第115話 草原での狩り

 ルディが村を歩いていると、彼を見つけたミリーが走ってきた。


「ルーくん、おはよう」

「おはようです」

「どこいくの?」


 ミリーが指を咥えて首を傾げる。


「散歩です」

「わたしもいくー」


 そうは言ってもミリーは靴を履いておらず裸足。

 ちなみに、靴は存在しているが貴族階級や金持ちしか履いておらず、貧乏人は裸足での生活をしていた。

 おそらく、ミリーからみれば裸足での生活は当然なのかもしれない。だけど、足を見れば所々に擦り傷があって痛そうだった。


「友達と遊んでろです」

「……ともだち、いないの」


 そう言ってミリーがしゅんとして顔を伏せた。


「この村、他に子供いねーですか?」

「いるよ。だけどわたし、よそものだからだめだって」


 ミリーの返答に、彼女は2カ月にこの村に捨てられたという、タイラーの話を思い出した。


「仕方ねーですね」


 足を怪我しないようにルディがひょいっと抱き上げると、泣きそうだったミリーが嬉しそうに笑った。


「わーい」


 ミリーは昨日からルディを頼りがいのあるお兄ちゃんだと思っていた。甘いモノに釣られたともいう。

 抱き上げられて笑うミリーとは逆に、ルディは彼女の体が軽い事に顔をしかめた。


(きちんと食べてないんだろうな……)


「ミリー、この村は昼飯食べてろですか?」

「ううん。あさとよるだけ…ちょっとしかたべられないの」

「じゃあ、獲物仕留めたら、昼にいっぱい食べるです」

「わーい」


 お昼にお腹いっぱいご飯が食べれるかもと、ルディの腕の中でミリーがはしゃいだ。




 村から少し離れた場所に行くと草原が広がり、やや強い風が吹いて心地良かった。

 ルディは左目のインプラントをサーモグラフに切り替える。すると、草原の中にいくつもの小動物の姿が見えた。


「獲物がいっぱい居るです」

「そーなの?」


 ルディと違って肉眼でしか物を見る事ができないミリーがキョロキョロ見回しても、草しか見えず首を傾げた。


「獲物逃げるからしーです」

「しー」


 ルディが口に人差し指を持っていくと、ミリーもマネをして静かになった。


 サーモグラフに映った鳥まで150mの距離まで近づき、ミリーを地面に降ろす。


「動くんじゃねーです」


 ルディが小声で言うと、ミリーは口元を手で抑えて無言で頷き返した。


 ルディが背中から弓を取り出して矢をつがえ、くちばしで羽づくろいをしている鳥に向かって矢を放つ。

 放った矢は胴体に突き刺さり、鳥は一声鳴くと、その場で暴れ回った。


「やったです」

「すごいです」


 ルディが緊張を解くと、ミリーが語尾をマネして、ぴょんぴょん跳ねて喜んでいた。




 それから2時間ほど狩を続けて、鴨みたいな鳥を4匹、野うさぎを1匹仕留めて村に帰った。


「大猟です」

「とりにく~♪ とりにく~♪ ぱたぱた、おそらをとんでいたけど おいしくたべちゃうの~♪」


 ルディの腕の中でミリーが自作の歌を楽しく歌っていた。


「ただいまです」

「ただいま~」


 ルディが家に帰ると、タイラーが家に来ており、レインズと話をしていた。


「……ずいぶんと仕留めてきたな」


 ルディの腰にぶら下がっている獲物に、レインズが驚き笑みを浮かべるが、タイラーはルディの腕の中のミリーを見て眉をひそめた。


「……ミリーを村の外に連れてったのか?」

「そーですよ」


 その返答を聞いてタイラーが突然立ち上がる。そして、いきなりルディに向かって殴り掛かってきた。

 ルディは突然の事で驚くが、電子頭脳を高速化させてゾーンに入ると、素早く拳を躱して、逆にタイラーの手首を掴み、小手返しの要領で彼を床に倒した。


「なっ⁉」


 殴ったと思ったら何故か自分が床に倒されている状況に、タイラーが目を丸くする。


「殴るなら説明してから殴りやがれです。まあ、何となく動機は分かるです」


 ゾーンを切ったルディが、タイラーを見下ろして口を開く。

 彼はどうせミリーを外に連れ出したことに怒ったのだろうと、当たりを付けていた。


「……分かっているなら、どうして連れてった」


 床に倒れたままタイラーがルディを睨んで言い返す。そして、険悪な空気にミリーが泣きだした。


「うわ~ん!」

「はいはい、泣くなです。ルイちゃん、ミリーを頼むです」

「分かったわ」


 ルディに頼まれたルイジアナが、ルディからミリーを受け取りあやしながら奥へと引っこんだ。


「おい、質問に答えろ」


 立ち上がったタイラーが拳を震わせる。本当は殴りたかったが、また怪しい技で倒されるかもと自制していた。


「ミリーまだ村に来たばかりだから、友達いねーみたいです。だから一緒に遊んだです」

「そうだとしても村の外は狼が出て危険だ! お前ひとりでミリーを守れるのか⁉」

「あータイラー、ちょっと良いか」


 タイラーの言い返しに、レインズが間に挟んできた。


「今は忙しい後にしろ!」

「いや、ルディ君は奈落の魔女の弟子であると同時に、黒剣のカールの弟子なんだ」

「なっ⁉ ……本当か」


 それを聞いた途端、タイラーが口をあんぐりと開ける。そして、再びルディの方に顔を向けた。


「カールさんは僕の師範です。僕、結構つえーですよ。この辺の敵ならよゆーです」


 ルディからも本当だと聞いて、タイラーは先ほど倒されたのがまぐれではない事を理解した。


「奈落の魔女と黒剣のカールの弟子か。その歳でどれだけ強いんだ……」

「タイラーさんがびっくりするほどつえーです」

「それじゃ伝わらねえよ…あまり感心しないが、お前が強いのは分かった。それと、ミリーと遊んでくれてありがとよ。アイツ、まだ村に馴染んでないから、まだ友達が居ないんだ」


 タイラーはそう言うと、ため息を吐いて椅子に座った。


「早く友達出来ると良いですね。これ、お詫びにどーぞ、家で食べやがれです」


 これで手打ちだと、ルディは腰にぶら下げた鴨を1羽取り出して、タイラーに渡した。


「ああ、ありがたく頂くよ」


 タイラーは複雑な表情を浮かべて、鴨を受け取った。

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