第101話 ナオミの支援?

 ナオミの家を出てから2日目。

 昨晩はムカデの襲撃で大半の荷物を失ったが、早く森を出ようとルディたちは西へと歩き続けていた。

 この日はレインズから「今日は戦闘を避けたい」と言われていたので、ルディは安全なルートを選び、敵との遭遇はなし。


 移動の途中でルートを少しだけ外れて小川で水分補給をしたり、ルディが左目のインプラントで野うさぎをを見つけて、弓矢で仕留めたりする。


 昼飯はルディの仕留めた野うさぎの串焼きと、レインズたちが持っていた黒パン。

 レインズたちの荷物もムカデで潰されていたけど、何故か黒パンだけは無事だった。

 ルディはどんだけ固いパンだと思ったけど、実際に齧ったら小麦粉を固めて焼いただけの本当に固いパンだった。

 本来ならば、この黒パンはスープに浸して食べる物だけど、鍋がないから肝心なスープが作れず、けれど唯一の炭水化物だから食べなければ力が出ないと、仕方がないのでボソボソ食べた。


(この星で暮らす人間の食料を初めて食べたけど、俺の料理が絶賛される理由が分かった)


 ルディは町に行く目的の1つに、現地の料理を食べるという目標があったけど、黒パンを食べて過度な期待をするのをやめた。

 ちなみに、野うさぎの串焼きは、下味に塩をまぶして、焼いた後にルディが持っていたマスタードとマヨネーズをつけて食べたら、全員から絶賛された。


 昼食後もひたすら森の中を歩き、太陽が西に落ちてもルイジアナの魔法の明かりを頼りに歩き続ける。

 そして、ルディの指時計が午後8時を迎える前に、なんとか森の外へ出る事ができた。




「やっと抜けられたな」

「うむ。かなりの強行軍だったけど、何とか無事に出られましたな」


 レインズが振り返って森を眺めながら呟き、ハクが応じる。

 ルイジアナは疲労で何も答えず、ルディは今夜のメニューを考えていた。


「ルディ君。ここはどの辺りだ?」

「森の入口の村から約2キロ南です」

「ふむ。2キロか……火を使うと見つかる恐れがあるな」


 森の入口の村では、村の惨劇を隠すために数人の兵士が常駐しており、正体を隠したいレインズは彼らに発見されるのを嫌がった。


「もう少し先に進めば、村との間に丘があるから、火を使ってもバレねえですよ」


 ナイキからのGPSで現在地を確認してルディが話し掛ける。

 ちなみに、ルディの言う丘は、ナオミが魔法を発動させて兵士の目と耳を潰した場所だった。


「そうなのか?」

「そうなのです」

「となると、問題は水か……」


 そう言ってレインズが顔をしかめる。

 ルディの持っている象が踏んでも潰れない水筒は無事だけど、レインズたちが持っていた皮の水袋は、ムカデに押し潰されて破けて使い物にならず、今はルディの水筒の水を全員で回し飲みしていた。


「ルディ殿、どこか水のある場所を知っているか?」


 ハクの質問にルディが頭を横に振る。


「村の北側に池があるですが、こことは逆の方向です」

「だとすると、水は諦めるしかないな」


 レインズがため息を吐くと、上空から何かが落ちてきた。




 全員が何事かと警戒して落下物を見れば、ルディが持っている水筒と同じ物が草むらに落ちていた。

 ルディが水筒を見て、ハルの仕業だなと考えていると、そのハルから連絡が入る。


『マスター、ドローンを使って水を用意しました』

『……あ、うん。見れば分かるけど、やばくね?』


 確かにハルに水を持ってこいと頼んだけど、まさかここまで露骨な方法で届けてくるとは思わず冷や汗を掻く。


『ルイジアナの検知魔法は対象物のマナを感知する技なので、マナの無いドローンは検知できません。それと、ドローンはマスターの上空200mを飛んでいます。通常の人間では夜だと目視できません』

『なるほどね。とりあえず、ししょーの魔法と言う事にするよ』

『それで宜しいかと思います。彼らが疑わなければ、明日までに調理用具と食料を運びますので、上手く誤魔化してください』

『……頑張る』


 ハルとの連絡を終えてルディが水筒を拾おうとすると、未だ警戒しているハクが、声を荒らげて止めようとした。


「ルディ殿、危険だから離れるんじゃ」

「安心するです。これ、ししょーが魔法使って水、寄越しやがったです」

「本当か?」

「本当です」


 もちろん嘘。

 ちなみに、ナオミはソラリスの作ったホッケの干物を食べながら、焼酎の梅干し割りを飲んで、酔っ払っている真っ最中。


「そんな魔法聞いた事ないぞ。ルイジアナは知っているか?」


 レインズの質問に、ルイジアナが険しい表情で頭を横に振った。


「いいえ。物体を瞬間移動させる魔法なんて聞いた事ありません。だけど、奈落の魔女は常人では理解できない魔法を使うと聞いております。これもきっと、彼女が作ったオリジナルの魔法なのかと……」


 ナオミの魔法を崇拝し始めているルイジアナが勘違いする。


「さすがは奈落の魔女といったところか……」


 レインズは半信半疑だったが、とりあえず水が確保できた事で無理やり自分を納得し、また知らぬところでナオミの株が上がった。


「とりあえず、今晩はこの水で耐えやがれです」


 そうルディが言うと、ハクが頷いた。


「そうじゃな。これだけあれば何とか耐えられるじゃろうて」


 こうして無事に水を確保したルディたちは、先ほど教えた丘の裏側で野営をして朝日を迎えた。




 翌朝。ルディが目を覚ますと同時に、ハルから連絡が入ってきた。


『マスター。昨日は上手く誤魔化せましたね』

『バレるかと思ってヒヤヒヤしたよ』

『どうやら問題ない様子なので、壊れた調理用具と食料を運びました。言い訳はまたナオミの魔法という事にしてください』

『師匠ごめんなさい』


 またナオミのせいにして、ルディは後で彼女に叱られるなと思った。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る