第102話 無駄に広がる草原

 ハルからの連絡を受けてルディが指定の場所に向かうと、調理器具だけでなく、大量の食料と水、それにテントなどが、木で作られた荷車の上に積まれていた。


(これはやりすぎだろ!)


 これだけあれば不自由なく旅を続けられるけど、レインズたちを説得するこっちの身にもなれと思う。ついでに、この星の文明レベルに合わせて作った荷車の、無駄なこだわりにツッコみを入れたい。


 ルディが立ち尽くしていると、彼を探しにレインズが来て、目の前にある支援物資を目にして立ち尽くした。


「ルディ君……これは?」

「えっと…ししょーの魔法……です」


 困惑しているレインズに、ルディも困惑しながら、昨日の夜にナオミが魔法で支援物資を送ったと説明する。もちろん嘘。


「奈落様の魔法か……」


 ルディの説明にレインズが唸る。

 食料と水を送ってくれたのは助かる。だけど、何も連絡していないのに支援するという事は、常にこちらの動きを監視しているという事なのだろう。

 そう考え込むレインズの様子に、ルディは疑われないかと体中から冷や汗を流していた。




 しばらくすると、ハクとルイジアナが合流して、レインズと同じく支援物資を見て困惑の表情を浮かべる。


「近くで魔法が発動したのなら、私の検知魔法で分かるはずですが、全く感じませんでしたね」

「……謎の多い魔女じゃのう」


 ルイジアナの話を聞いて、あご髭を撫でながらハクがのんきに呟くと、ルイジアナが彼を睨んだ。


「この瞬間移動の魔法が広まったら、大変ですよ」

「そうなのか?」


 首を傾げるハクにルイジアナが魔法の有効性について説明を始めた。


「まず、食料生産地から都心への物流が不要になります。それに、戦争でも補給路が不要になるので永遠に継続が可能です。レインズ様、この魔法は便利であり大変危険です。1人の魔女だけが持って良いモノではありません!」


 ルイジアナは国の事を考えて発言するが、本当は誰も知らない魔法を知っているナオミの事を尊敬していた。

 そして、話を聞いて事の重大さを知ったルディの体から、さらに冷や汗が流れる。


「まあ落ち着け。ルディ君、この魔法について詳しく話せるか?」


 レインズがルイジアナを宥めてから、ルディに質問する。


「話せねーです。それに、ししょー誰にも教えねえ思いやがれです」


 そう答えたけど、そもそもナオミは魔法なんて使っていない。全てルディの命令にハルがしたことである。


「そうか…だったら話はここまでだ。今はありがたく支援に感謝しよう」

「しかし、レインズ様!」

「ルイジアナ、今は王の命令が優先だ。やることを全て終ってから王に報告すればいい」

「……分かりました」


 レインズの命令に頷くルイジアナの後ろでは、ルディがマズイ事になったと顔を青ざめていた。


(王に報告とか、マジ、ヤベエ)


 そう思うけど、今はどうしようも出来ず、荷車を運ぶレインズたちの後をとぼとぼ付いて行くしかなかった。




 ハルが持ってきた食料を食べてから、西に向かって歩き出す。

 荷車をハクとルディが一緒に引いて、ルイジアナとレインズが監視しながら後ろを歩く。

 最初の目的地は、街道を西に進んだ先にある村に入って、そこで休憩と、食料を購入する予定だった。

 だけど、思わぬところから食料が手に入った事で、あまり自分の存在を知られたくないレインズは、村に立ち寄らず先へ進む事にした。


「ルディ君、これから俺はレインと名乗るから、そう呼んでくれ」

「だったら儂はハックとでも名乗るとするか」


 レインズは現領主の弟だとバレる事を杞憂して、ハクはこの土地の出身でそこそこ名前が知られているので、偽名を名乗る事にした。


 荷車を押して街道を進む。

 街道の左右は草原に囲まれており、平坦な地が続いていた。


「のどかです」


 森と違ってまっすぐな街道を、荷車を押すだけの簡単なお仕事にルディが呟くと、隣のハクが笑いだした。


「森を抜けると魔獣がおらぬからのう。だけど、まれに夜盗が襲ってくるから油断はするでないぞ」


 笑って話す内容じゃないと思う。そう思ったけど、言い返すのが面倒なので素直に頷いた。


「草原ばっかだけど、なんで畑作らねえですか?」


 どこまでも続く草原にルディが質問をすると、その質問が変だったのか、ハクの眉間にシワが寄った。


「変な事を言うもんじゃな。水がなければ作物は成長せぬじゃろう」


 その返答にルディが「なるほど」と頷き返す。


 ハクはルディが農業について全く知らず、水が無いと作物が育たないと理解したと思い、ルディの方は、どうやらこの国では、まだ灌漑農業まで文明が発達していないと理解した。


(こんなに広い土地があるのに、もったいないな)


 ルディは湿気の少ない風に靡く、緑の草原を見ながらそう思った。




 夕方になる前に、小川が流れる場所を見つけて、今日はここで野宿をする。

 食料は豊富にあるので、ルディは野うさぎを狩らずに、テントの張り方を教える事にした。

 教えると言っても、テントを広げて中で折り畳みの棒を広げれば、あっという間に完成。

 オーバーテクノロジーのテントにレインズたちが驚いていた。

 ちなみに、テントはただの布に見せかけているけど、本当は防水仕様。


「夕ご飯作るのです」


 テントを張り終えて、ルディが料理を作り始める。

 荷物から七輪と炭を取り出すと、ライターで火をつけた。


「ルー君、それは何?」


 ルイジアナが七輪とライターを見て質問をする。


「…ししょーの発明品です」

「……奈落の魔女すごい」


 ルディの嘘に、ナオミに対するルイジアナの信仰心が上昇した。

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