第75話 拒絶反応
試しにとルディが一切れの鹿肉をゴブリン一郎に与えてみれば、鹿肉の美味さにゴブリン一郎の目が輝いた。そして、もっとくれと口を開けて催促してきた。
「ゴブリンでも味覚があるですね。どこかのポンコツメイドとは大違いです」
ポンコツメイドとはソラリスの事。
ルディがゴブリン一郎の前で鹿肉を左右に揺らすと、ゴブリン一郎の顔も左右に動く。ひょいっと鹿肉を放り投げると、首を伸ばしてパクッと食べて美味しそうに咀嚼した。
「ギギャー(こんな美味しいお肉初めて)」
「よーく見ると、コイツ、結構可愛いです」
そう言って、ルディがゴブリン一郎の頭をなでなですると、彼はもっと肉を寄越せと手に頭を擦りつけてきた。
「ゴブリンを可愛いと言う人を初めて見た」
「ぶさかわいいと言うヤツです。殺すのが惜しくなってきたですよ」
ルディの返答にフランツの顔が引き攣った。
「やっぱり殺すんだ……僕はゴブリンを可哀そうに思えてきたよ」
ルディは腹いっぱい肉を与えた後、フランツに頼んでゴブリン一郎を魔法で眠らせた。
そして、縛っていたゴムホースを解いて、ゴブリン一郎を担ぎ上げた。
「ねえ、そのゴブリンどうするの?」
「んー」
フランツの質問にルディが首を傾げる。
正直な事を話すと教育上問題があると考えて、胡麻化す事にした。
「聞かない方が良いです」
「そ…そう……」
フランツは地下へ向かうルディの後ろ姿を見送りながら、ゴブリン一郎に向けて十字を切った。
ルディはフランツと別れた後、地下の手術室に入り、ゴブリン一郎を手術台に乗せる。そして、両手足を手術台に固定した。
「ふふふ、痛くしないから安心しろです」
ノリに乗ってルディが怪しく笑い、指をくねくねさせる。
「まずは師匠の薬が人間以外にも効くかの実験でs」
ルディは麻酔薬の入った注射器を腕に刺した後、確認のためにゴブリン一郎の頬を抓った。
ルディは、寝ている相手にいたずらするのが好きらしい。アルフレッド、カールに続いて、ゴブリン一郎が三人目に犠牲者になった。
「では失礼するです」
ルディは最初に血を採取すると、メスでゴブリン一郎の腕を切ってから、ナオミの薬をかけた。
その結果、傷から白い泡が立ち、泡をペーパーで拭くと傷が綺麗に塞がっていた。
「予想した通り、ししょーの薬は人間、ゴブリン関係ねえけど、対象者にマナがないと効果がないです」
自分とは異なり、薬がゴブリン一郎に効いた事で、ルディが仮説を立てる。
この薬に含まれているししょーのマナ自体に回復の効果はない。そして、回復の仕方から血小板を増やしているとも違う。おそらく相手の体内にあるマナを変化させて、傷を治しているとは思うが、生物の自然治癒とは異なった方法だ。
ルディはゴブリン一郎のぷにぷにしたお腹を突きながら、マナについて悩む。
「そう言えば、マナはウィルスだったです。だとしたら、師匠のマナが相手のマナのDNAを改ざんしている可能性が考えられるですね。その改ざんされたマナが自身の生存本能に従って、自然治癒とは違うやり方で治療するですか? 火を出したり水を出すぐらいなんだから、マナだったらこれぐらい楽勝だろです」
ルディは再びゴブリンの血液を採取すると、それをドローンに渡した。
「ハル、両方の血液に含まれているマナのDNAを調べろです。おそらく差異があるはずです」
『イエス、マスター』
ルディの命令に、カメラで観察していたハルが返答した。
「じゃあ、次はコイツです」
ルディがマナのワクチンを入れた注射器を取り出す。
「さて、この星の生物に打つのは初めてです、どんな反応するか楽しみですよ」
ルディは「むふふ」と笑って、ゴブリン一郎の腕にワクチンを注射する。
しばらく観察していると、ゴブリン一郎の体がビクンと跳ねた。
「おろ?」
予想外の反応にルディが驚く。
すると、手術台に縛られたゴブリン一郎が暴れ始めた。
「ギャー(痛い)! ギャー(苦しい)! ギャー(死んじゃう)!」
『マスター。ゴブリンのバイタル値が低下中、このままでは危険です』
「体内のマナが急速に減って、拒絶反応が出たなです」
突然、麻酔から覚めてゴブリン一郎の瞳孔が開く。
暴れるゴブリン一郎の様子を、ルディはじっくり観察していた。
『このままだと死にますが、どうしますか?』
「治す方法があるですか?」
『ございません』
「なら、諦めろです」
ハルと会話している間も、ゴブリン一郎は口から泡を出し、激しく暴れ続けていたが、突然ガクッと頭を垂らして動かなくなった。
「死んだですか?」
ルディが頸動脈に触れて確認すると、脈を感じずどうやら死んだらしい。
「うむ……電気ショック開始です」
ルディの命令にドローンが動き出して、ゴブリン一郎に電気ショックを与えた。
電気ショックを与え続け、4回目でゴブリン一郎が息を吹き返した。
「無事に蘇生おめでとうです」
無事ではないと思うが、ルディは生き返ったゴブリン一郎の頭をなでなでする。そして、再びゴブリン一郎の血液を採取した。
「ハル、コイツも検査しとけです」
『イエス、マスター。そのゴブリンは如何しますか?』
ハルの質問に、ルディはうーんと考えて口を開いた。
「とりあえず、まだ使えそうです。コールドスリープで眠らせておけです」
『イエス、マスター』
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