第120話 なんちゃって吟遊詩人

 休憩していたルディが再びギターを奏でると、農作業から帰ってきた村人が集まって、子供たちと一緒にルディの演奏を聴いていた。

 この星の文明レベルでは当然、テレビもラジオもなく、村の娯楽と言ったら新年の祭りぐらいしか存在しない。そして、その祭りも最近では重い税金のため中止しており、彼らが本格的な音楽を聴くのは久しぶりだった。


 もちろんこの星にも、音楽を生業にしている吟遊詩人は存在する。

 だけど、彼らは上級社会のための職業であり、金のない村など立ち寄らず、村人たちはルディの事を吟遊詩人になりたての子供と勘違いしていた。


(人が集まっていてるけど、まあ、いいか)


 ルディは大人の観衆が増えてきた様子に、子供向けだけではなく一般向けの曲も披露する。

 すると、一曲披露する度に拍手が沸いて、村の人達に笑顔が生まれていた。




 1時間ほどの演奏会が終わって、ルディが木に寄りかかって友達と遊んでいるミリーを見守っていると、いつの間にか村に帰っていたレインズが彼に話し掛けけてきた。


「ずいぶん面白い事をやってたな」

「あーレインズさん、おかえりです」


 レインズたちはしばらく前に視察から戻っていたが、演奏の邪魔をするのは悪いと、少し離れた場所で音楽を聴いていた。


「ああ、ただいま。それにしても、君は本当に多才だな」

「そーですか?」

「俺も王太子の護衛で何度か演奏会の曲を聴いたけど、あれはキツかった」

「きつかったですか?」

「ああ、眠くなるのを堪えるのが大変だった」


 そう言ってレインズが笑うと、ルディも彼の言っている事を理解して笑い返した。


「リュート? それにしては変わった形をしてますね」


 ルイジアナがルディの持つギターを見て首を傾げる。

 この星ではまだギターは存在しておらず、ギターに似ている楽器に、弦の数が多いリュートが存在していた。ただしリュートは、ギターほど音の響きが大きくない。


「これはギターです」


 そう言ってルディがルイジアナにギターを貸すと、彼女はリュートの心得があったらしく、弦を弾いて音の具合を確かめた。


「良い音が鳴るのね。それに弦の数が少ないからリュートよりも簡単そう」

「後で音階教えてやるから、弾いてみやがれです」

「本当? ありがとう」


 音楽が好きなルイジアナが喜んだ。




「ミリーそれは何だ?」

「ラミーちゃん。ルーくんからもらったの」


 ルディたちから少し離れた場所では、タイラーがミリーが抱えるぬいぐるみの出何処を聞いていた。

 そして、ミリーの返答にタイラーがルディの方へ振り向く。


「……良いのか?」


 タイラーにぬいぐるみの知識はないが、もしこれを買ったら金貨10枚はするだろうと、ルディに確認する。


「構わねえです。返すと言っても受け取らねえですよ」


 ルディの返答にタイラーが眉をひそめる。


「……もしかしてミリーを嫁に欲しいのか?」

「レインズさん、この国では3歳から結婚出来るですか?」


 タイラーの質問にルディが首を傾げて、レインズに質問する。


「いや、結婚は14歳からだな」


 笑いを堪えてレインズが答えると、ルディはタイラーに視線を戻した。


「だそうです。僕、結婚興味ねーから、他の相手を見つけやがれです」


 そもそもルディは結婚以前に、人と恋愛する気などさらさらなかった。

 だけど、彼の考えなど関係なく、話を聞いていたミリーが突然ルディに抱きついてきた。


「やー、ミリーはルーくんとけっこんするの!」

「えーー!」


 ミリーに抱きつかれてルディが困った表情を浮かべると、レインズが口を開いた。


「ルディ君、君はあれだけの事をしておいて、ミリーが何も思わないとでも思ったのか? 少しは女心を勉強した方が良いぞ」

「そんな事を言われても、困ったです」


 その様子が可笑しかったのか、この場に居る全員が笑いだした。




 その後、タイラーが駄々をこねるミリーを「今はまだ早い」と、ルディから引きはがして、ミリーを迎えに来たマリナに引き渡した。


「それで、見に行ってどうでした?」


 家に戻ると、ルディはレインズに視察の結果を尋ねた。


「土壌は問題ない。開墾すれば今でも大麦なら育つ。後は人手と風車だな」

「そーですか。ではこれが風車の設計図です」


 ルディはレインズの話を聞くと、ハルが設計したオランダ型の風車の設計図をテーブルに広げた。

 オランダ型の風車にしたのは、水が必要な季節の風は一方向からしか吹かず、この世界では木と石しか材料がないので、メンテナンスできる環境を重視したからだった。


「これが風車か…思っていたよりも大きいな」


 設計をを見てレインズが唸る。

 設計図の風車は高さが25mあり、羽の大きさも20m以上ある大きな物だった。


「材料、木材と石で作ると強度考えたら、こんぐらいの大きさになりやがるです。それと、できれば最低3台は欲しいです」

「そんなにか?」


 顔をしかめるレインズにルディが頷き返した。


「1台で水を汲み上げる、限界あるですよ。農地広げる大きさで増やす必要あるです」

「ううむ……」


 レインズが設計図の風車を見ながら、1台あたりの予算と完成までの時間を計算していると、ルディが話し掛けてきた。


「レインズさん。もし作るの難しいなら、条件次第で僕、作ってやるですよ」

「条件?」

「僕の指定する作物作るなら、風車の作成、水路の作成、それと開墾までしてやるです」

「…………」


 ルディがどうやってそれだけの規模の農地を作るのか、それは分からない。だけど、指定の農作物を作るだけで領地の生産量が上がるとしたら、これからの領地経営を考えると破格の条件だった。

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