第121話 悩むレインズ
ルディがレインズに破格の条件で農地を作ると言った理由は、食料とマナの事を考えていたからだった。
マナの化け物と例えても過言ではないナオミでは分からなかったが、人間よりもマナの量が多いはずのルイジアナがマナを枯渇したことから、ルディは自分が魔法を使えるようになった時に備えて、この星での食料生産を考えていた。
もちろん、今作っているマナの回復薬も併合して使うが、あれは緊急用。
ただし、この星の食べ物は品種改良が全くされておらず、ルディはそれが不満だった。
例えば、ウィートと交換したジャガイモ1つにしても、小振りだし味もそれほど良くない。だから、ルディはまだ未開発の草原を開墾して、ナイキに積んである開拓惑星で育てる予定だった品種改良した農作物を、生産しようと考えていた。外来種? はて、知らぬな。
「……本当にそんなこと出来るのか?」
レインズが話し掛けると、ルディがにっこりと微笑んだ。
「出来るです、どーするですか?」
ルディに問われて、レインズは自分が領主としての岐路に立っていると感じていた。
奈落の魔女の弟子であるルディ。ここまでの付き合いで彼が味方なのは理解している。だけど、得体の知れない人物なのは間違いなかった。
俺につき合う理由はルディ曰く「面白そう」。正直言って理解できない。それだけの理由でここまで親切にするのか? あり得ないだろう。
何か裏があって裏切る可能性も考えられる。その時、彼の背後に居るのは奈落の魔女。もし、彼女が領地を奪おうと考えてルディを派遣したのなら、この計画に乗るのは危険だ。
だけど、この村でのルディの行動は称賛に値する。
彼は親から捨てられたミリーの面倒を見るだけでなく、食べ物や玩具を与え、音楽を通して彼女に友達を作った。ただのお人よしだとしても、そこまではしない。
これは俺の勘だが、おそらくルディの根源は「面白いかどうか」なのだろう。
だったら俺も腹をくくろう。ルディが面白いと思う領地経営をしてやる。ルディがいつまでも飽きない面白い領地にすれば、きっと彼は裏切らない。
腹をくくったレインズがまっすぐルディを見つめる。
「分かった。その話、乗ろう」
「そーですか。では、レインズさんが領主になったら、改めて話しやがれです」
「分かった」
レインズが頷くと、ルディが思い出したかのように口を開いた。
「1つ言い忘れたです」
「何だ?」
「この事は絶対に他人に秘密です」
そう言って、ルディがこの場に居る全員に視線を向ける。
「もし、誰かに言ったら、全員ぶっ殺すです」
その発言に全員が驚き、レインズの顔が引き攣る。
レインズはルディを信用した事を少しだけ後悔していた。
それからの4日間、ルディたちはこの村に滞在していた。
ルディは午前中に鳥や野うさぎを狩に出かけ、午後になると子供たちに懇願されてギターを演奏していた。
レインズも村人から話を聞いて、庶民の暮らしについて学んだり、陳情を聞いて過ごす。
そして、4日目の昼に領都に行ったウィートたちが、1人の同行人を連れて村に戻ってきた。
タイラーとウィートが黒髪で背が低い男を連れて家に入ってくると、その男を見たレインズが立ち上がって大声を出した。
「マイケル!」
「おお、本当にレインズだ‼」
レインズに声を掛けられて、マイケルが破顔する。
そして、レインズとの再会を分かち合ってから席に座った。
「手紙を見た時は信じられなかったが、本当に戻ってきたとは驚いたぜ」
「兄の悪政に王が動いた。色々と込み入った事情が重なって、俺が領主になる予定だ」
レインズはそう言うと、マイケルに政治的な話を抜いて事情を説明した。
「……へぇ。王子様と仲良くなるなんて、上手くやったじゃねえか」
「本当に偶然だ。訓練所に向かっている途中で物音がして見に行ったら、クリス様が暗殺者に襲われている最中で、助けたら側近にされた」
「運も実力の内さ。旧友が出世して俺も鼻が高いぜ」
そう言ってマイケルがニヤリと笑った。
「それで手紙には書いたが、領都の様子はどうだ?」
レインズの質問に、先ほどまで笑っていたマイケルが顔をしかめた。
「酷えもんだよ。どこもかしこも重税で苦しんでる。陳情に行っても無視されるし、最悪、鞭打ちの刑だ」
「…………」
「レインズ、やるなら急いだ方が良い。奈落の魔女が大勢の兵士を殺したという噂が広まって、今なら暴動を起こせば領主を倒せるという話が広まっている」
「それは不味いな」
もし、暴動が起これば領内だけの問題ではなくなり、国から鎮圧の軍隊が動いて暴動に参加した領民を鎮圧し、多くの血が流れるだろう。
「俺が領主になるには、兄の脱税をどうしても見つける必要がある」
「それは手紙で読んだ。それで1つ聞きたい。証拠を見つけたとしても、どうやって領主を廃爵する?」
マイケルの質問にレインズが顔を寄せて小声で囁いた。
「……奈落の魔女の協力を得ている。証拠があれば彼女が兄を殺す」
「本当か⁉」
「ああ、親父が奈落の魔女と契約していたおかげで何とかなった」
「だけど、相手は奈落の魔女だぞ、信用できるのか?」
「それは大丈夫だ」
レインズはそう言うと、話を聞いていたルディをマイケルに紹介する。
「彼はルディ君。奈落の魔女の弟子で、今は俺に協力してくれている」
「どもー、ルディですー」
見た目の良い少年が奈落の魔女の弟子と聞いて、マイケルが驚く。
そして少し考えると、思った事を口に出した。
「だったら、先にお前の兄を奈落の魔女に殺してもらって、後から証拠を見つけた方が早い」
「それは駄目だ。もし、兄が証拠を全て処分していたら、俺は兄殺しの罪で捕まる。それに、王太子からも証拠だけは必ず見つけろと厳命されている」
「なるほどね……状況は分かった。それじゃ、領都の情報を今から教えるよ」
「助かる」
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