第104話 エルフの伝承

「あれ? 僕、ルイちゃんにエルダー人って言ったですか?」


 ルイジアナに言われるまで、ルディはケロっと忘れていた。


「一度だけルー君がレインズ様を風呂に誘った時に、捨てセリフで言いましたよ」

「もしかして差別的な失礼な言い方でした?」


 ルディが謝罪する前に確認すると、ルイジアナが頭を左右に振った。


「いいえ、違います。ただ、何百年も言われていないエルフ族の本当の名称だから驚いたの」

「なるほどです」

「それで、何でエルフに向かってエルダー人って言ったのか、教えてくれるかしら?」

「うーん。そーですねー」


 その質問にルディが悩む。

 この星の人類が宇宙から来たのは別に秘密でもなんでもないから、言うのは構わない。だけど、証拠を見せろと言われたら、自分が宇宙から来た事を言わなければいけないけど、当然それは言えない。

 適当に胡麻化そうにもルイジアナの深刻な顔から、どうやらただの世間話ではなく一族にまつわる重要な話らしい。


 という事で、自分の正体については嘘を吐き、真実を話す事にした。


「この星にすむ人類はエルフを含めて、元々宇宙から来やがったです」

「……⁉」


 ルディの話にルイジアナが驚き、大きく目を開いた。


「僕とししょーは、それを調査するために、あの森に居たのです」


 もちろん嘘。ルディとナオミが出会ったのは、ただの偶然。


「……遺跡。もしかして、あそこに家を建てたのは近くの遺跡を調査するため?」

「そのとーりです」


 これも嘘。あそこに家を建てたのは、ただの偶然。


「だけど、あの遺跡には斑という…まさか!」


 声が大きくなったルイジアナに向かって、ルディが自分の唇に人差し指を当てた。


「声が大きい黙れですよ。残念だけどこれ以上の事は、まだルイちゃんには秘密です」

「……そうですか」

「……ルイちゃん?」


 黙ったまま考え込むルイジアナにルディが話し掛けると、彼女は顔を上げてエルフに伝わる口伝の一節を語りだした。




「『遥か昔、我々エルダーは多くの種族と共に天翔ける船に乗り、マナの溢れる世界に到着した』……これは昔からエルフに伝わる伝承の一節です。もし、天翔ける船というのが空ではなく宇宙だとしたら、ルディの言っている事は間違っていません」

「……驚いたです。人類、800年前に魔族に襲われて一度滅びかけた時、それ以前の歴史全て失った、思っていたです」


 そうルディが言うと、ルイジアナが頷いた。


「確かに、800年前の魔族襲撃時に多くの歴史が失われました。だけど、エルフは人間と比べて3倍近い寿命があるので、口伝として残っていたのです」

「なるほどです」

「そして口伝には、『我々を忘れられた名前で呼ぶ人間に、エルフの秘宝を渡せ』と最後に綴られています。つまり、ルー君は私をエルダー人と言った時点で、秘宝を受け取れる資格を得たのです」


 秘宝と聞いて、今度はルディが驚き目を大きく開いた。


(秘宝が何か分からないが、もしかしたらビアンカ・フレアが墜落した原因が分かるかも!)


 腕を組んで考えるルディに、ルイジアナが話し掛ける。


「ルー君どうかしましたか?」

「ルイちゃん。ビアンカ・フレアって単語に何か心当たりあるあるですか?」


 試しにルディが巡洋艦の名前を口にすると、ルイジアナは人差し指を顎に当てて考えた。


「そのビアンカ・フレアには心当たりないですね……あ! そう言えば、奈落様の家に居た召使の名前はソラリスさんでしたっけ? その名前なら伝承の中で守り神として登場しています。奇遇なのかしら?」


 ビアンカ・フレアはヒットしなかったけど、ソラリスの単語が出てきた事で間違いないと確信した。


「ルイちゃん! エルフの秘宝、見せやがれです」


 そうルディが言うと、ルイジアナが微笑んだ。


「私もルー君に秘宝を見せる必要があると思っていました。すぐにとは言いませんが、私と一緒にエルフの里まで来ませんか?」


 もちろん行きたい。だけど、好奇心旺盛なナオミが絶対に付いて行くと思って、ルディはナオミの同伴許可を求める事にした。


「ししょーも一緒で良いですか?」

「うーん……奈落様もルー君と一緒に研究しているという事は、エルフをエルダー人だと知っているのですから、彼女も資格がありますね……問題ありません」


 そう言ったけど、本当はナオミの魔法に惚れていて、一緒に居たいのが本音。


「ルイちゃん、ありがとうです」

「いえいえ。でも、できれば里へ行く前に、ルー君が調べた調査結果を私も知りたいです」

「そーですね……レインズさんが領主様になったら、時間あるですか?」

「大丈夫ですよ。私は魔術師としてハルビニアに雇われていますが、そこまで地位は高くないのでわりかし自由です。だから、一筆書いて報告すれば、お暇をもらえると思います」

「だったら、これ終わったら家に来やがれです。そこで色々教えてやろうです」


 あと少しで魔法が使える様になるルディは、魔法使いのルイジアナが家に来れば、ナオミと違う観点で魔法を教わる事が出来ると考えて、彼女を家に招くことにした。


「是非、お願いします。あの家は住み心地が良いですから、もう一度行きたいと思っていました」

「それとですね……」


 ルディはそう言うと、もじもじとと上目でルイジアナを見る。

 彼女は「何これ可愛い!」と少年愛に目覚めそうになるが、気を引き締めた。


「何かしら?」

「ししょーの移転魔法? あれ、国に言うのやめて欲しいです」

「……もしかしたら、奈落様は、あの魔法を広めたくないのかしら?」


 逆に質問されて、ルディが頷き返した。


「そんな感じです」

「分かりました。国への報告はやめましょう」

「ルイちゃん、ありがとうです」


 心の重荷が取れたルディが破顔して飛びっきりの笑顔を見せると、とうとうルイジアナが少年愛に堕ちた。


 こうして、2人は約束した後、何事もなかったかのようにレインズたちの元に戻った。

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