第113話 じゃがいも料理

 家の外に出たルディだが、タイラーの家など知らず、足を止めるとキョロキョロと村を見回した。

 この村ではどの家も玄関に扉が無く、むしろで作ったのれんが掛かってるだけだった。


「セキュリティの欠片もねーです」


 ルディは呟くと、タイラーの家を聞こうと適当な家に入った。


「たのもーです」

「んあ?」


 偶然にもルディが適当に入った家はウィートの家だった。


「うげっ! 何しに来た」

「そんな嫌な顔するなです」


 ルディを見てウィートの顔が引き攣る。


「お前、自分が何をしたか忘れたんじゃねーだろうな」

「……? 何かしたですか?」


 ルディが首を傾げる。


「ふざけんなバカヤロウ、弓で刺しただろ‼」


 ウィートが怒鳴って、ルディが弓矢で刺したふくらはぎを見せた。


「もう治ったから気にしてねえです」

「それはお前が一番言っちゃいけねえセリフだ! 少しは気にしろや!」


 ウィートの言い返しに、ルディは相変わらず面白いツッコミだなぁと感心していた。




「……それで、何の用だ?」


 キレて疲れたウィートから話し掛けられて、この家に来た目的を思い出した。


「タイラーさんの家を教えてもらうつもりだったけど、おっさんでも良いです」

「おっさん言うな」

「小麦粉と何か別の食い物交換しろです」


 そう言ってルディが4人分の小麦粉が入った袋を出した。

 ルディはルイジアナのマナ回復に、宇宙から持ってきたマナが含まれてない小麦粉を、この星で作ったマナの含んだ食べ物と交換するつもりだった。だけど、同じ小麦で交換したら怪しまれるから、違う食べ物との交換を願い出た。


「小麦粉と交換?」


 ウィートが首を傾げて袋を受け取り中身を確認すると、彼が見た事のない白い小麦粉が入っていた。


「ずいぶんと白い小麦粉だな」


 ウィートが知っている小麦粉は、製粉の荒い表皮が少し残っているクリーム色をしており、ルディが持ってきた丁寧に製粉した白い小麦粉なんて見るのは初めてだった。


「強力粉です」

「強力粉? 何だそりゃ」


 ウィートの質問にルディが困った表情を浮かべる。


「うーん、小麦は種類がいっぱいありやがるくせに、全部小麦言うから説明難しいです」

「俺はお前の言動が理解できねえよ。とりあえず、この小麦粉を別の食い物と交換してえんだな」

「そのとーりです。話し早くて助かるです」


 ウィートは首筋をぼりぼり搔きながら考えてから口を開いた。


「小麦粉なんて贅沢品食わねえけど、せっかくだから交換してやるよ。ただし芋になるぞ。と言うか、それしかねえ」

「それで構わねえです」


 この村で作っている小麦は全て税金として取られ、普段は大麦かジャガイモしか食べていないウィートからしてみれば、ルディの渡した小麦粉は贅沢品なのだが、ルディは価値なんてどうでもよく、マナが含んでいればなんでも良かった。


「じゃあ、ちと待てや」


 そう言うと、ウィートは家の奥に行ってジャガイモを取りに行った。




「そういや、俺が領都に行くことになったぜ」


 家の奥からウィートが話し掛けると、ルディが目をしばたたいた。


「そーなんですか?」

「俺だけじゃなくて、もう何人かと一緒だけどな」

「おっさんも大変ですね」

「お前、俺の名前を覚える気ねーだろ」

「覚えてるけど言わねえだけです」

「殴りたくなる返答ありがとよ!」

「だけど、僕の周りボケるとボケ返す連中ばかりだから、確実にツッコんでくれるウィートありがてーです」

「なんだそりゃ。奈落の魔女もボケるんか?」


 ウィートがジャガイモを持って戻ってきた。


「ししょーは天然でやらかすタイプです。しかもその規模が半端ねえから、ボケの範疇を超えてろです」

「……災害とまで言われてるのは伊達じゃねえな。だけど、もっと気難しい性格だと思ってたぜ」

「そんなことねーですよ」

「まあ、俺が奈落の魔女と会う事はねえからどうでもいいや。ほら、これだけあれば十分だろ」


 ウィートが持ってきたジャガイモは栄養不足なのか小ぶりだったが、それでも別にいいやと、ルディは交換に応じた。


「助かるです」

「こっちの方が得したから、気にするな」

「それじゃ、領都で頑張りやがれです」

「まあ適当にやるさ」


 ルディはウィートの家を出ると、レインズたちの元に戻った。




「ただいまです」

「おかえり。どこに行ってたんだ?」


 ルディが帰ると、ハクと話をしていたレインズが声を掛けた。


「ウィートのおっさんを茶化しに行ってたです」

「ウィート? そいつは誰だ?」


 斥候の名前を知らなかったレインズが首を傾げる。


「僕が殺しそこねた斥候です」

「ああ、アイツか」


 ルディの返答を聞いて誰だか理解した。


「それじゃ料理を作ってくるです」


 そう言うとルディは台所に向かった。




 薪の無いかまどを見て、今日は七輪で料理を作ろうと決めた。


 最初に作ったのは、ジャガイモのチーズガレッド。

 ガレッドと言えば、そば粉のクレープが有名だけど、これはガレッドでもクイニーパターテと呼ばれている。

 まずは、ジャガイモをスライスして細切りにした後、塩を振って水が出たところに小麦粉を入れて混ぜておく。

 そして、オーブンで焼くのだが、今回はオーブンが無いのでフライパンで両面をじっくりと焼いたのを2枚作った。

 最後にガレッドの間に、スライスしたチーズを挟んで完成。


 次に作ったのはジャーマンポテト。

 ジャガイモは6等分、ベーコンも適当に切って、玉ねぎはみじん切りにする。

 フライパンでベーコンをこんがり焼いてから取り出して、今度は玉ねぎをキツネ色になるまで炒めてから、ジャガイモを投入してさらに炒める。

 白ワインを入れてから蓋をして蒸し焼きしてから酢を大さじ1杯、ベーコンを戻してさらに炒めて、黒コショウを振って、ジャガイモの表面がパリッとなったら出来上がり。


 最後に市販品のポタージュスープにすり下ろしたジャガイモを入れて、ジャガイモスープを作った。


「芋ばかりだけど、まあ、いいかです」


 ルディはそう言うと、出来上がった料理をテーブルに運んだ。 

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