第103話 猫殺しのねこまんま

「ルディ君、今日の夕飯は何だい?」


 料理をしているルディにレインズが様子を見にきた。


「たまねぎの味噌汁に棒鱈とご飯を入れろ、ぶっ掛けねこまんまです」


 ルディはレインズに答えると、味噌を溶かして味を確認する。


「うーん、デリーシャスです。たまねぎと味噌汁の相性は甘くて幸せなですよ」

「ふむ。そう言われると美味しそうに聞こえるな」


 レインズはルディの物言いが面白かったのか笑っていた。


「期待して待ちやがれです」


 鍋に刻んだ棒鱈を入れて鍋に蓋をする。後は先に入れたご飯が煮えるを待つだけだった。




「出来上がったです」


 全員が鍋を囲んでルディが鍋の蓋を開けると、味噌汁とたまねぎの匂いが辺りを立ち込めた。


「すごく良い匂いですね」


 味噌汁の優しい匂いに、ルイジアナが鼻をひくつかせた。


「うむ。初めて嗅ぐ匂いじゃのう。この茶色い調味料は何で出来ているんじゃ?」

「大豆と塩と麹です」


 ルディの返答にハクが驚いた。


「何と、馬の餌で作るのか⁉」


 この国でも大豆を食べるが主食は麦で、大豆は主に家畜の餌になっていた。


「食べる前に、これをかけろです」


 ルディは料理を深皿によそってから、鰹の削り節を飯の上にかける。すると、削り節が湯気で踊る様に動いた。


「これで、ぶっ掛けねこまんまの完成です」


 ルディはねこまんまと言ったけど、この料理は塩分が高いし、たまねぎは猫が食べると中毒症状を起こすので、猫に食べさせるのは絶対に駄目。


 料理が行き渡って待ちわびた皆が一斉に食べ始める。


「うむ、この味噌という調味料だけじゃなく、たまねぎの甘さに魚の風味、下品だが米と一緒に掻っ込んで食べると実に美味い」


 ハクはスプーンで一口食べると、これでは物足りないと料理を掻っ込んで食べ始める。


「簡単に作っていたから、外で食べるのに良い料理だと思うな」


 元騎士のレインズは、野外練習の時に食べた不味い飯を思い出して、ルディの料理を褒め称えた。


「美味いですね!」


 ルイジアナは料理の事になると語彙力が無くなる。


「お替わりあるから、好きなだけ食べやがれです」


 ルディが言うまでもなく全員がお替わりをして、鍋のねこまんまはあっという間になくなった。




 この日の夜も、先にルディとレインズが見張り番になり、2人はルディの入れたコーヒーを飲みながら色々な話をした。

 ちなみに、レインズは何度もルディからコーヒーを飲まされて、気が付いたらブラックコーヒーの中毒になっていた。


 レインズからは騎士の苦労話、貴族の食生活、王城での仕事などを話して、ルディの方は、森での生活、ナオミの魔法、カール一家との交流などを話した。

 そして、ルディが1年後にローランド国とレイングラード国の戦争が始まる話をしたら、レインズが驚いて大きく目を開いた。


「それは確かな情報か⁉」

「戦争、始まるかは分からんです。でも、ローランドは戦争の準備を始めてろし、レイングラードもカール師範が王様に話をする言ってたです」

「……ふむ」


 ルディの話を聞いてレインズが深く考える。


「ハルビニアの西側がローランドなのは知ってるか?」

「知ってろですよ」


 ルディはナオミと一緒に衛星写真を見て、国の位置を彼女から教わっていた。


「ローランドは西側の小国群を統一する前に、ハルビニアと不可侵条約を結んだんだ」

「後ろの憂いを失くぢやがれなためですね」


 レイングラード国はローランド国の西にあって、ローランド国に滅ぼされた国の1つが、ナオミと縁のあるフロートリア国だった。


「その通りだ。今はまだ良い、ハルビニアもローランドには負けるがそれなりの大国だ。だが、ローランドがレイングラードを滅ぼせば、国力が倍になる。そして、ローランドがそれで満足するとは思えん……」

「ローランドとハルビニアが戦争したらどうなるですか?」


 ルディの質問にレインズが頭を左右に振った。


「大国と大国の戦争だ。多くの人間が死ぬだろう……」


 呟くようなレインズの返答に、ルディは本気でローランド国を何とかしないと、面倒になりそうだと思った。




 夜が更けて、そろそろ交代という時間。

 宇宙から監視していたハルからルディに通信が入ってきた。


『マスター、1キロ先でそちらを監視している人物が現れました』

『人数は?』

『1人です』


 人数を聞いて、ルディが眉をひそめる。


『近寄っては来ないんだな』

『イエス、マスター』

(相手の正体は分からないが、近づいて来ず監視しているという事は、こちらを狙っているんだろうな)


 ルディはそう考えると、ハルに命令を出した。


『距離が遠い。それに、ただの旅人かもしれん。だが、監視は続けろ。もし盗賊の類なら今日は襲わずアジトに戻る。襲ってくるのは人数をそろえてからだろう』

『イエス、マスター。状況が変わり次第、報告します』

『頼んだ』


 ルディはハルとの通信を終えると、レインズたちに今の話を言うか悩んだが、警戒させて疲れさせるのも良くないと判断して、黙っている事にした。




 翌朝。ルディが目を覚まして近くの小川で顔を洗っていると、ルイジアナが近づいてきた。

 ちなみに、昨晩はテントの中で眠ったが、虫が入ってこないだけで快適に寝むれた。


「ルー君。大事な話があります」


 ルイジアナはそう言うと、周囲を見回して誰も居ない事を確認する。


「なーに?」

「何で私に向かってエルフと言わずに、エルダー人って言ったの?」


 小声で話しかけるルイジアナの目は、真剣な眼差しだった。

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