第106話 通行税?
ルディが矢が外れた場合を考えて走り出す。
放たれた矢は200mの距離をまっすぐ飛んで、斥候の左ふくらはぎに命中。
斥候が地面を転げ回り叫び声を上げた。
叫び声が聞こえて、どうやら矢が命中したらしいと、ルディは走る速度を落して近づいた。
「こんにちはです。大丈夫ですかー?」
「ぐう…うぅ!」
傷害犯人が優しく話し掛けても、恨まれるか怖がられるだけ。
斥候はルディが背負う弓矢を見てコイツが犯人だと知り、矢の刺さったふくらはぎを両手で抑えながら、ルディを睨んだ。
「毒は塗ってねえから、安心しやがれです」
ルディは斥候に近づくと、いきなり矢を掴んで、肉が裂けるのをお構いなしに一気に引き抜いた。
「ぐわぁぁぁ! 何すんだバカヤロウ!」
「じわじわ抜いた方が良かったですか? マゾですね」
「良くねえよ! それにマゾでもねえ!」
ルディが問いかけると、斥候が怒鳴り返してきた。
「うるせえです。昨日から僕たちを伺ってた知ってろですよ。詳しい話聞かせやがれですから、覚悟しろです」
昨晩からこちらを知られていたと聞き斥候がぎょっとするが、それを無視してルディが斥候の後ろ襟を掴むと、ずるずると地面を引き摺ってレインズたちが待っている方へ向かって歩き出した。
「おい、待て! クソ、ガキのくせになんて力だ、って痛てえよ!」
斥候は逃げようにも足の怪我で逃げられず、地面を引き摺られながら叫び声んでいた。
「レインさん、容疑者確保です」
「お、おう……」
ルディの報告にレインズが顔を引き攣らせる。
彼はルイジアナの魔法の支援があったとしても、ルディのハンターとしての腕前に驚き、本当に自分たちの後を追尾している人間が居た事にも驚いていた。
「さて、お前に聞きたいことがある。正直に答えたら命だけは助けよう」
「……チッ!」
レインズが斥候に話し掛けると、彼は悔しそうに舌打ちをした。
「ツン」
突然ルディがしゃがんで、斥候の矢が刺さった傷を指先で突つく。
「うぎゃぁぁ! な、何しやがる‼」
「態度が悪りーです」
そう言ってルディがにっこりと笑う。
その笑顔は逆効果。斥候は虫すら殺せない美少年が、笑いながら虐待してくる事に背筋が凍った。
「ルディ君、待て。話が出来ない」
「そう言えばそうでした。なんとなく虐めたくなったです」
レインズに止められて、ルディが引き下がる。
「仲間が失礼したな」
「全くだ!」
その態度にルディが近づこうとするが、背後からハクに肩を叩かれて、しぶしぶ引き下がった。
「さて、質問しよう。何故、俺たちを襲おうとする?」
「はっ! 襲うのに理由が必要かよ」
「ただの盗賊という事か」
「うるせぇ! このままだと村の全員が奴隷落ちになるんだ、生きるために他所から奪うしかねえだろ!」
その言い返しに、レインズは眉をひそめると斥候の前にしゃがんだ。
「詳しく話せ」
「てめえ、よそ者か? 税金がまた上がったんだよ。今度は奈落の魔女による被害の補填だとさ! 今でもギリギリだったのに、これ以上はさすがに払えねえ。だから村の皆で話し合って、通行税を取る事に決めたんだ」
「通行税?」
「ああ、通行税だ。別に命まで奪うつもりなんてねえよ。少しだけ金を恵んでくれれば、何もしないで通らせるさ」
「そんな事をしたら、兵士が押し寄せて来るじゃろ」
斥候の話を聞いていたハクが呆れた様子で、話に割り込んできた。
「はっ! とっくに了承済みだぜ。ただ、見逃す代わりに金を要求されたけどな」
レインズが領地の酷さに眩暈がして眉間を抑えた。
「ここまで酷いとは……」
「レインどうする?」
ハクの問いかけに、レインズが肩を竦める。
「金で解決できるなら、戦う必要はないだろう」
「確かにそうじゃのう」
「それに盗賊と言っても元は領民だ」
「今も領民だよ。ただし、真面目に働いても税金が払えないって、おまけが付くけどな」
レインズは王太子から依頼を受けた時に、支度金としていくらか貰っていたので金銭に余裕があり、よほどの大金をせびられなければ、交渉で何とかするつもりだった。
「確かにそうだな。元はと言えば、今の領主が全て悪い」
「分かってるじゃねえか」
どうやら命が助かるらしいと、斥候が緊張をほぐした。
「ルイジアナ、この男を治療してやれ」
「分かりました」
レインズの命令に、ルイジアナが斥候に近づいて回復の魔法を詠唱する。すると、矢の刺さったふくらはぎがじわじわと回復し始めた。
「……あんた、魔法使いか」
回復の魔法は完治するまで詠唱を続ける必要があるため、ルイジアナは返答せずに頷き返した。
「アンタらと戦わずに済みそうで助かったぜ。少しまけるように話しとくよ」
「そいつは助かる。それと、もし余っている馬があれば購入するぞ」
レインズは荷車の運搬用に、馬の購入を考えて、斥候に話をする。
「馬はとっくの昔に税金で没収されてるぜ。だけど、老いたロバなら金にならねえって理由で1頭残ってるぜ」
「それでも構わない」
話している間にルイジアナの治療が終わって、斥候が立ち上がった。
「俺もアンタらに付いてくよ。この先の丘を越えた先に、木が1本だけ生えている。ここに居たら日差しが強くてバテちまう、村の皆が来るまで、そこで休もうぜ」
「そうしよう」
こうして、ルディたちは斥候を連れて、木陰で休憩する事にした。
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