第118話 子供の遊び道具
ルディはレインズたちが視察に出かけて1人になると、ソラリスに連絡を入れた。
『ソラリス、そっちはどんな感じだ?』
『特に問題ございません』
『一郎の調子は?』
『体内のマナは順調に増えており、体調にも変化はございません。今もナオミと一緒にバトミントンをしています』
『…………』
想定外の報告に、ルディの理解が追い付かず間が空いた。
『……師匠とバトミントン?』
『ここ暫くナオミは運動不足に悩んでおり、ゴブリン一郎とバトミントンを始めたのですが、どうやらハマった様子です』
要約すると、「住み心地が良くて引き籠っていたら、体重が増えてるぅ。マジ、ヤバイ、痩せなきゃ‼」らしい。
『……まあ、仲が良いのは良い事だな』
『はい。2人とも楽しそうに遊んでいます』
どうやら向こうの様は問題ないと、ルディは本題に入ることにした。
『ソラリス、3歳の女の子が遊ぶ道具を探している。お前なら何を与える?』
ソラリスの筐体は児童育成用のアンドロイド「なんでもお任せ春子さん」だから、ルディは春子さんのデーターベースから、ミリーの遊び道具に何が相応しいのか質問した。
ソラリスは突然の質問に、ナイキにあるルディの行動ログを確認してから、筐体のデータから適切な回答を導き出した。
『対照がミリーであれば、人形がよろしいかと思います』
『なるほど。3歳にゲームはまだ早いか』
『幼児期の女の子はゲームで競うよりも、想像力を膨らませる遊びで育てた方が教育に良いでしょう。あとは、音楽を聞かせるのも推奨します』
『音楽か……そう言えば俺の私物にギターがあったな。あれは何処にやったっけ?』
ルディが呟くと、話を聞いていたハルが話に割り込んできた。
『マスターの私物の大半は拠点に移動しています』
『だったら大丈夫だな。ギターと人形を持って来てくれ』
『分かりました。人形は今ある材料で作り、明日までに完成させます』
『人形の容姿は任せる』
『わかりました』
ルディはAIとの連絡を閉じると、今のうちに夕食の下拵えを始めた。
「ルーくん、おはよう」
昼寝から目覚めたミリーが台所に現れて、調理中のルディに挨拶をしてきた。
「おはよう。ミリーは挨拶出来て偉いです」
「えへへ」
ルディが褒めると、ミリーが照れ笑いをした。
「火の近くは危ねえから、近づくなです」
「わかったー」
ルディが抱きついて来そうなミリーを制すると、彼女は素直に従って椅子に座り、ルディの背中を見ながら楽しそうに鼻歌を歌っていた。
「ルーくんいいにおいする」
「オニオンスープです。玉ねぎがきつね色になるまで炒めてから作るのがコツです」
「コツです!」
話の内容は理解していないが、ミリーはルディと会話するだけでも楽しそうだった。
ルディはオニオンスープを作った後も、野うさぎと大根の照り煮を作りながら、ミリーのおままごとの相手をしたり、一緒に歌ったりしてあやした。
(おかしい。こういうのは、ソラリスの仕事だと思うんだけどなぁ)
ルディはそう思いながらも、村で独りぼっちのミリーを放置するつもりはなかった。
「楽しそうだな」
ルディがミリーに3匹の子ブタ、改め3匹の子オークの童話を話していたら、視察に出かけたレインズたちがタイラーを連れて帰ってきた。
「おかえりです」
「おかえりー」
ルディとミリーの挨拶に全員がほっこりする。
「ミリー楽しかったか?」
「うん!」
タイラーが話し掛けるとミリーが笑顔で頷き、その笑顔にタイラーが驚いていた。
「……こんなに笑ったミリーを見るのは初めてだ」
「普段はどうなんですか?」
驚いているタイラーにルイジアナが質問すると、彼は深くため息を吐いた。
「普段は家に引き籠ってあまり笑わず、マリナの傍を離れないでいる。俺もマリナも内気な性格だと思っていたんだが、違ってたんだな……」
「早く家族として認められろな努力しやがれです」
「ああ……がんばるよ」
ルディに言われて、タイラーが頷いた。
「ねぇねぇ、オオカミさんはどうなったの?」
「煙突から落ちて、熱々の鍋の中にどぼーんです」
「どぼーん!」
親の心子知らず、ミリーは物語のオチを聞いて、楽しそうにはしゃいでいた。
「それで、視察はどうだったですか?」
「ルディ君が言っていた川の水を引くのは難しいな」
レインズとタイラーの話によると、村の西に流れている川は、村とは反対の土地だと農業に最適な平地が広がっているのだが、そこは領主直営地で税金が払えなかった領民が小作人となって働いているらしい。
レインズは自分が領主になったらせめてもの償いとして、彼らに土地を明け渡すつもりだった。
そして、村がある土地は高台になっていて、高低差から川の水が引けないらしい。
「水車でも駄目ですか?」
「川から草原の間に僅かだけど平地があるから無理だ。タイラーたちはその僅かな土地で小麦を作っている」
ルディの質問にレインズが頭を横に振る。
水車は水の勢いがなければ回らず、水を汲み上げるには川に面していないと出来なかった。
「そーですか……」
ルディが腕を組んで考えると、ルイジアナの膝の上に座っていたミリーも同じく腕を組んでルディのマネをしていた。
(うーん。何かいい方法ないかな……そう言えば、草原に行ったときに風が吹いていたな)
「タイラーさん。ここの草原って、一年中風が吹いてるですか?」
「この辺りは一年中風が吹いてるぞ」
タイラーの返答にルディが頷いた。
「なるほどです。だったら、風車で水を汲み上げれば解決です」
「風車? 風で水をくみ上げるのか?」
レインズは水車を知っているが、風車は知らないらしい。
首を傾げるレインズにルディが説明すると、彼だけでなく他の皆も驚いていた。
「確かにルディ君の言っている風車という物があれば、水を高い所へ送れるな」
「しかも、風は一年中吹いているから止まることもない」
レインズの後にタイラーも乗り気になる。
「問題はその風車が作れるかどうかだのう……」
ハクがあご髭を撫でて呟くと、ルディ以外の全員が唸った。
「風車の設計図は書いてやるです」
「ルディ君は風車の設計図を書けるのか?」
レインズの確認にルディが頷いた。
「そのぐらいならよゆーです」
実際は面倒だからハルに書かせる予定。
「よし! タイラー、この辺りの土地を詳しく教えてくれ」
「おう! この村だけじゃねえ。川の水が引けたら、この辺一体が大農園になるぞ!」
やる気になった2人は、夕食の時間になるまで語り合った。
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