第116話 よそ者に対する差別
ナオミの家と違って、この村には冷蔵庫などなく季節は夏。
大量に獲物を狩ったとしても、これだけの量をルディたちだけでは食べきれない。
という事で、ルディは鳥1羽と野うさぎを残して、後は昨日と同じく何処かの家で別の食料に交換しようと外に出かけた。
まずは馴染みと言う事でウィートの家に向かう。
ウィートからしてみれば、「別に馴染みじゃねえし、冗談じゃねえ!」と思うかもしれないが、ルディは気にしない。
「おっさん居るかです?」
ルディが家の中を覗くと誰も居なかった。
(そう言えば領都に行くとか言ってたな。もう出かけたのか)
実際にルディが狩をしている間に、ウィートと数人の村人はレインズから手紙を受け取って領都に旅立っていた。
ウィートの家を出て別の家に向かっていると、ミリーが走ってきてルディに向かって猛烈なタックルをしてきた。
「ミリーどうしやがったですか?」
「ルーくん、いないのいや!」
ミリーに懐かれてルディが困った表情を浮かべる。
「そんなに引っ付いたら歩けねえです」
それでも離れないミリーに、ルディは諦めて彼女を抱き上げた。
「今日だけですよ」
ルディがそう言うと、ミリーはルディの肩に顔を押し付けて頷いた。
「たのもーです」
ルディは別の家の前に立つと、暖簾をかき分けて声を掛けた。
「はーい」
ルディの声にみすぼらしい中年の主婦が振り向き、ルディの格好を見て眉をひそめる。
「えっと、家に何か用ですか?」
余所者のルディが村の子供を抱いている事に、彼女は訝しみ警戒した様子で話し掛けてきた。
「この鳥と別の食料、交換しろ欲しいです」
「…………」
主婦はルディをジロジロと観察して、どうやら食料を奪いに来たのではないらしいと胸を撫で下ろす。
「良いわよ。大麦で良いかしら」
「4人分寄越しやがれです、駄目ですか?」
ルディの乱暴なのか丁寧なのかよく分からない言い方に、主婦が再び眉をひそめる。おそらくルディが自分の子供だったら叱っていた。
「……そのぐらいなら、まあ良いわ」
交渉が成立して、ルディと主婦が食料を交換する。
「余所者と聞いてたから、もっと乱暴な人たちかと思ったわ」
帰り際に主婦から話し掛けられて、ルディが首を傾げる。
「乱暴を働こうしたの、この村の人たちですよ」
「……そう言えば、そうだったわね」
ルディの言い返しに、言われてみれば確かにそうだったと、主婦が申し訳なさそうに頭を下げた。
ルディは別の家でも鳥とジャガイモを交換してから、宿泊先の家路を歩いていた。
「これで今日と明日の食料は確保したです」
無事にマナを含んだ炭水化物を手に入れて満足する。
タンパク質は狩りで手に入れたし、ビタミンはハルが送ってきた食料で賄えるから問題ない。
「ミリーは何が食べたい物あるですか?」
「おいしいの」
「注文が大雑把です」
ルディが昼ご飯に何を作ろうか悩んでいると、彼らに向かって小石が飛んできた。
「なんですか?」
ルディは飛んできた小石を避けて視線を向けると、8人の子供が集まっており、ルディとミリーを遠くから見つめて叫びだした。
「よそ者は出てけ!」
「この村に何しに来たんだ、帰れ!」
「そうだ、帰れ!」
子供たちが野次を飛ばすと、再び小石を投げ始めた。
「うわーーん!」
ルディの腕の中で怖くなったミリーが泣きだして、ルディにしがみつく。
「よしよしです。僕、居るから怖くねーですよ」
ルディがミリーを宥めつつ、小石を躱しながら子供を観察すると、野次と石を投げて迫害しているのは3人の男子だけで、後の子供は傍観していた。
(どうしようかな。やり返すのも大人げないし、このままだとミリーが可哀そうだしなぁ……)
ルディが悩んでいると、レインズとの話を終えたタイラーが宿泊先の家から現れて、ルディと村の子供たちを見るなり大声で怒鳴った。
「お前たち、何をしている‼」
タイラーに見つかった子供たちが一斉に逃げだして、タイラーが走ってルディに近づいた。
「クソ! アイツら……」
タイラーは怒った様子で子供たちが逃げた方向を睨む。
「タイラーさん、助かったです」
「こっちこそ、ミリーを守ってくれてありがとうよ。それにしても、ここまで酷いとは思わなかったぜ」
「今まで知らねーかったですか?」
「ミリーが来た時は春撒きの小麦で忙しかったんだ。それにミリーも村に馴染んでなかったからな」
「育児放置はよくねーです」
「反省している」
そうルディが言うと、タイラーが頭をぼりぼり掻いて顔をしかめてた。
「僕、ここに居る間に何とかしてやるですから、感謝しろです」
「何とかって、何をやるんだ?」
「とりあえず今から飯だから、考えるのはその後です。タイラーさんも食べていくですか?」
「……いや、マリナだけ食べないのは悪いから、俺は遠慮する」
タイラーは見た目と違って、実は愛妻家。
「そーですか、じゃあミリーだけごちそう食べさせるです」
「そうしてくれると、こっちの食費も助かる」
ルディは頭を下げるタイラーと別れると、未だにぐずっているミリーの背中を撫でながら家に帰った。
「ルイちゃん居るですか?」
「どうしたの?」
「ご飯作るから、それまでミリーの面倒見やがれです」
「分かったわ」
「それと……」
ルディが言いかけて、レインズとハクの方を見る。
「何だ?」
「…………」
ルディは少し考えてからレインズを無視して、ルイジアナを奥へ誘い小声で話しかけた。
「ミリーがお漏らししてるから、綺麗にしてやれです」
実はミリーが泣いた時から、ルディの手は彼女のお漏らしで濡れていた。
ルイジアナはルディが子供でもミリーを女性として扱って、男性の前で粗相した事を言わなかったことにくすりと笑う。
「ルー君は男前ね」
「そーですか? こんなの常識です」
「その常識が分からない男性が、この世には巨万と居るのよ」
「モテない男が多いと女性も大変です」
ルディはそう言うと、ルイジアナにミリーを預けた。
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