへーきですけど、数で優ってる魔物が文明発展したら、多分、300~400年以内に人類と魔物の戦争始まるです。そして、長い戦争の末に人類負けて、滅亡せずとも支配される可能性たけーです」

「そこまで人類も弱くないと思うけどなぁ……」

「分からねーですよ。弱い生物、繁殖力たけーです。個々が強くても数で押される可能性があるのです」

「ううむ……魔物の生態は分からないけど、文明が同じになれば、その可能性も出てくるのか。うん、ここまでは理解した。それで、今の話がどうして農地を作る事に繋がるんだ?」

「人口増やすため、品種改良した食料。この星の人類に提供してやろう思ったからです」


 そう答えると、ルディは一旦席を離れて小さい袋を持ってきた。

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