第105話 レインズの苦難

 ルディとルイジアナはテントに戻ると、レインズたちと合流して朝食を取った。

 ちなみに、朝食はベーコンをこんがり焼いて、キャベツと人参のコールスローを作り、それを柔らかいパンに挟んで食べた。


「今日は俺が荷車を引くから、ルディ君とルイジアナは警戒を頼む」


 朝食を終えたレインズがそう言うと、ハクが顔をしかめる。


「レインズ様、貴族が荷車を引くのは世間体が悪いと思うぞ」

「はっはっはっ。誰も見てないのに、世間体など気にする必要はないだろう。俺よりもルディ君の方が偵察に向いているんだから、荷車は俺が引いた方が良い。それと今の俺はレインだ。喋り方も改めろ」

「はぁ…仕方ないですのう」


 ハクの進言をレインズが笑い飛ばすと、ハクが諦めた様子で肩を竦めた。




 ルディたちが荷車を押して、領都に向かって街道を進む。

 初夏の太陽は強い日差しを地上に注いでいた。


「朝から暑いな」

「夏ですからのう」


 レインズが額の汗を拭って呟くと、同じく横で荷車を押していたハクが応じた。

 貴族なのに自ら率先して荷車を引くレインズの様子を、ルディは面白いと彼を観察していた。


(貴族と言っても様々だなぁ……)


 ルディが会った貴族は、ガーバレス子爵の息子のアルフレッドしか居ないが、彼は横柄で人の話を聞かない我儘な人物だった。

 そして、直接被害はないけど、ルディが宇宙で運送業をしていた時も、仕事で封建制の国に立ち寄って入国管理官や同業者と世間話をすると、横柄な貴族の話がよく話題になった。


 だから、ルディが持っている貴族のイメージは堕落した人間、所謂クソ野郎だった。

 だけど、レインズは貴族の矜持を持ちながらどこか庶民的で、性格も気さくでユーモアにも理解があった。


(この国の王太子の性格は知らんけど、レインズを気に入った理由は何となく分かる)


 ルディは、レインズがデッドフォレスト領の領主になったら、きっと良くなると思った。




 昼を過ぎて順調に街道を歩いていると、ハルから連絡が入ってきた。


『マスター。昨晩監視していた人物に変動がありました』

『どうなった?』

『午前中はそちらを追尾していましたが、途中で外れて別の人物と合流。その後、街道から外れた村へ移動しました。現在、合流した人物がそちらの後を追尾しており、村では武装した集団が集合中です』

『組織的犯行だな。何人ぐらい集まってる?』

『現在、24…25人です』

『こっちは4人だけなのに、ずいぶんと多いな』

『こちらで始末しますか?』


 ハルの提案にルディが悩む。


『うーん。まだ盗賊と決まったわけじゃないからなぁ。まあ、レインズの苦難という事で、彼に頑張ってもらおうか』

『マスターは彼の手伝いをしているのでは?』


 ハルの疑問にルディがニヤリと笑う。


『手伝いはしている。だけど、全部やるほど俺は甘くない。精々レインズが死なない程度に手伝うだけさ』

『厳しいですね』

『そうかな? レインズは領主になるんだ。領地の現状を教えるのに良い機会だと思うよ』

『分かりまし……どうやら、武装集団が移動を開始するようです。方角からして、目的地はそちらです』


 ハルの報告に、ルディも左目のインプラントを使って、ナイキからの衛星画像を表示させた。


『了解、確認できた。後は、こっちで何とかする』

『イエス、マスター。無事を祈ります』




 ルディはハルとの連絡を終えると、横を歩いていたルイジアナに話し掛けた。


「ルイちゃん。もし、盗賊がこちらを狙っている言ったら、僕の言うこと信用しろですか?」


 ルディの話に彼女だけではなく、レインズとハクも足を止めて振り向いた。


「……もしかして居るの?」

「まだ離れているけど近づいてろです。ついでに、僕たちの後を追跡している斥候みてーなのも居るですよ」

「本当か?」

「嘘じゃねーです」


 レインズの確認にルディが頷く。


「ここまでルディ殿の早期発見で助かっておるから、多分本当なんだろう。だが、どうやって見つけたんじゃ?」


 ハクの質問に、ルディが眉間にシワを寄せた。


「説明できねーです。僕の言う事、信用するかどうかは、お前らが決めやがれです」

「ふむ……レ、レイン、どうなさる?」


 ハクが偽名に戸惑いつつ質問する。


「……ルディ君。盗賊の規模は分かるか?」

「25人で全員徒歩ですね。ゆっくりこっちに向かってろから、後1時間ぐらいで来るかなー? です」


 ルディの報告にレインズが顔をしかめた。


「その数と正面から戦うのは愚策だな。隠れるにしろまずは後を追っている斥候を何とかする必要がある。ルディ君、斥候を摑まえられるか?」


 レインズは、この中で弓を使えるルディが一番最適だと判断して頼んだ。


「まかせろです」

「だったら頼む。それと殺さずに生かして捕まえて欲しい」

「もっちもちのロンです」

「もっちもち?」


 ルディの冗談が通じず、レインズが首を傾げる後ろで、何故かハクがウケていた。


「ルー君、姿を隠す魔法を掛けるね」

「ルイちゃん、助かれです」


 ルイジアナが隠蔽の魔法を唱えて発動させると、ルディの姿が半透明になった。


「大声を出したり、走ったりすると、魔法が解けるから気を付けて」


 ルイジアナの忠告にルディは頷くと、斥候を捕らえに向かった。




 ルディが街道を外れて草むらの中を進み、大きく迂回して斥候との距離を200mまで縮めると、左目のインプラントを望遠モードにして確認する。

 相手は、みすぼらしい格好の中年男性、武器は弓矢、レインズたちの様子を伺っているが、それ以外の場所も見回している。

 どうやら、ルディが離れた事に気づいて、探している様子だった。


(大きい方をしてると思っているのかな?)


 ルディが下品な事を考えながら弓を構える。

 狙うのは足。外したら逃げられるから一発勝負。


 ルディは構えながら大きく深呼吸すると、集中して矢を放った。

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