第119話 ミリーとラミー

 翌日もレインズたちはタイラーを連れて、朝から出かけていった。

 今日は新たに作る農地の場所を決めるらしい。


 まだ風車も作ってないのに、ずいぶん気の早い話だと思う。

 朝食の時にルディがそう言うと、レインズから風車が出来るまでは、降水量が少なくても育つ大麦を育てれば良いと言い返されて、確かにそうかと納得した。


 1人になったルディは家の裏に回ると、昨晩の内にハルがドローンで運んだ木箱が隠れるように置いてあった。

 木箱の中には、ぬいぐるみとクラッシックギター、それと風車の設計図が入っており、ルディは久しぶりにギターを取り出すと、軽く弦を鳴らした。


「懐かしいです」


 このギターは40年ぐらい前に購入して、宇宙を移動中に暇つぶしで弾いていたけど、数年で飽きてクローゼットにしまい、そのまま放置していた。


 ギターを置いて、30cmほどの大きさのぬいぐるみを取り上げる。

 ソラリスが作ったぬいぐるみは、可愛く擬人化した白いうさぎだった。

 体は2等身にデフォルメされており、顔つきは可愛く笑って、耳がピョーンと伸びていた。


「これはソラリスのセンスじゃねえですね。春子さんに感謝です」


 あの能面メイドに、こんな可愛いセンスは絶対にないと。賭けても良いルディは、ナイキの積み荷の中に「なんでもお任せ春子さん」が入っていた事を感謝した。




 ルディが荷物を抱えて家に戻る途中で、ミリーの泣く声が遠くの方から聞こえてきた。

 目を凝らして声のする方を見てみれば、ミリーが数人の男の子に追い掛け回されていた。

 ルディが抱えていた荷物を家の中に置き、急いでミリーに駆け付けると、彼女を虐めていた男の子たちは、ルディを見るなり「よそ者は出てけ」と言って走り去った。


「ミリー、大丈夫ですか?」

「うわーん!」


 泣いているミリーにルディが声を掛けると、彼女は安心したのかルディにしがみつき、ルディの服に顔をうずめて大声で泣き続けた。


「もう怖くないです」


 宥めてもミリーは泣き止まず、仕方がないのでルディは彼女を抱き抱えて家に戻った。

 ちなみに、ミリーが虐められるようになったのは、ルディが村に来てから。それまでは、彼女が話し掛けても無視されていた。

 村の少年たちはミリーに仲間が出来たと思い込み、自分たちの対抗組織になるのではと、警戒心が生まれたからだった。


「ほら、ミリー泣き止めです」


 ルディがミリーの背中をポンポン叩いて安心させて、ようやく彼女が泣き止んだ。


「ぐずっ、ぐずっ」

「泣き虫ミリーにお友達を紹介するです」

「ぐずっ、おともだち?」

「ほら、そこで待っているですよ」


 ルディが顎をしゃくってうさぎのぬいぐるみをミリーに見せると、彼女はぬいぐるみを見て驚き目を大きく開いた。


「うさぎさん?」

「そーです。うさぎさんもミリーと友達になりたい、言ってやがるです」


 ルディがぬいぐるみの近くにミリーを降ろすと、彼女は恐る恐るぬいぐるみに触れて、害がないと分かると話し掛けた。


「うさぎさん、ミリーのおともだちになってくれるの?」


 ぬいぐるみは何も言わないが、彼女の心の中では「そうだよ」と言っていた。


「うさぎさん、ありがとう!」


 ミリーがぬいぐるみに抱きついて笑顔になる。

 その様子に、ルディも安心して彼女とぬいぐるみに微笑んだ。




 ミリーはうさぎのぬいぐるみを気に入り、ラミーと名前を付けた。

 おそらく、ラビットの「ラ」と、自分の名前の「ミ」を掛け合わせて伸ばしたと思われる。


「ラミーちゃん、かわいいー」


 ミリーがぬいぐるみの両腕を上げ下げしながらお喋りをする。


(なるほど。確かにミリーぐらいの歳だと、おままごとで遊ぶんだな)


 ルディは流石は春子さんだと思いながら、ギターを抱えて弦を鳴らした。

 すると、ぬいぐるみとじゃれていたミリーが音に気づいて、ルディに振り向いた。


「ルーくん、それなに?」

「ギターです」

「ギター?」


 ミリーがぬいぐるみを抱きながら首を傾げる。


「とりあえず、一曲弾くから聞きやがれです」


 ルディはそう言うとギターを鳴らして歌い始めた。


″太陽は大地を照らし 草原に爽やかな風が吹いている

 草原の中で貴方は微笑み 何時も私を見てくれたね


 愛しいてるわ だけど辛い時もあった 時々喧嘩もしたよ

 それでも私たちは何時も一緒

 だれも引き離す事なんで出来やしない


 夜は月と星が大地を照らし 草原に冷たい風が吹いている

 草原の中で貴方は私を抱きしめ 何時も私を温めてくれたね


 きっと私たちは似た者同士なの だから私は貴方に出会えた

 幸せな時 このまま永遠に続いて欲しい

 それが私の唯一の望み


 神様ありがとう″


 ルディが歌い終わると、ミリーが立ち上がって拍手をした。


「ルーくん、すごい!」

「どーもです」


 ルディがミリーに手を振っていると、家の外からガタッ! と物音が聞こえた。

 ルディが振り向くと、ギターの音に惹かれて子供たちが集まって、家の玄関だけでなく開けっ放しの窓からも顔を出して、家の中を覗いていた。


「お前らも聞きてーですか」


 ルディが外に向かって話し掛けると、数人の子供が頷き返す。


「ミリーどうするですか? こいつ等はミリーを虐めたから、お前が嫌だったら聞かせねーです」


 ルディがミリーに質問すると、彼女はすぐに頭を横に振った。


「ルーくん。みんなにもきかせて!」

「ミリーは優しいですね」

「えへへ……」


 ミリーの返答にルディは笑うと、頭を撫でて彼女を褒めた。




 ルディは家の中は狭いからと外に出て木の下に座り、子供たちを木陰の下に集めると、ギターを弾いて子供たちが楽しめる曲を歌い始めた。


 ルディの歌は村の子供たちを笑顔に変えて、次第にミリーに対する敵対心も消していた。

 そして、心優しいミリーも人形を羨ましそうに見ている子を見つけると、その子と一緒にぬいぐるみで遊び始めた。


「その…今までよそ者と言って、ごめん」


 ルディが何曲かギター弾いて少し休んでいると、ミリーを虐めていた男の子たちが頭を下げてきた。

 どうやらミリーが優しい性格だと気付いて、考えを改めたらしい。


「……もうミリーのこと、いじめない?」


 ミリーがぬいぐるみに顔を半分隠して質問すると、男の子たちが頷いた。


「うん。これからは一緒に遊ぼう」

「……ありがとう」


 まだ完全に警戒を解いてないけど、ミリーがお礼を言う。

 すると、彼女の恥じらう姿に男の子たちが照れていた。


(すげー、チョロじゃん)


 ルディはたった1日で男を落としたミリーを凄いと思った。

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