第114話 紙と万年筆

「ジャガイモ料理が出来たです」

「ほう。ただのジャガイモ料理と思いきや、これはまた美味そうな料理じゃな」


 テーブルに並んだ料理を見て、ハクだけでなく全員が目を輝かせる。

 ここハルビニア国のジャガイモ料理と言ったら、基本的に茹でるか蒸かすかした芋に塩を振るだけの料理だったので、専ら貧乏人の食べる物という認識だった。

 そして、ジャガイモごときに胡椒や酢といった調味料、ましてや貴重な白ワインまで入れた料理は、レインズたちから見ればあり得なかった。


「この白いトロッとしたのは何だ?」


 ルディがクイニーパターテを4つに切って、溶けたチーズが垂れるのを見たレインズが質問する。


「チーズです……ししょーの大好物ですが、この辺りだと作ってねーとか言ってたです」

「……ほう。そいつは楽しみだ」


 ルディの返答に、レインズがゴクリと喉を鳴らした。


「では、さっさと食べやがれです」


 そうルディが言うと、3人が同時に料理を口にした。




 クイニーパターテを食べたレインズたちが、驚いて目を大きく開いた。

 そして、無言で咀嚼して飲み込むと、料理を作ったルディを褒め称えた。


「これは美味い。特に中に入ってるチーズとやらが、ジャガイモに合う!」

「うむ。このチーズは酒が飲みたくなる」

「美味しいです」


 相変わらず、食事になるとルイジアナの語彙力がなくなる。


「酒ですか? 調理酒の白ワインしかねえです」


 酒があると聞いてハクが笑みを浮かべる。


「それでもかまわんぞ」

「まあ、飲みたければ勝手に飲みやがれです」


 ルディの返答にハクが席を立ち、台所にあった調理用の白ワインを持ってきた。


「皆も飲むじゃろ」

「…そうだな。一杯だけ頂こう」

「僕はいらねえです」

「今日は私も遠慮します」


 レインズだけが飲むと言って、ルディとルイジアナが遠慮した。

 ルディは美味い酒は好きだけど普通の酒は飲まない。


「なら、お前たちの分まで儂が貰うとしよう」

「料理に使うから全部飲むなです」


 ハクに向かって、ルディが両腕をクロスしてバッテンを作った。


「分かった、分かった」


 ハクがワインを飲んで顔をしかめる。


「……ふむ。辛口だけど、そんなに美味いわけではないのう」

「だから調理酒と言ったです」


 ハクの感想にルディが肩を竦める。


「まあ、ハクは昔から酒だったら何でも飲むからな」


 ハクの様子にレインズが笑って、ジャーマンポテトを口に入れた。


「ふむ……コイツもなかなかイケるな。俺もクリス様の付き合いで、贅沢な飯を食ったけど、こいつは引けも劣らない味だ」

「ただの芋がこんなに美味いとはのう。今まで知らなかった分だけ人生を損した気分じゃ」

「美味しいです」


 ルディもジャーマンポテトを食べてみる。ベーコンと玉ねぎの味がしみ込んだジャガイモのほくッとした食感に、まあまあかなと思った。


「ルイちゃん、マナの回復どーですか?」

「んー美味しいです。あ、何となくマナは回復している感じがありますね。ルー君、ありがとう」

「良かったです」


 ルイジアナの返答に、ルディはマナ回復用の食材を探そうと決めた。




 レインズはタイラーを信用しているが、用心に見張りを立てる事にした。

 そして、先にレインズとルディが見張り番をしていると、ハルから連絡が入ってきた。


『マスター。依頼の品を家の前に置いときました』

『もう届いたのか、早いな』

『拠点から距離があったので、途中まで小型の飛空艇で運びました』


 ハルの言っている拠点とは、ルディが暴れている間に彼が重機を動かして作った飛行場の事で、場所はナオミの家から少し離れた所にある。

 一度、ルディがナオミを連れて見学しに行ったら、滑走路を地下に隠し、岩で偽造した開閉式の発着口から飛行機が飛びだす、彼のこだわりを感じさせる見事な仕様だった。

 ちなみに、飛行場を見たナオミは興奮しっぱなしで、ルディはハルの「時間があったから拘ってみました」の報告に苦笑いしていた。


『誰にも見つかってないな』

『もちろん、そんなヘマはしません』


 どうやらルディの発言はAIの誇りを傷つけたらしい。


『そいつは失礼。また何か必要な物があったら連絡する』

『イエス。マスター』


 ハルとの通信を終わらせてルディが席を立つと、色々と考え事をしていたレインズが話し掛けてきた。


「どこか行くのか?」

「玄関に行くだけです」


 レインズが首を傾げている前で、ルディが家の外から沢山の荷物を持って戻ってくると、レインズが口をあんぐりと開けた。


「そ、それは…?」

「ししょーからのサービスです」


 正気に戻ったレインズにルディが冗談を含んだ嘘を返して、荷物の整理を始める。


「……これはレインズさんにですね」


 そう言って、ルディがテーブルの上に紙と万年筆を置いた。

 ちなみに、ハルがわざわざ万年筆にしたのは、レインズが貴族だからと高級感を出した彼のこだわり。


「これは……もしかして紙とペンか?」


 レインズが白い植物紙に触れてから万年筆で書くと、何時も使っている羽ペンとは違う滑らかな書き心地に驚いていた。


(そう言えば、師匠とフランツも紙を見て驚いてたな)


 ちなみに、2人以外にカールたちも驚いていたけど、ルディは知らない。


「そーです。ちゃっちゃと手紙を書きやがれです」

「…………」


 レインズはルディから、この紙の作り方を聞き出せないか考えるが、おそらく無理だと諦めて、何度か試し書きをすると手紙を書き始めた。




 翌朝、ルディはルイジアナに起こされて目を覚ました。

 昨日の晩は、見張りを交代するときにハルの送った物資を見て、ハクとルイジアナが驚いていたが、それ以外は特に何事も起きなかった。

 ちなみに、レインズは朝方まで手紙を書いていたので、現在睡眠中。


 朝食に茹でたジャガイモを入れたポタージュスープと、オーブンが無いからフライパンで焼いたトースト、おまけでイチゴジャムを作って食べる。


「美味しいです」


 イチゴジャムを塗ったトーストに、ルイジアナの顔がとろける。ちなみに、語彙力はない。


 レインズはタイラーに手紙を渡すため、家で待つ予定。

 ハクとルイジアナも彼の護衛で残るが、ルディは護衛をする必要がないので、今日のおかずを探しに外へ出かけた。

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