第130話 人類増加計画
「それは?」
ナオミの質問に、ルディは持ってきた袋の口を広げて彼女に見せた。
「開拓惑星で育てる予定だった小麦の種です」
現在、ナイキの積み荷だった小麦の種は、拠点の倉庫で冷凍保存されており、その数は30万人分の年間消費量を超えていた。
「私は農業について詳しく知らないのだが、この星の小麦とは違うのか?」
「全然違うです。この星の小麦、人類の発展に品種改良追いついてねーから、3粒しか実らねーです」
「……ふむ」
「これは硬質小麦を改良した種で、冷害につえーし、必要水分量も2割カット。それなのになんと1小穂に9粒実るから、収穫量3倍に増えやがるです」
「それは凄い!」
まるで店頭販売みたいなルディの説明に、ナオミが素直に驚いた。
「これの他にも、中間質小麦と軟質小麦の種も持って来てるですけど、まずはうめーパン作りたいから、コイツを植えるです」
「うんうん。良いね」
「……おっといけないです。本音が漏れて本題から逸れやがったです」
「おお、そう言えばそうだった」
ついノリに乗って話が逸れた事に2人が反省する。
「さっき話した通り、デッドフォレスト領、馬鹿領主のせいで人口3割減ったです。レインズさん領主になってまず悩むの、人口減による収穫量の減少です」
「確かにそうかも」
「そこで、僕、農地作って、領民にこの小麦を育てさせるのです」
「うーん。わざわざ農地など作らず、既存の畑で育てれば良いと思うが?」
ナオミの質問にルディが腕を組んで唸った。
「僕、思うのですよ。いきなり現れた余所者が、コレを植えやがれと命令しても、生産者が素直に言うこと聞かねーって」
「あー、うーん。それは分かる」
自分もハブられているからか、ナオミがルディの考えを理解して頷いた。
「そこで無償で農地作ってやって、さらに種をただで提供すれば、レインズさんも村のタイラーさんもノーと言えねーです」
「あくどいなぁ……」
そう言いながらもナオミの顔は笑っていた。
「まだまだ笑うの早えーです。渡した小麦を育ててみれば、あらビックリ収穫量が3倍じゃあーりませんかです。そーしたらレインズさん、この小麦から出来た種を植えて、もっと生産量を増やそう考えやがる思うのです」
「まあ、そうなるな」
「だけど、ざんねーん。この小麦、実はF1種だから種植えても育たねーし、育ってもちっちゃいのが5粒しか実らねえですよ」
「F1種?」
「一言で言えば、別の品種配合して作った子供できない植物です」
「ふむ、理解した」
ナオミの返答にルディが笑みを見せた。
「相変わらずししょー、さすがですね」
「お前の説明が上手いだけだ」
「そりゃどーもです。という事で、僕、レインズさんに教えるのです。この小麦は僕かししょーが特別な方法で種を作らねーと沢山実らないって、そーしたらレインズさんどう思うですかねぇ」
ルディがそう言ってニタリと笑うと、ナオミが呆れた様子で肩を竦めた。
「……本当にあくどいなぁ。レインズは私とルディに頼るしかなくなるじゃないか」
「そのとーり。僕、F1種作り方教えねーです。そして、誰も居ない土地でF1種を生産して毎年必要な量を売れば、レインズさんはししょーを排除する事考えるできねーし、ししょーもマナを気にせず美味しいパンが食べられるです」
「まあ、私の名前を使うのは別に構わない。だけど、そこまでする必要があるとも思えないな」
ナオミの意見にルディが腕を組んでバッテンを作った。
「必要大ありです。この小麦一気に広がったら食料事情に革命起きて、人口爆発的に増えるです。急激な人口増加は貧困層を生むし、土地問題も発生するしで色々危ねーです。これ、歴史学で出てくる問題です。だから人類の人口増加を僕コントロールして、少しずつ人口増やそーと思っているのです」
ルディの話を聞いたナオミが、しばらく腕を組んで考えを纏める。
「なるほどね。ルディの考えは理解した。問題はその種をめぐって争いが起きる可能性があるって事だな」
「……ししょーの悪名でも無理ですか?」
ルディの質問をナオミが微苦笑する。
「私の悪名なんざ欲望の前ではちっぽけなモノさ。その種は金になる。商人、貴族、王様、その種を見れば誰もが欲しがるよ」
「レインズさんもですか?」
「レインズも欲しがるが、アイツは良心があるから奪おうとまではしないと思う。だけど、そうだな…もし商人がこの種を欲しいと思ったら、まず貴族を抱き込むだろう」
「詳しく説明言いやがれです」
「なら教えよう。もし商人がそのF1種の作り方を手に入れようとしたら、まず有力な貴族に金を渡して依頼する。まあ、貴族相手だったら私1人でも余裕さ。だけど、その貴族に権力があって、国を動かせるとしたら、さすがに私でも面倒だ」
つまり、商人は財力を使って権力を動かし、その結果武力が行使されると説明した。
「国相手に面倒の一言で済ますししょー、すげーです。だけど、話、理解したです。その時は種の提供やめて、この国から出て行こうです」
ルディの提案にナオミが笑って頷いた。
「そうだな。居心地が悪かったら引っ越せば良いだけの話だ。その時はカールでも頼るか?」
「カール師範には貸があるから、良いアイデアです」
ナオミの意見にルディも笑い返すと、2人は氷が小さくなったアイスコーヒーを一気に飲み干した。
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