第124話 レインズの旧友たち
領都の街並みは火災予防なのか、石と漆喰で作られた家が立ち並び、道路は整備された土の道路だった。
ルディは地方の都市だから多少は整備されて、昔の資料で見た石畳の道路だと思っていたが、どうやら違ったらしい。
街の人口は分からないけど、街の大きさから判断して5000人は居ると思う。
下水道の整備はされているが、下水道は地下に作らず街の中をどぶ川が通り、街の人たちはそこへ汚水を垂れ流していた。
どぶ川からは悪臭が漂っているが、ルディは気にしない。何故なら今の自分の方が臭いから。
ルディはマイケルの案内で下町の井戸まで行くと、馬糞の付いた服を脱ぎ捨てて体を洗い始めた。
「うー冷めてーです」
井戸水を頭から被ったルディが体を震わせる。
領都の井戸の水は北にある山脈から流れてくる地下水で、夏の季節でも鳥肌が立つぐらい冷たかった。
ルディは何度も水を被ると、持ってきた石鹸で体をごしごし洗って、ようやく体から馬糞の臭いがなくなった。
「やっと臭い落ちやがったです」
「ほら、とっとと着替えろ。街中で裸のままだと兵士に捕まるぞ」
腕を顔の近くに寄せてくんくん匂いを嗅ぐルディに、マイケルが買ってきたボロボロの中古服を渡した。
ちなみに、マイケルとウィートはルディが持ってきた良い匂いのする石鹸とタオルに驚いていたが、ルディは奈落の魔女の弟子だからきっと自分たちの知らない物も手に入るのだろうと、何も言わなかった。
ルディが服に着替えて身なりを確認する。
「サイズ、デケーです。あと、あちこちに穴が開いてるですよ」
そう言って、ルディが穴の開いている右膝を少し上げて、マイケルに見せた。
「適当に安いのを買ってきたから仕方がない」
ルディの文句にマイケルが肩を竦める。
「ぐだぐだ言ってないで、そろそろ行こうぜ。早く宿屋に行かねえと日が暮れちまうぞ」
ウィートが言う通り、太陽は西の地平線に半分隠れ、ルディが指時計を見れば19時を回るところだった。
「そうだな。さっさと行こう」
ウィートに急かされてルディたちはキッカとフレオが経営している宿屋に向かった。
キッカとフレオの宿屋は表通りを曲がった裏路地に面していた。
屋根看板には『微睡み亭』と書いてあり、入口のドアには「OPEN」ののプレートが掛かっていた。
「ここだ。入るぞ」
マイケルがドアを開けて、中に入る後ろをルディとウィートが続く。
店の外壁は漆喰だったが内装は木造で床は石畳だった。
入口のすぐ横にカウンターがあり、そこには宿屋の店フレオがマイケルを見て驚いていた。
「マイケル、もう帰ってきたのか?」
「ああ、今さっき戻ってきたばかりだ。それで部屋は開いてるか?」
「開いてるよ。どこを使う?」
「2人部屋を1部屋だ」
「了解、201号室を使ってくれ」
フレオがマイケルに鍵を渡すと、顔を近づけて小声で話し掛けてきた。
「それと早くキッカに会ってくれ。アイツ、レインズが戻ってきたと聞いて、居ても立っても居られないみたいでさ、今にも飛びださんばかりだ」
「それについては俺からも話がある。この後、ナッシュのパブに行くから、そこで会おう」
「分かった」
マイケルの話にフレオが頷き、ルディたちは指定された部屋に入った。
宿泊部屋は木造のベッドが2台置いてあるだけの殺風景な部屋だった。
窓は観音開きの蓋で閉じられており、部屋の中は暗く、ウィートが蓋を開けると、月光の明かりが部屋に差し込んだ。
「とりあえず、ルディとウィートはこの部屋に泊まってくれ」
「お前は?」
ウィートの質問に、マイケルがキョトンとしてから肩を竦める。
「俺? 自分の家に帰るに決まってるだろ」
「ああ、そうだったな」
ウィートが頷いていると部屋のドアが開いて、勝気な中年の女性が入ってきた。
「マイケル、遅かったな。それでレインズは元気だったか?」
勝気な女性、キッカが話しかけると、マイケルが慌てて人差し指を口に当て「しー、しー!」と、彼女を黙らせた。
「バカヤロウ、声が大きい。もし領主にアイツが居る事がバレたら、全てが終わるんだぞ」
「私は女だから野郎じゃないよ。だけど、まあ…ごめん」
キッカはレインズと同い年だから39歳だけど、彼女の見た目は30代前半ぐらい。やや釣り目で鼻の高い顔が勝気な性格を表している。
くせ毛で長い茶色の髪をバンダナで包み、首の付け根辺りで縛っていた。
「これからナッシュの所に行って話しに行くところだ」
「だったら私も行くよ」
「店はどうするんだ?」
「もちろんフレオに任せるに決まってるだろ」
「だと思ったぜ」
呆れたマイケルが肩を竦める。
こうして、ルディたちは自己紹介もしないまま、キッカに急かされて慌ただしくナッシュの店に向かった。
宿を出たルディたちは裏通りの奥へと行き、ひっそりと開店しているパブ『梟の巣』へと入った。
店はパブにしては狭くバーの様な作りだった。床は高床式の建築なのか板が敷かれて、壁の赤い壁紙がろうそくの明かりに照らされて、大人びた雰囲気があった。
カウンターの中には、この星では珍しく髭を剃った男性が、誰も居ない店の中で木のマグカップを布で拭いていた。
「ナッシュ、今帰ったぞ」
「早かったな」
店の中に入ってきたマイケルに、ナッシュが声を掛ける。
「キッカからは遅いって言われたぜ」
「早く話が聞きたかったんだ、仕方ないだろ」
マイケルがキッカに視線を向けると、彼女は不貞腐れた表情で肩を竦めた。
「これでも急いで帰ってきたんだぜ」
「2人とも、まずは座れ。それと済まないが連れの人、外の看板を下げてきてくれ。今日は閉店だ」
ナッシュに言われてウィートが、入り口のドアのプレートをひっくり返して「CLOSE」に変えて戻ってきた。
「早く話を聞かせろよ」
「待て待て、まずは腹ごしらえだ。ずっと歩きっぱなしで、こっちは何も喰ってねえんだ」
「分かった。簡単な物を今作る」
急かすキッカをマイケルが宥めると、話を聞いていたナッシュが料理を作り始めた。
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