第76話 ローランドの野望
ドローンが気絶したゴブリン一郎をベッドに運ぶ。
ルディはそれを見送ってから、そろそろ夕食の準備をしようと手術室と出た。
移動中に地下に入ってきたナオミと遭遇する。彼女の後ろには、カールとニーナが付いて来ており、どうやら三人で秘密の話をしようとしているらしかった。
「お、ルディ。丁度呼ぼうとしていたところだ」
「ししょー、何か用ですか?」
「うむ。今後の話をしようと思ってな。ルディも話に参加してくれ」
「分かったです」
ルディは頷き返すと、無線通信でソラリスに連絡を入れて、肉切っとけと指示をだした。
地下のリビングに全員が座ると、ルディが全員分のコーヒーを用意した。
「これがコーヒーね」
ニーナがカップを持ち上げてコーヒーの匂いを嗅ぎ、ルディに話し掛ける。
「もう知ってろですか?」
「苦いけど香が良いってフランツから聞いたわ。確かに良い香ね」
彼女はそう言うと一度カップを戻してから、ガムシロップとミルクを大量に投入した。
「ざんねんです」
ドッキリが失敗してルディが落ち込むと、その様子にナオミたちが笑った。
「それで奈落、俺たちに話とは何だ?」
カールがナオミに話を振ると、彼女は気難しい表情をして口を開いた。
「ソラリスから状況を聞いた。ニーナのリハビリは順調で、後2日ぐらいで旅に出ても問題ないらしいな」
「おかげさまでね。本当にルディ君とナオミ、あとソラリスには感謝しているわ」
ニーナはそう言うと、ルディとナオミ頭を下げた。
「うむ。それで、お前たちが旅立つ前に言わなければいけない情報が1つある。カール、ここに来た時に、お前が預かった手紙を運んできたのを覚えているか?」
「覚えているぜ」
「あれはローランドに住む私の知り合いからの手紙だ。その手紙にはローランドが戦争の準備を始めたと書いてあった」
その話に、カールとニーナが驚いた。
「もう次の戦争を始めるのか!」
「前の戦争からまだ3年しか経ってないのに……」
驚く二人とは逆に、この星の世界情勢を知らないルディが首を傾げた。
それを察したナオミが、ルディに説明をする。
「ローランドという国は、元々中規模程度の領土を持ったどこにでもある普通の国だったんだ。だが、13年前に国王が代替わりすると、周辺の国に戦争を仕掛けて全て勝利し、今では戦争前と比べて10倍の領土を持っている」
「その国王、戦争好きですか?」
ルディの質問にナオミが苦笑いを浮かべる。
「そうだな。この大陸の全てを制覇したいと思うぐらい、戦争が好きなんだと思う」
「強欲な王様です」
「ああ、強欲だ。それで話を戻すが、ローランドが次に狙っている国は、レイングラード、お前たちの国らしい」
それを聞いたカールがため息を吐き、ニーナは頭を左右に振って現実を拒否した。
「ローランドが次に狙うのは俺たちの国なのは、何となく予想していたよ」
カールが肩を竦める。
「まあ、戦争の準備と言っても始めたばかりだ。前回の戦争が終結してまだ2年。国内の治安は悪化して、景気もそこまで回復していない。前の戦いで合併した領土では反乱分子が活動している。宣戦布告まではもう少し時間が掛かるだろう」
「とは言っても、あのローランドだ。必ず戦争はしてくる」
カールがそう言い返すと、ナオミがその通りだと頷いた。
「準備に1年ぐらいと私は見ている。前の戦争の時も、その前の戦争から3年以内で開戦した」
「レイングラード、どことも同盟結んでねえですか?」
「数カ国と結んではいるが、それでもローランドには勝てないと思う」
ずっと話を聞いていたルディが話に割り込んで質問すると、カールが答えた。
「何でですか?」
「ローランドは12年前に侵略して合併した、フロートリアの魔法技術を持っているんだ」
カールに代わって、今度はナオミが質問に答える。ナオミがフロートリアの出身だと知っているカールとニーナが、複雑な表情を浮かべた。
「魔法技術ですか?」
「そうだ。フロートリアという国は魔法産業に優れている国でね、古代魔法や魔道具も研究していた。そして、その研究していた魔道具の中に、戦争で使う武器も含まれていたんだ」
「どんな武器です?」
「銃という武器だ」
ナオミがそう言うと、ルディに「知っているだろ」と視線を飛ばした。
何、この星。生活レベルは原始時代なのに、もう銃を作ってるのかよ。
銃の存在を知ったルディが目を見張る。
宇宙人のルディからみれば、中世だろうが近代だろうが、宇宙に進出していなければ全て原始時代と同等。
過去の人類史から、この惑星の文明ではまだ銃がないと思っていたのに、存在していると聞いて驚いた。
『ハル、聞いていただろう。この星に銃があるってよ』
『あれが銃ですか?』
ルディが無線でハルに確認すると、疑問の返答がきた。
『お前、知ってたのか?』
『イエス、マスター。この惑星を調査しているときに確認しています。恐らくですが、あれは弾丸の代わりに魔法を発射して、火薬でも電気でもなくマナを使用しています』
『マジかよ。マナ、何でもありだな』
『ですから、あれはナオミが使用している杖と同類と思っていました』
『なるほどね』
突然無言になったルディの様子を全員が伺っていると、ハルとの通信を終えたルディが口を開いた。
「銃の構造、詳しく教えろです」
ルディの質問にカールが頭を左右に振る。
「俺は詳しく知らない。奈落、お前は知ってるか」
「知ってる。あれは命を削る武器だ」
命を削ると聞いて、全員が険しい表情に変わる。
「構造は私が持っている魔法の杖と似ているが、あれはマナを増幅させて遠距離に特化した魔法を放つ。問題は増強させる方法だ」
「銃が増強させる違うですか?」
首を傾げるルディに、ナオミが頭を左右に振って続きを話した。
「違うな。あれは使用者の生命エネルギーを削ってマナを増やしている。実際に銃を使った人間は、寿命が短くなるらしい」
「意味分かんねーです。そんな武器、誰も使いたくねえですよ」
「だからローランドの兵士の大半は、合併した国から徴兵した奴隷だ。彼らは命令に従うしかなく、戦争に参加している」
ナオミが話し終えると部屋が静まり返った。
カールとニーナは自分たちの国が征服された後の事を思い、ルディはハルと今の話を確認していた。
『ハル、生命エネルギーって何だ?』
『さあ、分かりません。だけど、寿命が短くなると言う事は、細胞の酸化か糖化が増大する何かが発生している可能性があります』
『うーん、だったら酸化かな。体内の酸素が酸化して細胞から電子イオンを発生させ、それがマナを増幅させるとか?』
『いや、糖化の可能性もあります。体内のブドウ糖から分解されるエネルギーを使用して、それがマナを増幅させる。その際に細胞が激しく糖化して、老いを増幅させる可能性もあります』
『両方ともありえそうだけど、確実じゃないなぁ……』
ルディがハルと会話していると、ナオミがカールに話し掛けた。
「カール、ニーナ。戦争が始まったら私も参加する」
その発言に全員が驚き、彼女に注目した。
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