第128話 怪盗ルディのメッセージ

 領主館から脱出したルディは領都から脱出する前に、一応マイケルたちにも報告だけはしておこうと、ドローンに命令して『微睡み亭』の前まで移動するように命令した。




 一方、ルディが飛び去った後の領主館では、騒ぎで起きたガーバレスト子爵が開けっ放しの金庫の前でわなわなと震えていた。


『強欲豚野郎へ


 悪事の証拠は全て手に入れたです

 お前を地獄に落としてやるから 首を洗って待ってやがれです

 ベロベロベロ、バーカ、バーカ


   怪盗ルディより』


 ガーバレスト子爵がルディの残した伝言をつかみ取り、両手でくしゃくしゃに丸めると地面に叩きつけた。


「盗みに入ったのは誰だ!」


 怒りに震えるガーバレスト子爵が怒鳴ると、背後に控えている守衛主任は冷や汗を流して躊躇いがちに口を開いた。


「それが、銀髪で背丈は子供だったとしか……」

「捕まえろ! まだ都内に居るはずだ、絶対に外へ逃がすな!」


 守衛主任が言い終わる前に再びガーバレスト子爵が怒鳴りつけると、彼はさっと敬礼して慌てて部屋の外に飛び出した。


「あれが国に見つかったら、俺は終わりだ……」


 1人になったガーバレスト子爵は、金庫の中にあったはずの本が無いことに、顔を青ざめて頭を抱えていた。




 ドローンに掴まれて空を飛んでいたルディは宿屋の前に降りると、静かに中へ入り、寝ていたウィートの体を揺すった。


「おっさん起きやがれです」

「……おっさんじゃねえ」


 ルディが体を揺すってもウィートは起きずに寝返りを打った。ちなみに、今のは寝言。


「おっさんいい加減に起きやがれです!」


 中々起きないウィートにしびれを切らして、ルディは彼にまたがると馬乗りになって両頬を叩き始めた。


「んあ? 痛て、痛て、痛てえって…誰だ?」


 ルディが両頬を叩いて3往復目で、ウィートが目を覚ます。


「おっさん起きたですか?」

「……おっさんじゃねえ」

「それはもう聞いたです」

「……?」


 ルディは首を傾げるウィートから降りると、盗みに成功した事を伝えた。


「……本当か?」

「嘘言わねーです。証拠はここにあるですよ」


 ルディは驚くウィートに答えると、鞄をパンッと叩いて証拠があるとアピール。


「だけど、最後に見つかってここには居られねえです。今から領都脱出するから、おっさんとはここでお別れです」

「お別れって、夜は街の門が閉まって出れねえぞ」

「壁を越えていくです」

「出来るのか?」


 領都の壁は5mほどあり、監視塔からの監視もあって、普通に乗り越えるのは不可能だった。


「よゆーです。おっさんはマイケルさんたちに、この事を伝えやがれです」

「分かった。気を付けろよ」

「そっちも気を付けやがれです」


 ルディはウィートに別れを告げると、部屋を出て再び空へと飛んだ。




 ルディが領都の上空200mから眼下を見れば、領主館を中心に幾つものかがり火が慌ただしく動いていた。

 目を凝らしてかがり火を見れば、たいまつを持っているのは兵隊で、彼らは強盗に入ったルディを隈なく探している様子だった。

 そして、その騒ぎに街の住人が何事かと起きだして窓を開けるが、血眼になっている兵士の姿に、彼らは関わりたくないと窓を閉じて身を潜めていた。


 ルディを運んだドローンは領都の防壁を超える。

 既に館から通達があり、城門と監視塔の兵士は厳重に監視をしていたが、まさかルディが空を飛んでいるとは思わず、彼が防壁を超えた事に気付いていなかった。


 ルディを運んだドローンが、城壁から500mほど離れた場所で彼を地面に降ろす。


「ご苦労です。今日は頑張りやがったですね」


 ルディはドローン労ってから、ハルに連絡を入れた。


『ハル、輸送機はどこに停めている?』

『現在地から北東1Km先、地図に表示します』

『了解』


 ルディが左目のインプラントで周辺の地図を表示させると、ハルの言う通り現在地から北東に赤いマーキングが表示されており、ルディはマーキングに向かって歩き始めた。




 輸送機は光学迷彩で姿を消していたが、ルディが近づくと自動的に姿を現した。

 輸送機は地上用小型サイズで非戦闘用。通常は集配場から各家に荷物を届ける宅急便として使用されている。その輸送機にハルはこの星でも運用できるようにと光学迷彩を付けていた。


 ルディが輸送機の操縦席に座ってすぐに発進させると、目的地をナオミの家に設定した。

 ルディがタイラーの村へ行かない理由は、風呂に入りたいから。

 村に居る間も毎日体を拭いていたが、やっぱり風呂には入りたい。それに、今日は体を洗っても何となく馬糞の臭いがまだ残っている気がする。

 という事で、ルディを乗せた輸送機はタイラーの村を通り越して、ナオミの家に向かった。




 輸送機に乗ったルディは2時間掛けてナオミの家に到着すると、外に出て久々に森の新鮮な空気を肺一杯に吸い込んだ。


「やっぱり森の空気はうめーです」


 伸びをしてルディが家に向かって歩き出すと、家に明かりがついてソラリスが家の外に現れた。


「おかえりなさいませ」


 ソラリスがルディに向かって頭を下げる。

 ちなみに、彼女はアンドロイドなので睡眠の必要がなく、ルディから戻ると聞いて待っていた。


「ただいまです。風呂は?」

「沸かしています」

「ありがと、んじゃ入ってくる」


 ルディはソラリスに礼を言うと、彼女に鞄を渡して風呂場へ向かった。

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