第123話 最悪の変装

 翌日。ルディは日の出と同時にマイケルとウィートの道案内を連れて、領都に向けて旅立った。


 本当はレインズたちも一緒に行きたかったが、レインズとハクは領都で顔が知られており、タイラーは指名手配中。ルイジアナも人間社会では目立つエルフと言う事で行けず、領都に戻るマイケルとルディと仲が良いという理由でウィートが選ばれ、一緒に行くことになった。

 ちなみに、ウィートはルディとの仲を全面拒否するが、皆から「またまた、照れやがって」と理解されず、がっくり肩を落としていた。


「しかし似合わねえな」

「そーですか?」


 ウィートがルディの格好を見てしかめっ面をする。

 普段のルディは北の民族の格好をしているのだが、それでは目立つからと、何時もと違って汚らしい村人に変装していた。


「ルディは顔が良いし、銀髪も珍しいからな」


 隣を歩いていたマイケルが苦笑いすると、ルディがむうっとする。


「顔は変えれねえです」

「そうコロコロと顔が変わってたまるか」

「ししょー、相手を脅かす時、顔変えるですよ」


 ウィートのツッコミにルディが言い返す。


「奈落の魔女って顔が変わるのか?」

「そーです。顔だけじゃなくて空気も変えるから、領主の息子ビビって腰抜かしたです」

「マジか? そいつは見たかったな」

「全くだ!」


 ルディの話が可笑しかったのか、ウィートとマイケルが笑いだした。


「でも、ルディの見た目は確かに目立つな。門番が絡んで来た時の対処を考えねえと」

「門番、この格好でも駄目ですか?」

「基本的にアイツらは碌でもない連中だ。金目になりそうな物があれば、色々とこじ付けて奪ってくぞ」

「下手したら俺たちはお前を搔っ攫ってきたとか言われて、人買いの罪で掴まって、お前は門兵に連れ去られて慰み者になるかもな」


 マイケルに続いてウィートが話すと、ルディが露骨に顔をしかめた。


「それは最低です……うーん。もっと汚ねえ格好したらどうですか?」


 ルディの質問に、マイケルとウィートが考える。


「そうだなー、泥だらけにして顔を隠せば…いや、それでも厳しいか?」

「だったら、近づきたくないぐらい臭くするか? そうしたら向こうの方から逃げ出すかもな」


 2人の意見を聞いてルディが唸った。


「変装も難しいですね」


 ルディが見た映画やアニメでは、そこまで細かい設定などなく、ルディたちは領主館に侵入する以前に領都にどうやって入るか悩んだ。




 3人は最低限の休憩だけして街道を歩き続け、半日で領都まで残り1Kmの距離まで移動した。


「さて、もう少しで領都だ。ルディ覚悟は良いか?」

「すげー嫌だけど、しかたねーです」


 話し掛けてきたマイケルにルディが応えると、街道沿いの泥が溜まってる場所に向かった。


「とうっ!」


 掛け声と同時にルディが泥溜まりに飛び込む。そして、泥の中でごろごろ転がって全身を泥だらけにした。


「うひゃひゃひゃひゃ!」

「あはははははっ!」


 その様子にウィートとマイケルが腹を抱えて笑い、ルディは2人にムッとしながら起き上がった。


「これでどーですか?」


 全身泥だらけになったルディの質問に、マイケルが笑いをおさめて頷く。


「オッケー。もし、俺の息子だったら家に入る前に、体を洗えと叩き出してるぜ」

「後はこれだな」


 マイケルから合格点を貰うと、次にウィートが途中で見つけて草で包んだ馬糞を地面に捨てた。


「最悪です」


 ルディは一言呟きため息を吐くと、馬糞を掴んで服に塗り付け始めた。


「これで完璧だ。どこからどう見ても、近寄りたくねえ臭さいガキだぜ」


 ウィートからも合格点を貰ったルディだが、服から漂う馬糞の匂いに顔を歪めた。


「……ガチで最悪です」


 ここまでの行動は3人が領都に向かう途中で話し合った、彼らの作戦だった。

 マイケルとウィートは税金を支払いに来た村人で、ルディを売って税金を支払うという設定。ただし、ルディが綺麗なままだと門兵に絡まれる可能性があるため、近づくのを遠慮したいぐらい臭く汚い格好にさせた。


「マジで臭えです……おえっ!」

「街に入るまでの我慢だ。ほら、行くぞ」


 えずくルディをマイケルが促す。ルディから離れているのは気のせいではない。


「臭いから近づくなよ」


 そうウィートが言うと、ルディが睨んだ。


「言い方がストレートすぎて、殺意が沸くです」

「ああ、怖い、怖い」


 そう言いながらもウィートの顔は笑っていた。




「そこの3人待て!」


 3人が領都の入口に近づくと、門兵が彼らを呼び止めた。


「へえ、何ですか?」


 代表してウィートが応じると、門兵は3人をジロジロと見てから口を開いた。


「この街に何しに来た」

「……へえ。あっしらは、奈落の魔女の被害の税金を払いに来やした」

「ふむ。それはご苦労だな。それで、後ろのガキは?」

「コイツの親が1カ月前に死んで村じゃ面倒見れねえんで、売って金にしようかと、へへへ……」


 そう言ってウィートが下劣に笑うと、門兵は彼を侮蔑した様子で睨みルディに近づこうとするが、ルディの体から漂う臭いを嗅いだ途端、後ろに下がって鼻を摘まんだ。


「何だこの臭いは?」

「コイツ、親が死んでから無気力になりやがって、ションベンどころかクソも垂れ流しなんですわ」

「こんなガキが売れるかよ!」


 門兵はそう言うと、離れた場所からルディの顔を見る。

 そのルディは汚した顔をうつむき加減で下を向き、目からハイライトを消していた。


「さあ、でも金になれば儲けものでさ」

「こんな臭いガキ、びた一文にもならねえだろ。もういい、早く行け」

「へぇ、ありがとでございます」


 ウィートが門兵に頭を下げる。

 そして、3人は無事に領都の中へ入る事ができた。




「上手く行ったな」

「全くだぜ。こんなに上手く行くとは思わなかった」


 マイケルが小声で話しかけると、ウィートもしたり顔で笑みを浮かべた。


「早く体洗いてえです」

「今からキッカの宿に行く。そのままの格好で行ったら確実にキッカにぶっ飛ばされるから、宿の近くの井戸で体を洗おう」


 ルディが文句を言うと、マイケルは2人をキッカの宿へと案内した。




※ 残念ですが、どうやらコロナに感染したらしい。

  明日病院に行くけど、もし本当にコロナだったらしばらく更新を停止します。

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